出題校にインタビュー!
鷗友学園女子中学校
2024年02月掲載
鷗友学園女子中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
1.初めて出あう概念について考える
インタビュー1/3
安全保障=軍事だけの考え方でいいのか
この問題にはいろいろな要素が含まれていますね。
新木先生 テーマの「人間の安全保障」「保護」と「エンパワーメント」の概念、題材としてのマラリア、この3点がこの問題の特徴です。
人間の安全保障を取り上げた理由の1つは、2022年のロシアのウクライナ侵攻を契機に、世界で安全保障が議論されたことです。安全保障というと真っ先に浮かぶのは軍事・防衛だろうと思いますが、それだけではないことを問いたいと思いました。例えば、最低限度の生活を保障される、自由な生き方ができるという、人間一人ひとりに注目した安全も安全保障の1つではないか。軍事に限らない安全保障について受験生に考えてもらいたいというのが、この問題のねらいの1つです。
社会科/新木 隆太先生
与える支援ではいつまでも自立できない
新木先生 通常、発展途上国に対する支援は「与える」視点で考えられるでしょう。しかし、それでは不十分なことが設問文で示されています。ならば何が必要か、与えるだけではない支援とはどのようなことなのかを考えてもらいたいというのが、保護とエンパワーメントという対比の概念を取り上げた理由です。
私たちは新型コロナのパンデミックを体験しました。その際に、人の交流を避ける、手指消毒やマスク着用の重要性について、政府や医療関係者などがエンパワーメントする行動を取ってきたことにも目を向けてくれたらいいですね。
伊藤先生 自分が生きている社会に置き換えて考えてほしい、「自分ごと化」してほしいというメッセージを発信することを意識して作問しています。勉強した知識だけでなく、日常の中にもヒントがたくさんあることを実感してほしいなと思います。
マラリアの説明はあえて省略
新木先生 人間の安全を脅かすものとして、自然災害や紛争よりも新型コロナの体験から感染症が考えやすいかなと思いました。ただ、新型コロナをヒントに考えるとワクチン接種を思い浮かべるでしょう。単なるワクチン接種では保護の視点になります。身近な出来事を踏まえつつ、もう一歩踏み込んで考えてもらいたいと思い、マラリアという日本では流行していない感染症を題材に取り上げました。
文中にマラリアの説明はありませんね。
新木先生 作問の過程ではマラリアの説明も考えましたが、あえて省略しました。ですからマラリアの知識がなくても解ける問題になっています。
伊藤先生 本校の入試問題は読む量が多い。そこへマラリアの説明を加えるとしっかり読み込むことが難しくなるので、マラリアの説明がなくても解けるように作問しました。小学生はいろいろな情報に目が行きがちなので、なるべく寄り道をしないで解けるような問題づくりを心がけています。
鷗友学園女子中学校 校舎
前半部分の加点で予想以上に得点できた
多くの受験生は人間の安全保障は初耳だったと思います。出来具合はいかがでしたか。
新木先生 受験生全体の得点率は45.8%でした。難しいテーマなのでもっと手こずると予想していましたが、思っていたよりできた印象です。
この問題は最後の問題です。試験監督で受験生の様子を見たところ、時間配分は大丈夫な様子でした。ただ、多くはありませんが無答はありました。設問の意図がわからず手が出なかったのかもしれませんね。
採点のポイントを教えていただけますか。
新木先生 解答は2段階必要です。前半の保護の対策だけでは不十分な理由として、概ね「再び感染が広がったとき自分たちで対応できない」という趣旨を指摘できていました。
一方で、そもそも問いの意味がわかっていない受験生もいました。そうなると違う方向の答えになってしまいます。文中の一文を抜き出したり、言い換えたりしていた解答もありました。理由を答えていない限り点数はあげられません。保護とエンパワーメントの対比がとらえられていないと、後半の具体例が「してあげる」的な支援になりがちでした。
具体例は文脈をとらえているかどうかで判断
新木先生 後半の具体例は、文脈に合うような例を挙げていれば加点しました。政府・医療機関の啓発活動や教育、各自ができることを周知するといった趣旨が多かったですね。
今の子どもの発想だと思ったのが、「自衛隊が現地に入って活動する」という解答です。自衛隊を防衛目的ではないとらえ方をしているのが新鮮でした。
自衛隊の派遣では保護になってしまいませんか。
新木先生 そこが微妙なところで、自衛隊だから間違いというわけではありません。保護とエンパワーメントを区別して書けているかどうかは、この具体例だから正解・間違いというよりは、文脈をとらえて書けているかどうかで判断しました。
マラリアが蚊の媒介によるものだと知っている解答がいくつかありました。その場合、「蚊帳を配布する」だけでは、有効な予防策だとしても文脈から外れてしまうので、心苦しいのですが減点になってしまいます。「現地住民がどう行動するか」という視点が必要です。マラリアの説明を省略したのは、蚊帳や蚊取り線香に引っ張られて与える視点の解答にならないようにするためでもありました。このケースの解答で文脈に沿っていたのは半数でした。
鷗友学園女子中学校 エントランス
インタビュー1/3
1935(昭和10)年、東京府立第一高等女学校(現・都立白鷗高等学校)の同窓会鷗友会により、母校創立50周年事業として設立。今日の繁栄の基礎を築いたのは、女子教育の先覚者で第一高女の名校長とうたわれた市川源三と、内村鑑三・津田梅子の薫陶を受けた石川志づ。