出題校にインタビュー!
山脇学園中学校
2023年10月掲載
山脇学園中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
2.地理学習の本質は空間でとらえること。地図を読み取る力をつけよう
インタビュー2/3
身近なことから過去へ、そして将来へ。
猪野先生 1年生で地理を、2年生で歴史を、3年生で公民を学ぶカリキュラムを組んで、身近なことから過去へ、そして将来へ。社会科の内容を比較していくという構成で学んでいきます。
地理が最初なのは、一番とっつきやすいからです。自分の住んでいるところなど身近なところから始めて、日本、そして世界へと視野を広げていきます。身近なことに興味をもったら、時代を掘り下げてみようかと、過去へ向かいます。中2の歴史では日本の歴史を中心に学びます。そして再び現代へ。中3の公民では現代の問題、課題を通して、過去を踏まえた上で、より良い未来につながる解決策などを考えます。
生徒さんの地理への興味関心はいかがですか。
猪野先生 苦手意識が強いですね。中1の最初は地理なので、どう引き寄せるかは気を使うところです。そこで入学が決まった時点で宿題を出しています。ここ最近は、知っている国について調べて、紙1枚にまとめてもらっています。それを社会科の最初の授業で発表し合います。生徒が選ぶ国は、名前を知っている、行ったことがあるなど身近な国が多いです。教科書の順番に進めていくので、若干最初は気候や宗教なども入っていますが、そこから先で重きをおいているのは世界地誌です。
社会科主任/猪野 一洋先生
学びの先が見えるような課題を出す
猪野先生 私はどんな授業になるのかな、と考えながら教材研究をすることが好きなんです。生徒の世界観が広がるといいなと思っています。冗談でよく言うのですが、映画デートをした際に「楽しかったね」で終わるよりも、「この映画ってこうだったよね」「ああだったよね」と、会話の中に生きた言葉が出てきたほうが楽しいじゃないですか。社会の中には物事を見る視点がたくさんあるので、授業でも自分が感じたことを言葉にして、こういう視点で見ればいいのか、ということを学んでもらえるような授業ができればいいと思っています。
高2は5月に長崎、沖縄に行きます。長崎では高台に宿泊するのできれいな夜景を見ることができます。そこで最初の地図学習と絡めて、「なぜ夜景がきれいに見えるのか、地理院地図を使い、自分で地図を作って説明せよ」という課題を1学期に出しています。
まず高台にあるので標高をデータにのせます。ただ高いだけではいけません。そばにふさぐように高い山があったらきれいな夜景は見られないので、そのまますっと降りていて、降りた先に市街地が広がっている。そこまで証明できて、初めて高台にある意味がわかります。こうした学習をすれば、夜景を見てくれるだろうと思います。学んだことがその先つながるであろうことを意識して課題を作っています。
山脇学園中学校 イングリッシュアイランド
女子の感性を刺激する授業を心がけている
猪野先生 歴史は資料がなければ語れないので、資料の読み方も授業でやります。古文書だけでなく絵画なども読み解きます。例えば高2の歴史の鎌倉時代では、定期市の様子を描いた絵画を見せます。教科書には「なんとかの市の様子」と書いてありますが、どのようなものかがわかりづらいのです。今のお嬢さんは写真や動画が好きなので、そういうものを使って授業を行っています。
橋本先生 私は今、高2の地理で気候の学習を行っています。気候というと区分が13種類あって、というような話になりがちですが、それではつまらないので、導入として「魔女の宅急便」のエンディング曲が流れるシーンを使って、「この舞台地の気候を当てる」という課題を与えました。そうすると歌い出す子もいて、乗ってきてくれるんですよね。動画から感じていき、画面を見ていくと市場のシーンがあって、「みんな半袖だね」「寒くないのかな」とか。飛んでいる雁は、高緯度で繁殖するんですよ。そうすると「暖かい、だけではないと推察できます。「針葉樹林もあるよ」というような、図の読み取りを授業のなかでもやっていけたらいいなと思います。
猪野先生 例えば札幌五輪のテーマソング「虹と雪のバラード」の動画なども、当時の街や五輪の様子がわかります。札幌はあの時に開発されたのか、と、実感が湧くのです。最後は日の丸飛行隊(ジャンプ)です。表彰台を日本人選手が独占したんですよね。
今は教材になる動画がたくさんあるので、上手に使いたいですね。
気づきを生むアクティブラーニング
子どもたちは、他者に気づく、気づける、相手との会話を大事にする……。そういう視点や考え方を持って入学してくるのでしょうか。あるいは入学後に身につけていくのでしょうか。
猪野先生 小学校でも考えさせる授業をやっているそうなので、その素養や経験を生かしながら、本校で深めたり、広げたりしていくという感じです。実は先日アクティブラーニングの進捗状況を教科でとりまとめました。そうすると「自分では気づかない視点をもつことができてよかった」という感想が出てきました。学年が上がると、グループワークの後に生徒が質問します。すると先生が「こうだよ」と言って深まっていくことがあります。課題をみんなでシェアして、こういう視点があったのか、と気づくこともあります。本校ではiPadを入れているので、授業中に検索ができます。調べてみたらこういうことがあった、と気づくこともあるので、私たち教員にとっては想定外のことが起きますが、深まっていく手応えはあります。
山脇学園中学校 掲示物
過去問から本校の興味関心に触れてほしい
この問題は過去にやったな、と思わせるような、問題づくりをしているように感じるのですが。そこは意識されていますか。
猪野先生 説明会では「過去問を解いてください」とお伝えしています。古い問題にも触れてほしいので、塾で「聞いてごらん」と言っています。インフルエンサーではありませんが、そういうところに本校の興味、関心があるから勉強してくださいね、ということを、あえて匂わせているのです。正直者が馬鹿を見ないように作っています。
また、「自分のやりやすい問いからやってください」とも言っています。「地理が苦手なんです」と言う人には、「できる問題からやればいい」とアドバイスしています。本校の入試は地理、歴史、公民の順ですが、歴史から始めてもいいし、公民からでもいいのです。地形図を出すのは、読図が地理の基本だからです。その力をつけてほしいと思っています。
A入試には地理がありますが、C入試は地理がありません。不公平にならないように、他の問題で調整しています。
地図や地形の学習に役立つ国土地理院のデータ
橋本先生 地理から始まる形式になって10年以上経ちますよね。
猪野先生 そうですね。前の前の主任の先生から続いています。
しかも地形図から入ります。
猪野先生 そこは本校の特徴として継続しているところです。ただ、過去問と同じ形式では、暗記に走る可能性があります。それではいけないので、きちんとした理解と、説明できる力を問えるよう、小問レベルで工夫をしています。フルモデルチェンジはしませんが、ちょっとしたマイナーチェンジは重ねています。
橋本先生 私は地形図から入るところがいいなと思っています。地理はオリジナリティが少ない学問と揶揄されがちです。経済地理学、環境地理学、交通地理学など、プロパーに地理がくっついているようなとらえ方をされがちなのですが、では地理のオリジナリティとは何か、と言えば、空間でとらえることなんですよね。そのためには地図が必要で、それを読み取る力が必要になるので、地形図の学習はおろそかにしないでほしいと思っています。高2の授業がカリキュラムの改訂により最初に地図学習がきているので、地図学習に全力を注いでいます。楽しんでやっています。
猪野先生 公民の分布などでも、「コンビニ」をグーグルマップで検索すると、点で密集しているところと、そうではないところがあります。そこに電車の路線図をのせると、駅前に密集していて、なぜそこに集まっているのかがわかります。
橋本先生 これまで地形図といえば紙だったじゃないですか。今は国土地理院がデータを公開して誰でも見られるようにしているので、作問も紙の地形図ではなく地理院地図をもとに行っています。今回の粟島もそうです。授業でも地理院地図を使っています。標高ごとに色をつける、鉄道を乗せるなど、授業での使い方を考えています。家の周りを調べることもあります。
iPadがなかった時には見せるしかなかったのですが、自分の手で動かせる時代になって便利に使っています。地図学習から地形図の学習に進むのですが、3Dもあって凹凸も理解できるので、黒板に書くよりもイメージできていると思います。
山脇学園中学校 ラーニングフォレスト
インタビュー2/3