シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

駒場東邦中学校

2023年12月掲載

駒場東邦中学校【社会】

2023年 駒場東邦中学校入試問題より

(問)隣(とな)り合い対立するAとBの2国があるとします。両国の軍事力は同程度ですが、この先、相手国を信用し軍備を縮小するか、信用せず軍備を拡大するか、その選択(せんたく)の組み合わせによる結果をまとめたのが下の表です。表から読み取れることとして正しいものを、下の(ア)〜(オ)から1つ選びなさい。

  B国 軍縮 B国 軍拡
A国 軍縮 両国とも軍事費を節約できる可能性が高く、地域の平和も保たれる。 A国:軍事費は節約できても、軍事力で差がつき、攻撃(こうげき)の危険に脅(おびや)かされる。
B国:軍事費の負担は増えても、軍事力や外交で優位に立てる。
A国 軍拡 A国:軍事費の負担は増えても、軍事力や外交で優位に立てる。
B国:軍事費は節約できても、軍事力で差がつき、攻撃の危険に脅かされる。
両国とも軍事費の負担が増える可能性が高く、地域の緊張も高まり、戦争に発展した場合に被害が大きくなる。一方で、軍事力の差により戦争が始まる危険性は弱まる。
  • (ア)「軍縮」を選択して良い結果につながることはない。
  • (イ)お互(たが)いに相手国の出方がわかれば、必ず「軍縮」を選択する。
  • (ウ)お互いに相手国の出方がわかれば、必ず「軍拡」を選択する。
  • (エ)相手国に出しぬかれるのではという疑念があるかぎり、「軍縮」を選択するのは難しい。
  • (オ)「軍拡」の内容が核兵器を持つことである場合、「軍縮」「軍拡」がどの組み合わせになっても核保有が自国民を守ることにつながる。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この駒場東邦中学校の社会の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答

(エ)

解説

表から、両国がどちらも軍縮を選択した場合は、両国ともに経済的な負担が少なく、平和が保たれることが読み取れる。どちらかの国が軍縮、もう一方の国が軍拡を選択すると、軍拡を選んだ国は軍事力や外交で優位に立つことができ、軍縮を選んだ国は攻撃の危険に脅かされることが読み取れる。両国ともに軍拡を選択した場合、戦争に発展した場合は被害が大きくなるものの、戦争が始まる危険性は弱まることが読み取れる。表から読み取れる内容からは、両国が軍縮を選択した方が良いと判断できるが、実際には相手国がどちらを選ぶかは分からないので、自国が軍縮を選択することが難しいと推測できる。

日能研がこの問題を選んだ理由

ロシアがウクライナへの侵攻を開始してから、すでに1年以上が経ちました。2023年の中学入試は、この大きなできごとを直接的、間接的に扱った社会科の問題が多数出題され、注目度の高さが伺えました。駒場東邦中学校の出題は、「囚人のジレンマ」とも呼ばれるゲーム理論のモデルの1つを、仮想のA国・B国の対立になぞらえていますが、ロシアとウクライナ(イスラエルとパレスチナ)にあてはめて考えることもできます。表からは、互いに相手国を信用して軍縮を選択することが、両国の経済にとっても地域の平和にとっても、最善の策だということが読み取れます。しかし、実際の紛争で、この最善の策がとられることが少ないのもまた現実です。「理論上は最善であっても、なぜ選択されないのか」に対する答えが(ア)~(オ)の選択肢を読むと見えてきます。この「なぜ?」を、受験生たちにも考えてもらいたい、そして争いをやめ、平和を保つために何ができるか、中学校に入ってからも考え続けてほしいというメッセージが聞こえてくるようです。ちなみに、今回の『シカクいアタマをマルくする。』では問7(3)をクローズアップしていますが、問7(4)では核の抑止力について、そして問9ではイスラエルとパレスチナの問題を取り上げています。

車内広告ではスペースの都合上、入試問題の全体像をお見せすることができません。駒場東邦中学校の2023年社会科の問題は、全体テーマが「人間の争いとその歴史」であり、わたしたちが過去や現在の紛争・戦争から何を学び、そして、どう未来に生かすのかを問いかける内容となっていることも特筆したいと思います。

冒頭の文章は「(前略)1つの戦争が終わっても争いが続いたり、新たな対立の関係が生まれています。世界中の人々が安心して朝を迎えることは難しいように思えます。ですが、だからこそ、わたしたちは多くのことを学び、考え、理想を掲げて、諦めずに対話を続けてゆくことが大切なのではないでしょうか。」と締めくくられています。この部分は、先生方が入試を通じて受験生に伝えたいメッセージでもあり、それが表現されているのが、今回取り上げた問いだと感じています。

このような理由から、日能研ではこの問題を『シカクいアタマをマルくする。』シリーズに選ぶことにしました。