今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!
東邦大学付属東邦中学校
2024年03月掲載
2024年 東邦大学付属東邦中学校入試問題より
- 問題文のテキストを表示する
(問)あるクラスの生徒40人にアンケートを取ったところ、スマホを持っている人は24人、タブレットを持っている人は16人いました。このとき、下の(ア)〜(エ)の中で、正しいものをすべて選び、記号で答えなさい。
- (ア)「スマホかタブレットのどちらか一方のみを持っている人数」と、「スマホとタブレットの両方を持っている人数」は同じである。
- (イ)「スマホとタブレットのどちらも持っていない人」はいない。
- (ウ)「スマホとタブレットの両方を持っている人」の人数は16人以下である。
- (エ)「スマホとタブレットの両方を持っている人」を除く人数は24人以上である。
中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この東邦大学付属東邦中学校の算数の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)
解答と解説
日能研による解答と解説
解答
(ウ)、(エ)
解説
40人のクラスの生徒について、「スマホを持っている人数(24人)」、「タブレットを持っている人数(16人)」のそれぞれの関係は、図1のように、線分図(数量を線分の長さで表した図)を使って、まとめることができます。
図1の線分図には、A、B、C、Dの4つの「人数を表す領域」ができます。
それぞれの領域が表す人数は、
- A:スマホは持っているが、タブレットは持っていない人の数
- B:スマホもタブレットも持っている人の数
- C:スマホは持っていないが、タブレットは持っている人の数
- D:スマホもタブレットも持っていない人の数
となることを確認しましょう。
図1より、A+B=24人、B+C=16人とわかります。また、スマホを持っていない人数は40-24=16(人)です。つまり、タブレットを持っている人数=B+Cと、スマホを持っていない人数=C+Dはどちらも16人で等しいので、B=Dとわかります。
線分図の使い方が確認できたところで、問題の(ア)〜(エ)が正しいかどうかを検証していきましょう。
ここで、「正しい」の意味を確認しておきます。
「正しい」には、「条件を満たすどのようなときでも成り立つ」……(*)
という意味があります。
つまり、「そうなるときもあるけど、そうならないときもある」という状態では「正しい」とは言えません。ですから、成り立たない例が1つでも見つかれば、それは「正しくない」と判断することができます。
(ア)「スマホかタブレットのどちらか一方のみを持っている人数」と、「スマホとタブレットの両方を持っている人数」は同じである。
A+CとBが等しいか等しくないかを判断します。
例えば、それぞれの人数が図2のようになるとき、A+C=18+10=28、B=6より、(ア)は満たしていません。
ですから、(*)より、(ア)は正しくありません。
(イ)「スマホとタブレットのどちらも持っていない人」はいない。
Dが必ず0になるかどうかを判断します。
例えば、(ア)の図2のようになるとき、D=16-10=6となるので、(イ)は満たしていません。
ですから、(*)より、(イ)は正しくありません。
(ウ)「スマホとタブレットの両方を持っている人」の人数は16人以下である。
Bが16以下になるかどうかを判断します。
Bが最大になるのは、図3のとき、つまり、タブレットを持っている人全員がスマホも持っているときです。このとき、B=16なので、Bは最大で16になることから「16以下」を満たします。
ですから、(ウ)は正しいとわかります。
ちなみに、このとき、C=0、D=16となります。
(エ)「スマホとタブレットの両方を持っている人」を除く人数は24人以上である。
これは、A+C+Dが24以上になるかどうかを判断します。
A+C+Dが最小になるのは、Bが最大になるときです。つまり、(ウ)で考えた図3のときとわかります。このとき、A+C+D=40-16=24(または8+0+16=24)なので、A+C+Dは最小でも24になることから「24以上」を満たします。
ですから、(エ)は正しいとわかります。
以上より、正しいものは(ウ)と(エ)です。
(参考)
この関係は、図Aのようにベン図で整理することができます。あるいは、図Bのように、「成分表」と呼ばれる表で整理することもできます。
この問題は、図Aや図Bを使って考えることもできますが、ここでは、タブレットを持っている人を表す線分を自由に動かして考えられるように、線分図を使った方法を紹介しました。
- 日能研がこの問題を選んだ理由
中学入試の算数は、小学校までに学んできた算数と、中学校から学び始める数学のちょうど境目に位置します。子どもたちが算数を経て、数学へ学ぶ対象を進化させていくとき、そこには「論理」がより深く関わってきます。算数の世界から、論理をさらに重視した数学の世界への橋渡しとなる中学入試問題。その中で、この問題に出あった受験生は、論理を司る次の2つの概念と向き合うことになります。
1つ目は、「重なり」の概念です。「または」と「かつ」という言葉を使い分け、2つの条件の重なりの関係を正しくとらえたり、正しく使えたりできるかどうかを問うています。「どちらか一方のみ」「両方を」「どちらも〜ない」という言葉から、もとの2つの条件がどのように重なり合っているのかを推測する力が問われています。
もう1つは、「真」「偽」の判断です。この問題では、小学生に伝わる言葉として、「正しい」「正しくない」という言葉に置き換えて使われています。数学の世界では「正しい(真)」という状態は、「すべての場合において、例外なく成り立つ」という意味を持ちます。この「正しい」の意味を、文字通り正しく使えているかどうかが試されています。
また、この問題は、数値情報がたった3つしか出てきません。3つしかない数値情報から、新たにわかることと、最後まで不明なものを区別しながら考え進めていく整理力が求められます。
小学生だけでなく、電車内やWEBサイトでこの広告を目にする大人であっても、論理と向き合う楽しさを味わいながら、上記の2つの概念を確認することができます。
このような理由から、日能研ではこの問題を『シカクいアタマをマルくする。』シリーズに選ぶことにしました。