今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!
浅野中学校
2024年02月掲載
2023年 浅野中学校入試問題より
- 問題文のテキストを表示する
(問)次のア、イにあてはまる辺などの名称(めいしょう)、ウにあてはまる文章をそれぞれ答えなさい。
点Aから点Bまで結ぶまっすぐな線のことを線分ABといいます。
ここで、偶数(ぐうすう)個の異なる点を2個ずつに分け、それらを線分で結ぶことを考えます。ただし、どの3点も同じ直線上にないものとします。
例えば、[図1]のような6個の点は[図2]のような結び方が考えられます(他の結び方もあります)。
このように偶数個の点を2個ずつ線分で結ぶとき、線分どうしが交差しない結び方が必ずあるのですが、この理由を考えます。
偶数個の点を2個ずつ線分で結ぶとき、線分の長さの合計がもっとも短くなる結び方をすると、交差している部分がないことが次のようにしてわかります。
線分の長さの合計がもっとも短くなる結び方にしたとき、線分どうしが交差している部分があると仮定します。
交差している部分を取り出して、ここでは[図3]のように線分ABと線分CDが点Eで交差しているとします。
このとき、三角形において「2辺の長さの和は残る1辺の長さより長い」ことに注目すると、辺アは辺AEと辺DEの長さの和よりも短く、辺イは辺CEと辺BEの長さの和よりも短くなることがわかります。
このことから、線分アと線分イの長さの和は線分ABと線分CDの長さの和よりも短くなり、この結び方がウことに反します。
したがって、線分の長さの合計がもっとも短くなる結び方は、交差している部分がないことがわかります。
中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この浅野中学校の算数の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)
解答と解説
日能研による解答と解説
解答
ア AD イ CB ウ(例)線分の長さの合計がもっとも短くなる(こと)
解説
この問題では、偶数個の点を2個ずつ線分で結ぶとき、「(1)線分どうしが交差しない結び方が必ずある」ことを示すため、「(2)線分の長さの合計がもっとも短くなる結び方をすると、交差している部分がない」ことに着目します。そして、「(2)線分の長さの合計がもっとも短くなる結び方をすると、交差している部分がない」ことを示すために、「背理法」と呼ばれる証明方法を用いています。(具体的には、「(2)’ 線分の長さの合計がもっとも短くなる結び方にしたとき、線分どうしが交差している部分がある」と仮定して、矛盾を示します。)
問題の[図3]の三角形ADEと三角形CBEに着目します。
・三角形ADE
三角形ADEにおいて、「2辺の長さの和は残る1辺の長さより長い」ので、辺ADアは、辺AEと辺DEの長さの和よりも短くなります。
・三角形CBE
三角形CBEも三角形ADEと同じように考えます。
三角形CBEにおいて、「2辺の長さの和は残る1辺の長さより長い」ので、辺CBイは、辺CEと辺BEの長さの和よりも短くなります。
つまり、
辺AE+辺DE>辺AD、
辺CE+辺BE>辺CB
となります。
大きいものどうし、小さいものどうしをたしても大小関係は変わらないので、
辺AE+辺DE+辺CE+辺BE>辺AD+辺CB
となります。
また、辺AE+辺BEは線分AB、辺DE+辺CEは線分CDなので、
辺AE+辺DE+辺CE+辺BE
=(辺AE+辺BE)+(辺DE+辺CE)
=線分AB+線分CD
です。
さらに、辺ADは線分AD、辺CBは線分CBなので、
辺AE+辺DE+辺CE+辺BE>辺AD+辺CB
は、
線分AB+線分CD>線分AD+線分CB……(※)
と言い換えられます。
一方、初めに「(2)’ 線分の長さの合計がもっとも短くなる結び方にしたとき、線分どうしが交差している部分がある」と仮定しています。つまり、線分ABと線分CDの結び方は、和がもっとも短くなるはずです。しかし、(※)より
線分AB+線分CD>線分AD+線分CB
なので、この結び方(問題の[図3]の結び方)が線分の長さの合計がもっとも短くなるウことに反します。
以上より、「(2)’ 線分の長さの合計がもっとも短くなる結び方にしたとき、線分どうしが交差している部分がある」ことは間違っていることがわかったため、「(2)線分の長さの合計がもっとも短くなる結び方をすると、交差している部分がない」ことがわかり、このことから「(1)線分どうしが交差しない結び方が必ずある」が正しいことが証明されました。
(参考)
背理法は、素数が無限にあることを示したり、\(\sqrt{2}\)が無理数であることを証明したりするときにも用います。
- 日能研がこの問題を選んだ理由
「偶数個の異なる点を線分で結ぶときの線分どうしの関係」を考えます。偶数なら何個でも並べられる点、そして、それらの配置のしかたも無限にある。そんな状況でも点どうしを結ぶ線分には必ず交差しない結び方があるといえる。無限にあったとしても扱えてしまうのが数学なんだよ、という浅野中学校の先生の言葉が聞こえてきそうです。
この問題では、無限にあっても成り立つことを示すために、数学で用いられる背理法という証明方法が使われています。背理法とは、「ある事柄」が成り立たないと仮定した場合に矛盾が生じることを示して、「ある事柄」が成り立つことを結論づける証明方法です。背理法は小学校では学びませんが、数学における代表的な証明方法の一つです。この問題では、問題文に沿って考えを進めていくことで、背理法という考え方を体験することができます。さらに、三角形において「2辺の長さの和は残る1辺の長さより長い」という子どもたちに馴染みのある定理と丁寧な文章で子どもたちを導いています。
また、問題の冒頭にある「線分」という言葉は、小学生にはあまり聞きなれない言葉かもしれません。中学で数学を学ぶまでは、線分と直線をあまり区別せずに、どちらも「直線」と呼ぶことが多くあります。この問題では、冒頭に「線分」の説明をして、それ以降は「線分」という言葉を使っています。
無限、背理法、線分。中学以降の数学で出あうこれらのことを通して、浅野中学校の先生方が算数から数学へ誘っている、そんな印象の問題です。
このような理由から、日能研ではこの問題を『シカクいアタマをマルくする。』シリーズに選ぶことにしました。