シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

浅野中学校

2024年02月掲載

浅野中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.小手先のテクニックに頼らず数学の本質を問う問題

インタビュー1/3

まずはこの問題の出題意図について教えてください。

圡門先生 この元となった問題は大学入試で出題されていまして、それを小学生でもできるようにアレンジしました。その大学入試の問題は最長の距離を求める問題でしたが、最短について聞いています。背理法に関する問題ではあるものの、我々としては背理法をそこまで意識したわけではなく、きちんと設問を読み込めているかを問いたいと思って作成しています。

この設問は(ア)と(イ)はかなりできているものの、(ウ)になると少し正答率が落ちます。ただ、これで小学生に背理法を理解させたいかというとそんなことはなく、きちんと設問が読めて「こういう意味で言ってるからこういうふうに解いていくんだな」と理解してもらえるよう作問しています。

設問で使用していた「線分」という言葉については、小学生に対して使っていいのかどうか我々もかなり気にしていました。ただこの問題では「線分」を入れないとどうしようもないということで使用しています。長い文章題を作る際には、使う言葉に非常に気を付けています。

德山先生 本校の場合、単なる小手先の計算だけで答えを導き出すのではなく、数学の本質部分を見失わずに「なぜそうなるのか?」を考えさせる問題を出そうという心意気がしっかり感じられる問題を毎年出題しています。

法則を使う問題が出題される時もあれば、数学の本質を使って説明するタイプの問題もあります。今回は後者のタイプで「三角形の斜辺の長さは残り二辺の長さよりも短い」という部分をうまく利用して問題が組み立てられています。

数学科/圡門 雄孝先生

数学科/圡門 雄孝先生

近年受験問題が難化傾向に

文章をしっかりと読み込んでもらいたいという思いは、時代の変化によるものなのですか?

圡門先生 これは本校の入試が難しくなってきたあたりからです。世の中的に思考力が大事であると考えられる風潮もあり、何題かは記述問題にしようというところから、この設問の(ウ)の問題に関してはただ数字で答えるのではなく、記述にして理由を説明してほしいと考えました。

(ア)と(イ)は何となく答えられてしまうのですが、(ウ)に関してはきちんと読み取れない子の場合、本文のどこを引っ張ればよいか悩んでしまったのではないかと思います。正答率を見ると確かにこの問題だけは低いです。

シンプルですけど意外と(ウ)で確信的なところを試させているような気がします。

圡門先生 この問題どこから作ったか?といえばやはり(ウ)の部分からです。(ア)と(イ)は別に聞かなくてもよく、(ウ)だけ聞く問題でも別によかったのですが、それだと難易度が上がってしまうため、(ア)と(イ)も加えました。実際(ア)と(イ)はかなりの生徒が正答していましたし、(ウ)でどのぐらい取れるのかを見たいなと思って出題しているので、この設問の本質は(ウ)の解答にあると言えるかもしれません。

(ウ)の正答率はどれくらいだったのでしょうか?

圡門先生 正答率を正確には出していませんが、実感としては半分以上できていたと思います。答えられない子は、きっとどういう文章にすればいいのかわからなかったと思います。

毎年、貴校ではこの問題のように他校にはない問題が数題出題されている印象を受けるのですが、出題される理由はあるのですか?

圡門先生 あまり奇をてらった問題を出題しているつもりはありません。問題作成するのに高校入試や大学入試であったり、数学で取り扱う問題から「これ小学生に出してみると面白いかも」といったものを選んだりすることが多いだけで、たまたま数学的知識が必要な問題を選んだら今回はこうなったといった感じです。

德山先生 数学科は原案をみんなで出し合い、討議をして問題ができあがっていく作問を行っています。私は他教科の教員ですが、この問題は比較的、有利・不利に差がつかないように配慮し、その上できちんと考えてもらう形で出題されているように感じます。こうした問題は丁寧に読めば読むほど時間がかかってしまうので、解答の手際のよさが他の問題を解く時間への影響からしても大事です。

圡門先生 これは1番の小問の一題にすぎないので、さらっと読めて理由はこうなんだという程度であり、「最初のほうの問題はそんなに時間をかけちゃいけないよ」といったメッセージも含まれています。

浅野中学校 校舎

浅野中学校 校舎

算数の文章題にも読解力は必要

この問題は、考え方をうまく引き出している点が絶妙に思います。

圡門先生 設問を理解するには国語力・読解力がないと苦しいかもしれないですね。生徒が入学してからも言っていますが、英語や数学は大学入試でも大事な科目で、英語は中学から、数学は算数から変わって学んでいきます。双方に共通して言えるのは国語力・読解力が必要で、きちんと聞かれていることが読めないと正解にたどりつくことが難しいです。

德山先生 中学受験するにあたって、こういうものを読んで考え、新しい発展があるような問題のひとつにはなっていると思います。

創立者 浅野總一郎翁像

創立者 浅野總一郎翁像

インタビュー1/3

浅野中学校
浅野中学校1920(大正9)年、事業家・浅野總一郎によって創立。当初はアメリカのゲイリー・システムという勤労主義を導入し、学内に設けられた工場による科学技術教育と実用的な語学教育を特色とした。戦後間もなく中高一貫体制を確立し、1997(平成9)年に高校からの募集を停止。難関大学合格者が多い進学校として知られているだけでなく、「人間教育のしっかりした男子校」としても高い評価を受けている。「九転十起・愛と和」を校訓とし、自主独立の精神、義務と責任の自覚、高い品位と豊かな情操を具えた、心身ともに健康で、創造的な能力をもつ逞しい人間の育成に努めることを教育方針とする。校章は、浅野の頭文字で「一番・優秀」の象徴である「A」と「勝利の冠」である「月桂樹」から形作られており「若者の前途を祝福する」意味が込められている。
横浜港を見下ろす高台にある約6万平方メートルの広大な敷地の約半分を「銅像山」と呼ばれる自然林が占めている。Wi-Fi環境が整い、中学入学後に購入するChromebookで授業や行事、部活動を展開している。2014(平成26)年には新図書館(清話書林)、新体育館(打越アリーナ)が完成、2016(平成28)年にはグラウンドを全面人工芝とし、施設面が充実している。
中高6年間一貫カリキュラムを通して、大学受験に対応する学力を養成することが目標。授業を基本とした指導が徹底している。中学の英語では週6時間の授業に加えて、毎週ネイティブスピーカーによるオーラルコミュニケーションの授業もある。数学では独自の教材やプリントが使われていて、中身の濃い授業が展開されている。高校2年から文系・理系のクラスに、高校3年では志望校別のクラスに分けてそれぞれの目標に向けた授業を行う。進路選択は本人の希望によるが、理系を選択する生徒の方が多くなる傾向がある。全体的にハイレベルな授業が展開されているが、高度な授業展開の一方で、面倒見のよいことも大きな特徴。授業をしっかり理解させるために、宿題・小テスト・補習・追試・夏期講習などを行い、授業担当者が細かく目を配っている。一歩ずつゆっくりと、しかし、確実に成長させるオーソドックスな指導方針が浅野イズム。
「大切なものをみつけよう」ーこれは学校から受験生へのメッセージ。生徒にとって学校は、一日の内の多くの時間を過ごす場所。勉学に励むことはもちろん、部活動や学校行事にも積極的に参加して、その中で楽しいこと、嬉しいこと、悔しいことや失敗をすることも含めて多くのことを経験してもらいたいと考えている。学校でのそのような経験が、学ぶことの意味、みんなで協力することの大切さと素晴らしさ、生涯、続いていくような友人関係、そして、決して諦めない強い心を育んでいくことになる。浅野中学校、高等学校という場を思う存分活用して、人生において大切なものをたくさん見つけ、成長してほしいとの願いが込められている。
部活動と学習を両立させる伝統があり、運動部の引退は高校3年5~6月の総合体育大会、野球部は甲子園予選までやり通す。中学では98%の生徒が部活動に参加している。ボクシング、化学、生物、囲碁、将棋、ディベート、演劇が全国レベル。柔道、ハンドボールやサッカーも活躍している。また、5月の体育祭と9月の文化祭を「打越祭」として生徒実行委員が主体となって運営する。これをはじめ、学校行事も盛んで生徒一人ひとりが充実した学園生活を送っている。
「銅像山」は、傾斜がかなりきつく、クロスカントリーコースとして運動部の走り込みに使われるだけでなく、中学生たちの絶好の遊び場所となっている。また、各学年のフロアに職員室を配置してオープンにすることで、生徒と学年担当の先生が日常的に対話を行っている。こうしたメンタルケアにも力を入れている。