出題校にインタビュー!
海城中学校
2023年11月掲載
海城中学校の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
3.変動帯である日本に住む上で、地学的な素養をもった社会人を育てたい
インタビュー3/3
地学への興味の持ち方は人それぞれ
先生方はなぜ地学に興味をもったのですか。
佐々木先生 僕は中2の時の地学の授業がおもしるかったことがきっかけです。恐らく生徒の中にも、文章より絵や音楽で表現することのほうが好き、という子がいると思いますが、理科をそういう観点でとらえると、物理、化学に比べると、生物、地学は図表や写真などから読み取ることが多いと思います。この問題もそうで す。そこに惹かれて地学を学ぶようになりました。
山田先生 私はもともと文系で、大学3年次の進路選択で理系の地学的な学科に進みました。理科教員としてはだいぶ例外だと思います。ただ、地学にはやはり魅力があると常々思っていて、12年教えているなかで、まだこういうおもしろさがあるんだという認識が深まっていくというか。同じようなことを教えていても、その内容の中にさえまだまだ気づけていないことがたくさんあって、発見が日々あります。
変動帯である日本という場所に住んでいる私たちは、さまざまな場面で地学的な現象にいくつも出逢います。専門家を育てたいわけではありませんが、地学的な素養をもった社会人を育てていきたいなという思いがあります。
海城中学高等学校 エントランス
まずはやってみることが大事
文系から理系へ、道が開けていたということですか。
山田先生 大学のなかで文系から理系へ道が開けることはほとんどないと思いますが、たまたま私がいた大学では地質・鉱物学と地理学のコースからなる地学科が改組して地球惑星環境学科というのができました。地理学には自然地理だけでなく人文地理もあり、もともと文系を迎える素地があったと理解しています。高校時代は文系の地学の授業を履修していて、それが得意だったし好きでした。でも、それを将来の仕事にしようとは思っていなかったのですが、大学時代に、このまま文系で学んでいたらサボってしまいそうだな、変えたいなと思った時に、同じ大学のなかで地学が選べたということです。
佐々木先生にしても、自分の感覚的なもので進路を選んでいるというか。それもアリなんですね。
山田先生 いろいろなパターンがあっていいと思うんですよね。特定の分野がすごく好きで、そこを丹念に掘り下げていく、専門性の高い人材も必要だと思いますし、そうでない人生ももちろんあっていいわけで、あっちに行ったりこっちに行ったり、紆余曲折があって、最終的に落ち着き先が決まるという人がいてもいいわけです。将来はいくらでも変わるので、特定の進路が決まっていない生徒には、食わず嫌いをしないでいろんなことにチャレンジしてほしいです。チャレンジしないと合う、合わないもわかりません。合わなかったという事実も収穫なので、まずはやってみることが大事だと思っています。
海城中学高等学校 実験室
多様な生徒たちに応えるために
異なる道を進んできたお二人だからいいのでしょうね。
山田先生 そう思っています。生徒も多様なので、同じ問いに対しても響く言葉が異なります。教員が一つの方向性しか持っていなければ、示唆できる部分がそれだけ少なくなります。そういうことを理解して、教員は教員でお互いの考え方を尊重する、ということを大事にすべきだと思っています。
佐々木先生 地学科にはもう一人、非常勤の教員がいます。中3以外は地学があるので、5学年を3人で教えるという形です。
お互いに影響を受けたことを教えてください。
山田先生 私は学部卒で、研究と言っても卒論でしか関わってきませんでした。ですからこれといって専門性が高い分野がありません。それに対して佐々木先生はとても専門性が高く、授業でも良い意味でかなり尖った内容の授業を展開されていて、私自身が非常に勉強になります。また、いろいろな作業がスピーディかつ、一つひとつ丁寧で、生徒対応も非常に時間をかけています。よくここまで突き詰めてやれるなと、いつも感心しています。
先ほどもお話したように、授業のスタイルも変わっていく過渡期だと思います。今までは講義形式で40人を相手に一方的にしゃべることが多かったのですが、これからは生徒たちにいかに主体的に動いてもらうか、が重視されます。その点、彼は、いかに生徒たちの手を動かすか、作業させるか、実験させるか、ということを常に考えています。それも教科書レベルではなく、論文を引っ張って来て、どんどん実験を増やしています。それも感心させられるところです。
海城中学高等学校 校舎
中高の教員として大切なことを学ばせてもらっている
佐々木先生はいかがですか。
佐々木先生 私は気づくとぐいぐい地球科学的な専門性を掘りたくなってしまうんです。私も専門家を育てたいわけではないのですが、そう言いつつも、深くなればなるほどおもしろさと、教科書どおりにいかない楽しさがあって、そちらの方向に行きがちなのです。ただ、いくら専門的なことを学んでも、生徒が理科を嫌いになってしまったら本末転倒です。自分は理屈や理由が大事だと思う一方で、そうではない側面をたくさん求められるので、バランスを取ることを注意しなければならないと自分に言い聞かせています。例えば、生徒が一人の人間としてどう勉強に向き合うかとか、大人になっても理科を楽しいと思える状態で卒業してほしいとか。生徒に与えたいものとのバランスを取る上で、自分にとっていい意味でのブレーキになってくれるのが同僚の先生です。
地学がおもしろいかどうかは生徒が決めること
研究と教育の狭間で苦労されているのですね。
佐々木先生 以前、大学教員の方と話した時に、「好き、楽しいという価値観を押しつけてしまうのは違うよ」と言われました。昨日も生徒に「おもしろいでしょ」と言ってしまった気がするのですが、それは良くなくて、おもしろいかどうかは自然現象や概念を目にした生徒が決めることなんですよね。
先生方から影響を受けた卒業生も増えているのでは?
山田先生 地学部も活動を始めてから十数年が経ち、卒業生が大学を出て、ちょうど博士課程を修了したあたりなんですね。この間、遊びに来てくれた生徒は、京都大学を出て博士課程を修了し、今、防災関係の研究所で働いています。段々そういう生徒が出始めているところです。
これから宇宙開発の仕事に携わるというOBもいて、いろいろなところで活躍してくれているのは嬉しいかぎりです。また、地学部所属ではありませんが、地学の教育実習生として戻ってきてくれる卒業生もいます。先ほど「こちらの『好き』を押しつけてはいけない」という話がありましたが、そういう生徒が育っているとすれば、何か響くものがあったのかもしれません。生徒に響くだけの熱量を常に持っていたいなと思っています。
海城中学高等学校 校舎内
おもしろそうだなと思ってもらえる問題を作りたい
入試の最後に地学があると思うのですが、受験生が疲れているなかでも、取り組みやすいリード文にいつも感心しています。どういうところにアンテナを張っているのですか。
佐々木先生 私は不思議だな、とか、自分の琴線に触れたものが問題づくりのきっかけになることが多いです。何年か前になりますが、「太陽の位置が1年間で八の字になる」という問題では、変なの、と思ったことがきっかけでした。今回の問題は、身近なものからどのくらい話を広げていけるか、という部分を意識して作りました。
山田先生 私は、題材のおもしろさが最初にあります。過去問を解く時間は長いと思うので、解くことがただの作業にならず、解くなかでこれはおもしろいなと思ってもらえるものを少しでも提供したいです。おもしろいと思ってもらえそうだな、あるいは気づきを得てもらえそうだな、と思える題材を見つけるところから始まって、そこからうまく問題として展開していけないかなということを考えていくという感じです。その題材がうまく見つかる時と見つからない時があり、見つからない時は苦労します。
佐々木先生 私の作問のポリシーとしては、小学校の学習指導要領の範囲内で作問しています。知識を詰め込まないと解けない、という問題はゼロにしたいというのがあります。
山田先生 一方で、受験生の多くが塾に通っている環境にあるので、そこで習ってきたことを前提として、学んだこと、努力してきたことが結果につながるような問い方を工夫することも大切だと思っています。
インタビュー3/3