シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

鎌倉女学院中学校

2024年04月掲載

鎌倉女学院中学校の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.日本の伝統的な美しい色や言葉触れる問題

インタビュー1/3

最初にこの問題の出題意図について教えていただけますでしょうか?

清水先生 デジタル化の時代にあえて伝統色を問いに出しました。この問題には私たちの生きている世界、また日本にある美しい色や美しい言葉に関心を持ってもらいたいという作成意図があります。

同じ赤でも色々な赤があります。たとえば緋色とか朱色とか茜色とかあずき色とか。一言で赤色とくくることはできません。私たちが生きている世界の豊かさ、それを表現する言葉の豊かさを共に学びたい、先人の知恵を学んでいきたいと思って出題しました。

あと、こういった色の名前を尋ねることで、読書体験が量れるのではないかとも考えました。たとえば「パンが狐色に焼き上がる」といった表現はよく童話や物語に出てくる表現です。日常的に使わなくても瑠璃色や鶯色といった色は、多くの本を読んでいるような子なら目にしたこともあるのではないでしょうか。また、本をよく読む受験生なら馴染みのある表現を目にする問題だったと思います。

この設問では、選択肢が2つあまる形なので藤色と山吹色は答えに当てはまりません。どのような意図があったのでしょうか?

清水先生 まず鶯色は難しいと思ったので緑系の色は入れないようにしようと考えました。狐色と山吹色は引っかからないとは思いましたが若干近い色ですね。あと藤色は、自然の色を入れたかったので植物の藤を盛り込みましたが、瑠璃色と近い色で迷うかなと思いました。

この問題の正答率はいかがでしたか?

清水先生 具体的には狐色が一番で89%、次が茜色で86%、桜色が83%、瑠璃色で75%、鶯色は56%でした。鶯色の正当率が若干低かったものの、それでも半分以上の子が分かることについてとても嬉しく思いました。

難しかった鶯色について詳しく調べてみると、一般的にイメージされる淡い若草色よりもくすんでいて茶色っぽい色を指すようです。それが若草色に近い色として人々の間に定着したのにはさまざまな理由があるようで、そういうことを調べるのもとても面白いです。

言葉を知るということは、その背景となる世界や文化、伝統を知ることにつながります。この問題の色の表現も言葉があり続ける限りその色はなくならないと思います。しかし言葉がなくなったら他の色に溶けて消滅してしまうので、そういう意味でもいつまでも残っていてほしい言葉ですし、残すためには私たちが次の世代に伝えていかないといけないと思います。

国語科主任/清水 あかね先生

国語科主任/清水 あかね先生

色にもいろんな表現があることをこの問題で知ってほしい

身の回りの物事をこのような言葉で表せるのはとても素敵だなと問題を見て感じました。たとえば桜色という言葉を知っていても、普段の日常ではあまり使わないと思います。しかし、この問題に出会うことで「こんな表現をすることもできるんだ」と子どもたちにも伝わったのではないでしょうか?

清水先生 たとえばソメイヨシノの桜色と頬の色が同じ色かというと、もちろん完全なイコールではないとは思うのですが、少女の頬を桜色と表現した時に少女の持つ可憐で純粋なイメージと桜のイメージが重なるという表現の面白さがありますね。消去法で解いていけば答えにたどり着くかもしれませんが、テクニカルに解く問題ではないです。

表現の美しさや自分が知っている言葉でこんなふうに表すことができるんだという、新しい表現との出会いの場になったのではないかと思いました。そういう出題の仕方をしてくるんだ、とすごく目新しさがあって驚いた問題です。

清水先生 今回、私はこの色の問題がどうしても出したいと思って、かなり試行錯誤して作成しました。伝統を古くさいと捉えられる風潮も一部にはありますが、伝統の良さを国語科として生徒たちにアピールしていきたいという思いがあります。

草案時点では色の説明をして受験生には色の名前を探させる問題を考えていたのですが、他の先生から「それだと国語の問題にならないのでは」と言われ、色の名前を聞くだけではダメだと気付かされました。その後の議論で色を使った俳句や和歌を出そうといった話もありましたが、それでは俳句や和歌自体を読み解くことが大変になってしまいます。大問2でそんなに時間を使わせるのではなく、その後の読解問題に時間を使ってほしいと思い、日常的な表現で問題構成を行いました。

我々も毎年入試問題は楽しんで作っています。また特別国語や古典につながるように意識しています。今年の2次試験では、どうしても俳句を出したいという先生がいて俳句の問題を出題したりもしています。

鎌倉女学院中学校 校舎

鎌倉女学院中学校 校舎

インタビュー1/3

鎌倉女学院中学校
鎌倉女学院中学校1904(明治37)年に漢詩人の田辺新之助が開成中学校校長在任中に、逗子開成とともに湘南地区の女子教育のためにと設立した私立鎌倉女学校が始まり。1948(昭和23)年に鎌倉女学院となり、中学・高校を併設。1993(平成5)年に高校募集を停止。2004年に、創立100周年を迎えた。
古都鎌倉のなかでも由緒ある閑静な環境にある。2005年に新校舎が完成。地上4階・地下1階建て、普通教室のある「サウスウィング」にはアトリウムがあり、明るく開放的。陸奥ホール、図書室、コンピュータ教室、和室、大教室、ビオトープなどの施設がある。校外施設の天城山荘では、自然観察や歴史探訪が行われる。
「鎌女(かまじょ)」の愛称で親しまれている同校は、古くは「鎌倉夫人」と呼ばれた名流婦人を輩出し、根強いファンが多い。創立以来「真摯沈着」をモットーに、ベテラン教師と若手教師陣が連携し、心身ともに健康で、国際性豊かな人間の育成に努めている。創立100周年を機に、国際理解教育・日本伝統文化理解教育・情報教育・環境教育の4分野を軸とした新しい教育を開始した。
「完全中高一貫校」で、大学進学に向けての学習指導を行い、先取り授業や主要教科重視のカリキュラム構成。特に「語学の鎌女」といわれるほど、英語と国語の教育には定評がある。英語は『プログレス』をBOOK6まで使い、中1~中3まで週6時間あり、うち1時間は1クラスを2分割した外国人教師による英会話を実施。定期テストのあと成績不振者を対象に補習がある。高2から文系・理系・文理コースに分かれ、選択科目を充実させるほか、生徒の実状に応じて少人数制授業や習熟度別学習を導入。国公立大をはじめ、早慶上智大などの難関大学に、現役で多くの合格者を出している。多くの難関大学に指定校推薦枠を持っている点も魅力。
学習面と同じく学校行事も盛りだくさん。5月の体育祭は特に盛り上がり、貴重な青春時代の思い出づくりの場となっている。11月には中学1年で職場体験、中学2年で鎌倉散策が行われる。クラブは文化系15、運動系9があり、中高合同で活動している。マンドリンギター、バトン部などが活躍している。ほかに授業の一環として「特修科」があり、茶道、華道、書道、フルート、バイオリンの5講座が設置され、希望の講座を選択できる。
高1を対象にしたカナダ英語研修制度やアメリカの姉妹校との短期交換留学もある。授業は2期制で、週5日制。土曜日には日本の伝統文化や国際・情報分野などについて学ぶ「土曜講座」を受講できる。