シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

東邦大学付属東邦中学校

2024年03月掲載

東邦大学付属東邦中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.受験生の算数における発展的な思考力を問う問題

インタビュー1/3

まずはこの問題の出題意図についてお教えいただけますでしょうか。

土田先生 この問題の位置づけとしては、全体で6問ある大問の中の2番の5ということですが、大問2は小問集合で1問1答形式です。数値を正確かつ素早く求めていくことができるかの能力は算数では必須であり、我々としても問いたい部分です。そこにさらに少し要素を加え、明確な数値を求めるのではなく起こり得る数値の範囲、中学・高校の数学で言うと集合の要素の個数について数値を求めるのではなく、数値の範囲という形で発展的な思考力を問う問題として出題しました。

数学的算数の用語としての「正しい」と言う言葉が「起こり得る」という意味ではなく「必ず起こる」ものとして、設問で使われている「正しい」の意味をきちんと理解しているかどうかを問うものとなっています。

この問題の正答率はどれくらいでしたか?

土田先生 正答率は約6割でした。もしかしたら、この問題にもう一つ条件を加え「どちらかのみを持っているのは何人ですか?」といった問いかけであれば、おそらく正答率は8割~9割いったのではないかと思います。設問の条件設定を変えることで正答率6割の設問になりました。

正答率はおおかたの予想通りでしたか?

土田先生 大問2に関しては、正答率1割~2割になるような難し目の問題を出題するつもりはありません。そういった意味では想定内かなと思います。大問2の中には、正答率8割レベルの「これはできてほしい」という問題も出題していますし、年度によっては「ちょっと難しいかな」という難易度の設問もありますが、この問題に関しては難易度で言うと平均レベルの問題だと思います。ですから、本校を受験するお子さんであれば、この問題が解けることで合格ラインを突破する一問になってほしい問題のひとつと言えますね。

数学科主任/土田 雄大先生

数学科主任/土田 雄大先生

中学入試の問題であっても大学入試まで見据えた設問づくりを

この問題は、集合的要素と文章や選択肢をきちんと読み取ることがテーマになってくると思うのですが、去年はこのような問題はなかったと思います。このような問題を出題したのは何か理由があるのですか?

土田先生 大学入試を見据えたところで、中学・高校の数学の中でもデータ分析は重要な分野のひとつになってきています。そんな中、数値を求めることと数値から状況を読み取り選択肢の「成り立つ」「成り立たない」を判別する能力を聞きたかったというのが理由としてあります。

こういった問題は割と珍しいものなのでしょうか?

土田先生 最近は増えてきているものの、あまりメジャーとは言えないかもしれません。我々もこういった問題だけを出題して解ける子だけを取りたいかというと、もちろんそうではありません。

この問題について言うと、まず正確に算数で求められる計算や数値処理ができた上で数学にもつながっていくような問題です。ですから、しっかり問題を読み取れるお子さんはこういう問題でライバルに差をつけて、時間的余裕をもって試験に臨んでもらいたいですし、計算力という意味ではうっかり別の問題でミスしてしまったところをカバーできる問題であればいいという位置づけです。

出題してみた印象はいかがですか?

土田先生 算数を訓練してきたお子さんが受験する際、図形問題や割合の問題といった旧来からの算数の問題は必要だと我々も思っていますし、そこを差し置いて入試問題を作成することはありません。ただ、こういった問題はあまり出題してこなかったので、設問を見た時に面食らってしまったお子さんはやはりいると思います。隔年もしくは3回ある入試のちょっとした一題になることで、本校としては手を抜かないで勉強してきてほしいという設問のひとつです。

考え方としては、小学生にとってはベン図が分かりやすいかもしれません。この問題だと、40人のクラスの中で16人と24人と言った具合に、完全に2つの輪に分けられるのもイメージしやすい部分かと思います。

選択肢は4つでしたが、他にこういう選択肢を入れたかったというものはありましたか?

土田先生 選択肢というより、作問においては24、16という数字を少しいじってみる可能性はありました。たとえば26、16といった数値にすると必ず重なりが出てくるとか。反対に22、16にすると両方持っていない人がいる可能性がある、といった具合に、数値を変えることで正答率にどう影響したかは少し気になります。

東邦大学付属東邦中学校 教室

東邦大学付属東邦中学校 教室

文章が正確に読みとれないと選べない選択肢も

この問題が解けなかった約4割の子の傾向などは把握されていますか?

土田先生 細かく分析したわけではありませんが、おそらく「すべて選び」と書かれてあるので、(ウ)(エ)のどちらも選べないというよりは4択のうちひとまず2つを選んでおこう、といった感じだったのではないかと思います。

もちろん答えが2つであることはわかりませんが、(ウ)に関しては比較的選びやすい選択肢であり、もう一つの答えを選ぼうとした場合に、(エ)の選択肢は「スマホとタブレットの両方を持っている人を『除く』」という部分が少し難しかったかもしれません。「両方とも持っていない人」と読んでしまうと選ばない人もいたのではないでしょうか。

この問題は中学入試の問題ですが、中1・中2あたりでも正答率は受験生とあまり変わらないんじゃないでしょうか。高校に入ると集合の理論についてもう少し学ぶので、正答率は上がってくると思います。
この問題が解ける力のあるお子さんであれば、算数から数学へスムーズに移行していけていると思います。一方で算数・数学的な計算処理がまごついてしまうお子さんの中には、中学に入って苦労してしまう子もいます。

東邦大学付属東邦中学校 校舎

東邦大学付属東邦中学校 校舎

入試直前まで何度も議論を重ねたうえで設問の並び順や配置を決定

この設問を大問2の5番に置いた理由などはあるのでしょうか?

土田先生 大問2番の順番はかなり考えて配置しました。小問を並べる際、大前提として問題の難易度に対して解きづらさを感じるような並び順にはできるだけしたくないと思っていました。

大問2番の中の問題の並び順、また全体における3番以降の並び順は、入試問題の45分という時間と全体のバランスの中、入試ぎりぎりまで議論して構成しています。

今年の大問2番全体の話で言うと、5台のうち前半の3問は落とさないでもらいたい問題であって、正答率も8割前後あり、後半の2問(4番・5番)では、難易度的に5番の問題より4番が少々難しいものです。本来的には4番目に来る問題だったのかもしれませんが、図形の問題と論理の問題を並べた際、少し難し目ではあるけれど間に図形を入れたほうがしっくりくると思いこのような配置になりました。1番や4番ではないな、という問題でしたね。

インタビュー1/3

東邦大学付属東邦中学校
東邦大学付属東邦中学校建学理念である『「自然・生命・人間」の尊重』は、創立者の額田豊・晉兄弟医学博士の自然観・生命観・人間観に基づいている。「感性」で捉えたものを「理性」に高めて理解できたとき出会える学ぶ喜びを重視する「プロセス重視の学習」を象徴する言葉である。
高1までの授業はリベラルアーツ型で幅広く学び、高2から文系と理系に分かれてより深く学ぶ。主要教科以外の時間も充実しており、たとえば「自分探し学習」。中学では各学年ともⅠ~Ⅲ期に分け、Ⅰ期は校外学習(中3は修学旅行)に関するテーマ学習、Ⅱ・Ⅲ期はそれぞれの30の講座を開設し、その中から各自が選択する。高校では、提示されたテーマの中から、あるいは、生徒自らが設定したテーマ、このいずれかを選択してレポートを作成。
また、大学付属校としてもメリットを生かした講座も豊富にある。「学問体系講座」は東邦大などとの連携授業で、中学生が参加できる講座もある。医学部志望者には、外科手術体験セミナーまである。部活動も盛んで、中学校で8割強、高校で7割弱が、学業との両立を図りながら元気に活動している。近年、めざましく躍進している部活も多く、東邦生の学びの場の一つとして心身を鍛えている。こうした部活動や、その他にある行事も、生徒達にとっては「自分探しの場」である。
2020年度はコロナ禍等諸般の事情により、文化系部活動・同好会の各種大会や発表会が中止となったが、学校HPで文化系団体の日頃の活動の成果を発表できるよう、作品や発表が公開されている。生徒たちの日々の取り組みが伝わる内容となっている。