シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

海城中学校

2023年11月掲載

海城中学校の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

2.地学の特色はいろいろな視点を持てること。視野を広げよう

インタビュー2/3

処理能力が高い受験生が多い

山田先生 理科の入試の構成は物理、化学、生物、地学の順です。それは毎年変わらず、大問4が地学になります。地学科としては、例えば、気象分野の問題のみで構成されるような、ある一分野だけで完結してしまうような出題はなるべくなら避けたいと思っています。それぞれの教員も、作問する際に、自分の専門ばかりにならないように気を付けています。

受験生が疲れているなかでも、興味を持たせる出題をされています。そこは意図されているところだろうと思いますが、他に工夫をしていることがあれば教えてください。

山田先生 たまに、時間が足りなくなったのだろうなという答案が見られます。ですからあまりにもボリュームが多くならないように注意しようというのは、理科全体の共有事項です。とはいえ、問題は各科目で持ち寄って作るので、最初はどうしてもボリューミーになることが多く、多いから削るということがほとんどです。そういうなかでも、受験生はよく対応していると思います。45分の試験時間のなかで、文章を読んだり、計算をしたりしなければなりませんから処理能力が高い受験生が多いなと感じます。

一方で、問題を読み切らず、書かれていること、聞かれていることに正対しないで解答を書いている受験生も見られるので、そこは注意してほしいです。入試では、問題に対応した答えを書くこと、何を聞かれているのかを正しく把握することが大切になります。

理科副主任/山田 直樹先生

理科副主任/山田 直樹先生

一般的な学習事項が身についていれば解ける

山田先生 理科では基本的に、中学、高校共に4分野すべての授業において、各科の専門の教員しか教えていません。ですので、必然的に入試の担当者もそうなります。

問題には担当者ごとの個性がある程度出ているかもしれませんが、全体でよく検討を重ねていますし、長い間で見てみれば、バランスは取れているだろうと思います。確かに難しい問題もありますが、すごく難しいことを覚えてきてほしいと思って作問しているわけではありません。受験生が知らないであろう題材を扱うことは多々ありますが、それまでの設問の流れに従って問題を読み、きちんと理解して、持っている知識とリンクさせながら思考力を働かせていけば、難しいことを知らなくても答えにたどり着けるように作っているつもりです。そういう面では、今回の問題も同様だと言えます。中学受験生として身につけておくべき一般的な学習事項が身についていれば、解ける問題であることを意識しています

サイエンスセンター設立で理科への興味が加速

サイエンスセンターができました。理科の授業は変わりましたか。

山田先生 変わっている部分と変わっていない部分があると思いますが、基本的には実験室の数が増えて、実験を自由に行えるようになりました。それは間違いありません。地学でいえば、旧理科棟に地学実験室はなく、物理実験室に間借りをしていました。偏光顕微鏡なども全て準備室の棚にしまわれているような状態でしたが、新たに地学専用の実験室ができて、中1、中2、高1の全クラスは必ず週1度、地学実験室で授業を行い、実験、実習の機会がどんどん増えています。

建設の際に先生方も希望を伝えたのですか。

山田先生 棚などの什器一つとっても教員の意向が反映されています。地学実験室には教壇がありません。そういったことも各科で話し合い、各科の考えに即したスタイルの実験室が出来上がりました。

まだ使い始めて数年なので、生徒の変化を言葉にすることは難しいですが、サイエンスセンターに魅力を感じて入学してくる生徒が多いので、理科部への加入者もすごく増えています。物理部は中1が80名くらい登録しています。実情を話せば、幽霊部員も少なくありません。例えば物理部と弓道部などというような形で兼部する部員も多く、最後まで熱心に活動するのは数名になるかと思うのですが、期待度は高まっていて、興味のある生徒が入ってきています。地学実験室の後方には化石などの展示物を増やすようにしていて、特に中1、中2は授業前の休み時間などに実際に触るということを楽しんでくれています。

海城中学高等学校 サイエンスセンター

海城中学高等学校 サイエンスセンター

授業のやり方が変わってきた

実験室ではどのような授業を行っていますか。

山田先生 中1、中2はそれぞれ、物理・化学・生物・地学を週にーコマずつ授業しています。地学に関していえば、中1・中2の授業の場所は地学実験室をデフォルトにしています。高1は週2コマあるので、1コマは教室、1コマは実験室で授業を行っています。

佐々木先生 教室で行う時も、生徒が1時間ずっと黙々と講義を聞き続ける、ということはなく、議論したり作業したりする時間を設けるようにしています。

山田先生 どの教科もそうですが、一方的に講義をするという授業スタイルは段々と変わって来ていると思います。今では、生徒は一人一台MacBookを持っていますので、例えば自分で調べたり、分析したりして、パワーポイントで資料を作って発表するといったような活動は、理科にかぎらず国語や英語などでも行われています。

地学科では、授業のバリエーションを今まで以上に増やしていこうと考えています。例えば最近では、中2で1学期の間、班ごとに気象観測を行いました。風向、気温、気圧、湿度を計測し、そのデータを使って夏休み中に考察を行ってもらいました。そして気圧と気温の関係など、自分でテーマを設定し、Excelでグラフを作るなどして班のなかで発表を行いました。

生徒さんはどの程度パソコンを使えますか。

佐々木先生 Excelは教えてあげないといけないことが多いです。

山田先生 PowerPointとWordは普通にできますが、Excelは「使ったことがない」という生徒が多く、グラフを書く作業に手間取る生徒もいます。

佐々木先生 初めて触れるアプリケーションでも、使う機会さえあれば、自分で調べて使ってみる、ということをする生徒も多いです。この間、修学旅行のしおりを作っていた時も、Photoshopを使って背景を透過させるなど工夫している生徒がいたので、「使ったことがあるの?」と聞くと、「いや、初めてです」「調べてやってみただけです」と言っていました。そういう場面によく出くわします。

海城中学高等学校 サイエンスセンター

海城中学高等学校 サイエンスセンター

地学部員が国際天文学・天体物理学オリンピックで金賞を受賞

校舎に金賞の垂れ幕がありましたが。

山田先生 あれは地学部の生徒です。国際天文学・天体物理学オリンピックで金賞を受賞しました。彼は、前年度には地学オリンピックの国際大会でも金メダルを取っています。

オリンピックについては、地学部員は基本的にみんな受けようねという流れがあって、これまでも何人か日本代表に選ばれています。垂れ幕が出ていた国際天文学・天体物理学オリンピックは、これまで日本からの代表団の派遣がなかったんですよね。「東大王」というでテレビ番組に以前出演されていた岡本沙紀さんが委員会を立ち上げられて、初めて日本代表団を派遣していただき、それによって彼が金メダルを取ることができました。高校生が世界で活躍できる舞台が増えたという意味で、これはすごく大きいことだと思います。大会はポーランドで行われ、ペーパー試験もあれば、望遠鏡やプラネタリウムなど、天文学に関する技能を競うようなこともあったようです。また、日本代表チームでポスターを作るというような活動もしたようです。

希望者を募り、授業以外の活動も実施

地学科では、授業以外で何か取り組みを行っていますか。

山田先生 毎年1回、全校を対象に希望者を募り、地学科の教員が引率して、校外学習を実施しています。昨年は11月に長瀞に行ったのですが、30人くらい集まりました。
あと、地学部の活動では、湧水の流量の観測に日ごろから取り組んでいます。高田馬場のおとめ山公園に湧水の出る場所があり、そこで継続的に観測しています。

天体観測はしていますか。

山田先生 本校は新宿区にあるので、光の影響が大きく、天体観測には向いていないんですよね。でも、日本一の繁華街の近くという地理的な特徴を活かして、夜空の明るさを観測し、光害の研究を行っていたこともあります。

海城中学高等学校 サイエンスセンター

海城中学高等学校 サイエンスセンター

地学で得られる視点は人生を豊かにする

山田先生 地学部ではひと月からふた月に1回くらいのペースで、野外に出かけています。空間的にも時間的にもスケールが大きく、いろいろな視点を持てるところが地学の醍醐味の一つだと思います。ミクロ単位の短い時間・空間の話をすることもあれば、宇宙開闢(かいびゃく)以来というような、100億年・100億光年というスケールで話をすることもあります。このスケールの幅広さ、多様性が地学の特徴だと思います。そういう視点で物事を見られることは人生としても大事な視点であると思います。

朝起きて、電車に乗って、学校に来て、また家に帰っての繰り返しでは、どんどん視野が狭くなります。今いるこの場所のことしか考えられなくなってしまいがちですが、少し宇宙のことを考えたり星を見上げたりするだけで、想像力を巡らせて、ああ、あそこであんなことが起こっているとか、この時代には全然違う環境がここにあってとか、今この場所で起きていることではないことを考えられます。そういうことが人生を豊かにするのではないかと思いますし、尚かつ、強く生きて行くことにもつながるのではないかと思います。地学の授業を通じて、それぞれにとっての地学を学ぶことの意味を考えてもらえたらいいなと思っています。

インタビュー2/3

海城中学校
海城中学校もともとは海軍予備校だった海城中学校。創立されたのは1891(明治24)年と、一世紀以上の歴史がある伝統校です。建学の精神は、「国家・社会に有為な人材を育成する」こと。そのために、「フェアーな精神」「思いやりの心」「民主主義を守る意思」「明確に意思を伝える能力」を身につけた、高い知性と豊かな情操を持つ人物を「新しい紳士」と名付け、その育成を目指している。
生徒の学習意欲をかきたて、個性豊かに育てるためには、ふさわしい学習環境が必要と考え、2021年夏に完成したScience Center(新理科館)、ユニークな体育館(アリーナ)、カフェテリア(食堂)など、一人ひとりが、より良く、より深く学べるよう必要な施設や教育環境が整備されている。個々の生徒の進路選択のために、豊富な情報、資料のそろった進路指導室が準備され、担当の先生による面談が随時行われ、学習や進学の悩みや迷いなどには、専門のカウンセラーも適切な助言を与える。
習熟度別授業は行っていない。個人のブースにこもって勉強するのではなく、級友と切磋琢磨し、集団として成長してほしいと考える。6年間を通じて学習の中心にあるのは、それぞれの時期に応じた内容の濃い授業だ。授業は、大学入試そのものを目標として行うのではないが、結果として大学受験に十分対応できるものとなっている。教員もよりよい授業を追求すべく、相互の情報交換や外部の研究会への参加などを通じて研鑽を続ける。
入学後生徒たちは先ずはPAやDEといった体験学習を通して「新しい人間力」(コミュニケーション能力・コラボレーション能力)のイロハを学ぶ。文化祭などの学校行事やクラブ活動などは、そこで習得した基礎力を、実践活動を通して向上・発展させる場・機会として位置付けられる。と同時に、そうした場で力を出し切る経験を積み重ねることで生徒たちは自分に対する信頼(自己信頼)や「(多少の困難があっても)自分は出来る」といった感覚(自己効力・自信)を高める。ここぞという時にうろたえ・浮足立つことのない「新しい紳士」のエートス(行為態度)はこうした営みの中で培われる。
中学3年生を対象に、中学卒業時の3月下旬にアメリカ研修が実施される。バーモント州のセントジョンズベリーアカデミーという学校に通学する子女の家に1週間ほどホームステイをしながら同校に通学する。ボストン見学やマサチューセッツ工科大学も訪問します。高1・2年生では、7月下旬から8月かけてイギリス研修が実施される。モーバンという町に滞在し、ホームステイしながら英語の勉強をする。現地の先生やホームステイ先の家族をお招きし、スピーチの発表会を開く。また、国内での語学研修としてイングリッシュキャンプを校内で夏休みの3日間実施し、すべてネイティブの先生による授業が実施されている。