シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

鎌倉女学院中学校

2024年04月掲載

鎌倉女学院中学校の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.人類の文化遺産を伝えることが大事

インタビュー3/3

授業や学校の活動についてお聞きします。教養や感性を身に付けてほしいという先生の思いを強く感じますが、鎌倉女学院の国語科として大切にしていることがあればお聞かせください。

清水先生 私が鎌倉女学院の教員になって先輩から教えてもらったことのうちの一つに、人類の文化遺産を伝えていくことが大切なのだ、ということがあります。教員になりたての頃は自分に自信がないので、何を生徒に教えたらいいんだろう?と日々迷っていました。そんな時に、先輩の先生から「自分が何を教えるかではなく、自分が受け継いだ人類の文化遺産を伝えていくという喜びが教師にはあるんじゃないか」と言っていただき、まさにその通りだと感じたんです。

それを考えた時に、この鎌倉という土地は自然も豊かで歴史も感じられる素晴らしい場所であって、一歩外に出れば史跡がありますし文学の舞台もあります。たとえば高校2年生で夏目漱石の『こころ』を学びますが、最初に「先生」と「私」が出会うのは由比ヶ浜という学校のすぐそばの海なんです。そういう物語の舞台になるところに学校があること自体がすごいことだと思っていて、人類の文化遺産を伝えていくのには最適な環境で教えられることに喜びを感じるようになりました。

鎌倉にゆかりのある著名な作家に触れることによって、教科書では得られないことが学べると卒業した生徒もよく語ってくれています。「鎌倉という土地は文豪たちと関係が深く、さまざまな課題活動を通して文学の歴史が学べた」という生徒、また「作家や人物背景や環境を踏まえて読めるようになり読書の形が変化した」と語った生徒もいます。

ですから、私は鎌倉という土地のメリットを活かした教育をもっと行っていきたいと思っています。

鎌倉女学院中学校 陸奥ホール

鎌倉女学院中学校 陸奥ホール

創作活動を通じて発信力や表現力を鍛える

課外授業やイベントなどの取り組みについてはいかがですか?

清水先生 鎌倉女学院は今年で創立120周年になります。それで創立120周年記念鎌倉女学院校内文芸コンクールを開催します。部門は「文学部門」と「芸術・科学部門」にわかれていて、文学部門は俳句・短歌・詩・小説・漫画の5種類、芸術・科学部門は美術・書道・写真・動画・理科スケッチで、審査員には鎌倉や鎌倉女学院にゆかりのある先生を招いて行います。

小説に関しては鎌倉在住の小説家、高橋源一郎先生が審査してくださるということになりました。先日、中1から高2までの生徒54名が集まって先生の講義を受け、実践的な文章の書き方を学びました。高橋先生は「何でも自由に書いていい。自分が小説だと思ったらそれが小説だから」と仰っていたのがとても印象的でした。また、漫画に関しては本校の卒業生の漫画家、山田南平先生が審査員をしてくださいます。

創作活動することで、卒業生も文章を書く力や自分の世界観の構成の仕方を培ったと言っていて、創作は生徒の能力の活性化に一役買っている活動のように感じます。

あと、創立者が同じ田邊新之助という縁で特に高1生は逗子開成高等学校と学校交流の一環として「田辺杯」という日本語のスピーチコンテストを行っています。これは希望者ではなく、全員が取り組んでスピーチをするもので、昨年は「言葉の豊かさとは」といったテーマで行いました。まずグループで発表してお互いの評価をしたのちグループの代表を決め、クラスで発表してクラスの代表を決定、その後逗子開成と一緒に大会を行うもので、これまでに5回開催されています。

全員が自分で発信するのですか?

清水先生 本校の生徒がすごいと思うのは、英語の授業等で声を出すことに慣れているので、割とはっきりものが言えることです。中には苦手という子もいますが、多くの生徒が堂々とスピーチすることができます。

ほかには、ビブリオバトルもやっています。今年はコロナ明けで久しぶりにビブリオバトルの大会に出場したところ県予選で優勝しました。全国大会では残念ながら賞は取れませんでしたが、大会を楽しみました。生徒も国語だけではなくいろいろな授業、探究の時間などでも発表していることもあって、スピーチの総合力はかなり上がっていると思います。

今の子はSNSなど短い言葉でやり取りして成り立つようなコミュニケーションに慣れています。それが成り立ってしまう時代に、自分の言葉で相手に伝わる練習をする場があるのはとっても素敵ですし、生徒も自信を持って社会に出られそうですね。

清水先生 本校は書かせることも発表させることも多いので、大学に入学してから、また社会に出た際に役に立っているようです。「鎌倉女学院で学んだことってすごいことだったんだ、卒業してから困らなかったよ」と言ってくれる卒業生もいます。だから実践的な教育をしているという自負はありますね。

本校の教育の原点である創立者の田辺先生の生涯を辿ってみると、先生は漢詩人として有名ですが、元は明治時代の先端の学問だった英語と地理の教師だったんです。伝統と新しさを兼ね備えていた先生で、鎌倉女学院を作った時の設立理念の中に「日進の新知識を授けたい」という思いがあったようです。人類の文化遺産をしっかり学びかつ新しい知識も取り入れる。何かを創造するには、自分の中に蓄えたものが必要です。それを鎌倉女学院にいる間にしっかり蓄えてほしいと思っています。

鎌倉女学院中学校 生徒作品

鎌倉女学院中学校 生徒作品

読書が嫌いな子への対処法

国語が苦手な子はあまり本を読まない傾向にあると感じているのですが、本を読むのが苦手な子に本を読ませる方法などあれば教えてください。

清水先生 私は読書についての研究をしていたことがあって、日本の子どもは海外の子どもに比べて本を読むことが少ないのだけど、本について話すことは好きだという統計が出ていたんですね。生徒を見ていても本のことを話すのが好きだというのは確かに言えることで、鎌倉女学院でも読書紹介や読書郵便のように、自分の好きな本を紹介して交換することがあり生徒もそれを楽しんでいるようです。

ですから、本の話を親御さんがお子さんにしてあげることは大事だと思います。親が「こんな本読んでこういう部分が面白かったよ」といった具合にです。本が嫌いな子って、楽しい読書を身近で見ていないように思います。娯楽の読書というか楽しい読書をして情報交換を友達とするのもよいと思いますし、ご家庭の中で本について親子で話されてもいいと思います。そうすれば相手に触発されて読書するようになると思います。中学生とか高校生でも友達に触発されて本を読みますので、小学生のうちからそんな読書をしてほしいと思います。

鎌倉女学院中学校 掲示物

鎌倉女学院中学校 掲示物

過去問で取り上げられている本をぜひ読んでほしい

最後に、これから鎌倉女学院に入学してくる受験生に向けたメッセージをぜひお願いいたします。

清水先生 もし鎌倉女学院に入りたいというお子さんがいるようでしたら、過去問で出題された文章の中で気に入った本を読んでもらえるといいですね。一冊全て面白い本を採用しているつもりですが、当然一部分しか出せませんので、取り上げた本を最初から最後まで読んでもらえたら嬉しいです。

この鎌倉女学院で学べることは地理的な面からも幸せなことだと思うので、ぜひ世界中から観光客が来るこの鎌倉で学んでほしいと思います。

ちなみに「鎌倉歴史文化交流館」という2017年に開館したおしゃれな展示施設があるのですが、今年本校が120周年ということで鎌倉市と鎌倉女学院が協力して「女学生がみた近代の鎌倉 ―田辺新之助と鎌倉女学校―(仮)」(2024年12月14日~2025年3月1日)という展示をそこで行う予定です。鎌倉女学院と創立者についての展示もあります。本展示は学芸員さんや教員で作りますが、ミニ展示コーナーでは何人かの生徒がそれぞれ「知られざる鎌倉」といった自分の興味のあることを調べて展示する企画もあります。私も関わっていますので、開催される際にはぜひ見に来てください。

鎌倉女学院中学校 プリンセスロード

鎌倉女学院中学校 プリンセスロード

インタビュー3/3

鎌倉女学院中学校
鎌倉女学院中学校1904(明治37)年に漢詩人の田辺新之助が開成中学校校長在任中に、逗子開成とともに湘南地区の女子教育のためにと設立した私立鎌倉女学校が始まり。1948(昭和23)年に鎌倉女学院となり、中学・高校を併設。1993(平成5)年に高校募集を停止。2004年に、創立100周年を迎えた。
古都鎌倉のなかでも由緒ある閑静な環境にある。2005年に新校舎が完成。地上4階・地下1階建て、普通教室のある「サウスウィング」にはアトリウムがあり、明るく開放的。陸奥ホール、図書室、コンピュータ教室、和室、大教室、ビオトープなどの施設がある。校外施設の天城山荘では、自然観察や歴史探訪が行われる。
「鎌女(かまじょ)」の愛称で親しまれている同校は、古くは「鎌倉夫人」と呼ばれた名流婦人を輩出し、根強いファンが多い。創立以来「真摯沈着」をモットーに、ベテラン教師と若手教師陣が連携し、心身ともに健康で、国際性豊かな人間の育成に努めている。創立100周年を機に、国際理解教育・日本伝統文化理解教育・情報教育・環境教育の4分野を軸とした新しい教育を開始した。
「完全中高一貫校」で、大学進学に向けての学習指導を行い、先取り授業や主要教科重視のカリキュラム構成。特に「語学の鎌女」といわれるほど、英語と国語の教育には定評がある。英語は『プログレス』をBOOK6まで使い、中1~中3まで週6時間あり、うち1時間は1クラスを2分割した外国人教師による英会話を実施。定期テストのあと成績不振者を対象に補習がある。高2から文系・理系・文理コースに分かれ、選択科目を充実させるほか、生徒の実状に応じて少人数制授業や習熟度別学習を導入。国公立大をはじめ、早慶上智大などの難関大学に、現役で多くの合格者を出している。多くの難関大学に指定校推薦枠を持っている点も魅力。
学習面と同じく学校行事も盛りだくさん。5月の体育祭は特に盛り上がり、貴重な青春時代の思い出づくりの場となっている。11月には中学1年で職場体験、中学2年で鎌倉散策が行われる。クラブは文化系15、運動系9があり、中高合同で活動している。マンドリンギター、バトン部などが活躍している。ほかに授業の一環として「特修科」があり、茶道、華道、書道、フルート、バイオリンの5講座が設置され、希望の講座を選択できる。
高1を対象にしたカナダ英語研修制度やアメリカの姉妹校との短期交換留学もある。授業は2期制で、週5日制。土曜日には日本の伝統文化や国際・情報分野などについて学ぶ「土曜講座」を受講できる。