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富士見中学校
2023年12月掲載
2023年 富士見中学校入試問題より
- 問題文のテキストを表示する
(問)次の会話文を読み、ア、イに当てはまる式を求めなさい。
先生:ここに電卓(でんたく)があります。この電卓で割り算をすると、割り切れた場合はその数が表示され、割り切れなかった場合は小数第7位以下が切り捨てられます。たとえば1÷2を計算すると0.5と表示され、1÷3を計算すると0.333333と表示されます。
〜(中略)〜
では、表示される数字が0.285714となるのはどんなときですか。
生徒:これは難しいですね。適当に計算してみるのでしょうか。
先生:もちろんそれでもよいのですが、なかなかみつからないこともありますね。別の方法を考えてみましょう。1÷0.285714を計算してみるとどうなりますか。
生徒:3.500003になりました。これは3.5と考えることができそうですね。
先生:そうですね。そうすると1÷0.285714=3.5で3.5は\(\frac{7}{2}\)だから0.285714はアを計算したことがわかりますね。ではこの考え方を使って、表示される数字が0.416666となるのはどんな計算をしたときか考えてみてください。
生徒:ちょっと計算が大変ですね。あ、わかりました。イを計算したときです。
先生:その通りです。よくできました。
中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この富士見中学校の算数の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)
解答と解説
日能研による解答と解説
解答
ア2÷7 イ5÷12
解説
問題の会話文で紹介されているのは次の通りです。ここでは、表示される数字をAとします。
手順(1) 1÷Aを計算する。
手順(2) 手順(1)で求めた商に近い「きりのよい小数」を見出す。
手順(3) 手順(2)で求めた小数を分数で表す。
しかし、会話文にはここまでしか書かれていません。では、どうすれば元の割り算の式がわかるでしょうか。いったん立ち止まり、ここまででどのようなことをしているのかを確かめてみましょう。
元の割り算の式をB÷Cとすると、A、B、Cには、B÷C=Aという関係があります。分数で表すと、\(\frac{B}{C}\)=Aと表せます。
このことをふまえると、手順(1)の計算は
1÷A
=1÷\(\frac{B}{C}\)……A=\(\frac{B}{C}\)を使います。
=1×\(\frac{C}{B}\)
=\(\frac{C}{B}\)
より、手順(1)の1÷Aを行うと、\(\frac{B}{C}\)の逆数である\(\frac{C}{B}\)が求められることがわかります。ですから、手順(3)が終わると、BとCを得ることができます。
以上より、問題で紹介されている方法の続きを加えると、次のようになります。
手順(1) 1÷Aを計算する。
手順(2) 手順(1)で求めた商に近い「きりのよい小数」を見出す。
手順(3) 手順(2)で求めた小数を分数で表す。
手順(4) 手順(3)で求めた分数の分子と分母を逆にする。
手順(5) 手順(4)で求めた分数を割り算の式の形にする。
以上の方法を会話文にある0.285714で確かめてみると、次のようになっています。
手順(1) 1÷0.285714を計算すると、1÷0.285714=3.500003…より、およそ3.500003。
手順(2) 3.500003に近い「きりのよい小数」は3.5。
手順(3) 3.5を分数にすると、3.5=\(\frac{7}{2}\)。
手順(4) \(\frac{7}{2}\)の分母と分子を逆にすると\(\frac{2}{7}\)。
手順(5) \(\frac{2}{7}\)=2÷7より、アに当てはまる式は2÷7とわかる。
実際に2÷7を計算してみると、2÷7=0.285714…となります。つまり、この方法でどのような計算をしたのか、その式を正しく求められます。
それでは、今度はこの方法を使って0.416666と表示する式を求めてみましょう。
手順(1) 1÷0.416666を計算すると、1÷0.416666=2.4000038…より、およそ2.4000038。
手順(2) 2.4000038に近い「きりのよい数」は、2.4。
手順(3) 2.4を分数にすると、2.4=\(\frac{12}{5}\)。
手順(4) \(\frac{12}{5}\)の分母と分子を逆にすると\(\frac{5}{12}\)。
手順(5) \(\frac{5}{12}\)=5÷12より、計算した式は5÷12とわかる。
実際に5÷12を計算してみると、5÷12=0.416666…となり、イに当てはまる式であることが確かめられます。
(参考)
今回の方法は、「循環小数は必ず分数で表すことができる」という性質とも結びつきます。
循環小数は必ず分数で表せるので、循環小数の逆数も分数で表すことができます。分数に直しにくい循環小数は、逆数にすると分数に直しやすくなることがあります。
- 日能研がこの問題を選んだ理由
この問題では、ある割り算を計算したときに電卓に表示される数字から、元の割り算の式を求めていきます。その求め方を、先生と生徒の会話文を通して読み取っていきます。会話の中では、具体例として表示される数字が0.285714の場合の求め方が示されています。いざ読んでいくと、説明されている部分だけを追っていっても、元の割り算の式にたどりつく一歩手前までしか求められないことに気づくでしょう。これは、意図的に方法の最後の部分の説明が省かれているためです。これまでにしていることにどのような意味があるのかを読み解き、続きの手順を考える必要が出てきます。一段階高度な読み取りの力や、具体例から手順を一般化する力が問われているといえるでしょう。
この問題に取り組んだ受験生は、「なぜ1を割るのだろうか?」「なぜこの方法で式がわかるのだろうか?」という問いを持ったのではないでしょうか。
「なぜ?」と疑問を持つ。「こうではないか」と仮説を立てる。そして、それらを数と式と言葉を用いて説明する。
電卓を使った一つひとつの操作にどのような意図や意味があるのかを会話文を読みながらさぐっていくこの問題には、単に操作や方法を身につけるだけでなく、どのような意図や意味が込められているのかまで考えながら学んでいってほしいという先生方のメッセージが込められているといえそうです。
このような理由から、日能研ではこの問題を『シカクいアタマをマルくする。』シリーズに選ぶことにしました。