出題校にインタビュー!
鷗友学園女子中学校
2024年02月掲載
鷗友学園女子中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
3.批判的精神を養いたくましく生きる
インタビュー3/3
高1地理総合でポスターセッションを実施
社会科ではどんな取り組みをしていますか。
新木先生 中3は夏休みにレポートを課しています。各自テーマを決めて、夏休み中にフィールドワークをしたり資料を調べたりして数千字のレポートにまとめます。
伊藤先生 同じねらいで、高1の地理総合のまとめとして、3~4人のポスターセッションを行っています。テーマは、まちづくり、地域活性化、環境エネルギー、観光、防災など、さまざまです。約70ものグループが体育館にポスターを展示して生徒が説明し、生徒同士で議論する場面も見られました。見学した生徒の感想は本人たちにフィードバックされます。
新木先生 中3も高1もテーマ設定に苦労しますね。中3のレポートのテーマはアニメやアイドルなど何でもいいので、まずは好きなことを取り上げて、そこに自分なりの視点をくっつければいいよとアドバイスします。
同じテーマを扱ったとしても同じ話になるわけではなく、国同士で比較する、歴史を遡る、法や制度を調べるなど切り口はさまざまです。調べるうちに、「この制度があるのはなぜだろう?」といった問いが立てられれば、レポートの方向性が定まります。問いの立て方、全体の構成の組み立て方が身につけば、どんなテーマでも応用できるようになります。
鷗友学園女子中学校 高校課題
歴史の議論は前提となる知識が必要
歴史も、過去と現在を結びつけて議論することはありますか。
伊藤先生 歴史は前提の知識がないと議論できません。例えば、2023年の10月にパレスチナの問題が再燃したとき、ちょうど高1の歴史総合では第一次世界大戦を扱うタイミングでした。パレスチナ問題は、さかのぼると第一次世界大戦中のイギリスの外交も関わってきます。歴史を学ぶことによって、現在起こっている問題についてより深く議論することが可能になります。
冬休みにパレスチナ問題についての課題を出しました。1つは、パレスチナで何が起こっているのか、何が問題なのかを新聞を参考に、400~500字でまとめること。もう1つは、自分なら何ができるか、個人でも、国連の職員やNGOなど立場を仮定してできる活動を400~500字でまとめてもらいました。
今勉強していることが、社会で現在進行形で起こっていることがどうつながっているか、加えて今まで勉強してきたこととどうつながってくるのか、着地点を考えながら高2の探究に橋渡しできるように落とし込んでいるところです。
市議会議員と直接話す機会を初めて実現
新木先生 2022年度卒業の高3の必修政治の授業(理系)では、生徒が持ち回りで、新聞記事などからピックアップしたニュースについてコメントしあっていました。受験期でも世の中への関心と問題意識を持ち続けてくれたのはうれしかったですね。そうした意識を持つ生徒が増えてきたのは、18歳選挙権が一因でしょう。
とはいえ、日本の教育現場では政治を遠ざける傾向があります。政治的中立性は確保しなければなりませんが、それで十分な主権者教育ができるのか疑問を持っていました。今年度、ある地方自治体の議会事務局の方のご協力で、6人の議員さんと本校の高3が直接話す機会を設けることができました。
学校と議員がコンタクトを取る仕組みがなく、さまざまな苦労がありました。今回、議員さんがこちらと同じように主権者教育に対する問題意識を持っていたことで、実現にこぎ着けることができました。
鷗友学園女子中学校 和室
「質問に正面から答えていない」と鋭い指摘も
生徒さんはどんな様子でしたか。
新木先生 議員さんから、市民のみなさんの声を国に届けて実現した話をしていただきました。クイズ形式で楽しく進めてくださり、政治にあまり興味のなかった生徒も熱心に聞いていました。一方で、政治に関心が高い生徒は議員さんがどんな仕事をしているのか、どのように条例ができるのかを知りたかったようで、さらに知りたいという気持ちが出たようです。
高3になると批判的な視点で物事を見られるようになるので、「質問したことに正面から答えていない」という意見もありました。会が終わった後で議員さん個人に質問していた生徒もいました。
「議員になってみたい」と思った生徒さんがいたかもしれませんね。
新木先生 「すべてに精通したジェネラリストでなくても、自分がこれまでやってきたことを議会や地方の政治に反映することが議員の1つの仕事だ」と言ってくださったのはありがたかったですね。生徒がこれから大学に進学し、仕事をした延長線上で、それまでの経験を議員としてでも有権者としてでも反映できれば、それは政治の1つだと伝わったのはよかったと思います。
生徒は、そもそも議員さんがどんな人かよくわからないところがあったと思いますが、「意外に普通の人」ということがわかり、政治の見方が変わるきっかけになればと思いました。
伊藤先生 「どのような基準や優先順位を設けて予算をつくっているのですか」と質問した生徒もいましたね。
新木先生 予算の質問が出たのは、本校では部活動や学校行事などの予算を生徒が管理していることもあると思います。予算の視点を持っているのは頼もしいですね。
入試問題からも垣間見られる鷗友の批判的精神
批判的精神は中1から徐々に育んでいるのですか。
新木先生 そうですね。入試問題も、見方を少しずらす、斜めからとらえるといったことをしています。例えば、ロシアのウクライナ侵攻をめぐり、国連の安全保障理事会ではロシア軍の即時撤退などを求める決議案が採決にかけられたものの、ロシアが拒否権を行使し、決議案は否決されました。こうしたことがあると、普通は常任理事国の拒否権をなくせばいいと考えるでしょう。そこで2023年第2回入試では、あえて「常任理事国の拒否権の利点」を説明する問題を出しました。
この問題でも、「現在の国際社会では、伝統的な国家の安全保障のみでは対応できない」と投げかけています。本当にそれでいいのか疑問を持つように、授業や定期試験で繰り返し問うことを常に意識しています。
世の中にアンテナを張って、「なぜ」「どうして」の疑問を常に持っていてほしい。批判的精神は彼女たちの生きる力になるはずです。
鷗友学園女子中学校 ホール
インタビュー3/3
1935(昭和10)年、東京府立第一高等女学校(現・都立白鷗高等学校)の同窓会鷗友会により、母校創立50周年事業として設立。今日の繁栄の基礎を築いたのは、女子教育の先覚者で第一高女の名校長とうたわれた市川源三と、内村鑑三・津田梅子の薫陶を受けた石川志づ。