シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

栄東中学校

2024年03月掲載

栄東中学校【社会】

2024年 栄東中学校入試問題より

次の文章を読み、あとの各問いに答えなさい。

近年、観光地において、観光客が著(いちじる)しく増加することで、地域住民や自然環境に負の影響(えいきょう)がおこる「オーバーツーリズム」が問題となっています。「オーバーツーリズム」が進むと、交通渋滞(じゅうたい)により、通勤・通学などの移動に時間がかかるなど、地域住民の日常生活に支障が出るとされています。

(問1)文章中の下線部について、「地域住民の日常生活に支障が出る」という具体的な例を、交通渋滞により、通勤・通学などの移動に時間がかかること以外で1つ答えなさい。

(問2)「オーバーツーリズム」への対策として、観光税のように観光地域への入場料を有料にして観光客の増加による混雑を抑(おさ)えようという案があります。観光地域への入場を有料にすること以外で観光客の増加による混雑を和(やわ)らげる方法を、考えて答えなさい。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この栄東中学校の社会の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答例

(問1)観光客が出すゴミにより、景観や衛生面が悪化する。

(問2)混雑状況をリアルタイムで分かるようにしたり、観光地への入場を時間帯別の予約制にしたりする。

解説

オーバーツーリズム(観光公害)が進むことについて、(問1)ではその具体例を、(問2)では、観光客の増加による混雑を和らげる方法を考えます。(問1)・(問2)とも共通しているのは、受験生ならば容易に思いつく例や方法がすでに問題文に提示されていることです。

(問1)については、「地域住民の日常生活に支障が出る」とあることから、観光客の増加によるマイナス面の具体例を考えます。「交通渋滞により、通勤・通学などの移動に時間がかかること」はすでに提示されているので、それ以外となると、「ゴミ処理の問題」や「騒音」、「飲食店の大行列」などが考えられるでしょうか。

(問2)については、「オーバーツーリズム」への対策について「観光客の増加による混雑を和らげる方法」を考えます。ここでは、「観光地域への入場を有料にすること」はすでに提示されています。また、この問いで考えたいことは、観光がもたらすプラスの効果とマイナスの効果の両立です。単に観光客の人数を制限すると、地域経済にマイナスの影響が出てしまいます。ですから、観光客が訪れることを前提とした「混雑を和らげる方法」を考えていくことが望ましいです。考えるときには、2020年以降に世界的に流行した新型コロナウイルス感染症によるこの数年間の行動制限で、感染症対策と経済活動の両立のために生み出された知恵や工夫も参考にできるかもしれません。例えば、「事前予約制にする」ことや「時間帯別に入場制限を設ける」などが考えられるでしょうか。また、その観光地がある都道府県や市区町村の、他の観光施設の新たな魅力を発信して観光客を分散させることなども考えられるでしょう。このように、課題解決のために、自分なりに新しい方法を考えることもできますし、これまでに経験した知恵や工夫を、別の課題に応用してみることもできそうです。

日能研がこの問題を選んだ理由

日本が観光立国を宣言してから約20年が経ちました。この宣言は、地域の活性化や、雇用や消費の拡大をめざして打ち出されたものです。その後、観光地には、国内外問わず多くの観光客が訪れるようになり、とくに訪日外国人観光客(インバウンド)が急激に増えたことで、日本の経済にもプラスの影響をもたらすようになりました。ところが、観光地では観光客が著しく増えたことで、交通渋滞やゴミの散乱、自然の破壊などにより地域の住民のくらしにマイナスの影響をあたえるようになりました。これらの問題は、オーバーツーリズム(観光公害)ともいわれ、近年では日本のみならず、世界各地でも深刻な問題になっています。

今回の栄東中学校の問題は、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)による行動制限や水際対策が緩和されたことについては触れてはいませんが、とくに2023年に新型コロナが季節性インフルエンザと同じ感染症法における5類に移行して、さまざまな規制が緩和され、再び観光地に観光客が戻り、かつてのにぎわいを見せつつある今、改めて観光がもたらすプラスとマイナスの両方の影響を考えさせています。とくに(問2)で考えるのは、新型コロナのように行動制限や水際対策で人々の往来を止めるのではなく、「混雑を和らげる方法」です。その方法を考える助けになるのは、新型コロナの流行時に考えられた、人々の知恵や工夫ではないでしょうか。たとえば、感染症対策と経済・社会活動の両立から、遊園地や動物園などのテーマパークや、博物館や美術館などの施設では、混雑緩和のために事前予約や、滞在時間の制限などが設けられました。こうした混雑を和らげる方法を、今度は、観光によるプラスとマイナスの効果の両立に役立てられるかもしれません。栄東中学校のこの問題は、こうした経験をすでに起きている別の課題や、次なる未知の課題を解決するための視点として持つことができるというメッセージがふくまれていると感じました。

このような理由から、日能研ではこの問題を『シカクいアタマをマルくする。』シリーズに選ぶことにしました。