出題校にインタビュー!
山脇学園中学校
2023年10月掲載
山脇学園中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
1.社会科は身近なところから社会の「現在」「過去」「未来」を学ぶ教科
インタビュー1/3
実際に見聞きした情報で作問
この問題の出題意図からお話いただけますか。
橋本先生 ここは市町村でいうと粟島浦村です。大学生の時に友だちと行ったことがある島で、思い入れがある土地でした。自分で撮った写真を使って「この風景はどこから見える風景か」という問題も1つ出題しています。
この村に行った時、宿泊した場所に役所勤めをしている息子さんがいて、「どの市町村も少子高齢化で、この村もこの先どうしたらいいのか」と悩んでおられたので、地域の様子が何となくニュースに出たりすると、気になっていました。2014年頃に、この地域で風力発電ができないか、と検討されていて、結局は北のほうの海が選定されたのですが、もし導入されていたら実際にどのくらいの電力を作れて、どんな問題が起こるのか。そういう実験を行った、というニュースを耳にし、それをヒントに作問しました。
地図上のXは私が決めました。近くに粟島漁港があるので、一番多かった解答は「漁業者たちが一番困るのではないか」という解答でした。二番目は「騒音」でした。風力発電をする時の問題は小学生レベルの資料集などにも載っています。子どもたちの知識の応用力を感じることができたので、出してよかったなと思っています。
社会科/橋本 真人先生
正答率は58%。記述なので満足の出来
解答は予想通りでしたか。
橋本先生 (広告用に)作っていただいた地図からは外れてしまうのですが、ここからさらに西のほうへ行くとオオミズナギドリという鳥の繁殖地があります。風力発電のプロペラの部分に鳥が巻き込まれて死んでしまうこともあるので、地図全体を見て、そこも答えとして出てきたらいいな、と密かに期待していました。それは難しいですよね。
もう一つ、出なかったのが、「船の航行路の邪魔になる」という解答です。粟島漁港の地図記号の西側に船の定期便が出ています。この島に行くためには船が必要で、前の問題でも先生と生徒のやりとりの中で「先生はどうやって島に行ったんですか」「船で行ったんだよ」というくだりがあります。そういうところにちょっと気持ちがあれば、「船の航行路の邪魔になる」という答えも出てくるかな、と期待していました。
いずれにしても、答えにバリエーションがあり、どんな答えが出てくるのか、楽しみでしたので、自分でもいい問題を作れたなという思いがあります。
受験生は何かしら書いていましたか。
橋本先生 空白が少なかったです。書こうという気持ちが表れていたのでよかったです。思っていた以上にできていて、正答率は58%でした。記述問題だったので、これくらいできてくれれば私としては満足です。
洋上風力で「土地が少ない」という表現が気になった
印象に残っている解答はありましたか。
橋本先生 「土地が少ない」「土地が足りない」という解答です。辞書も引いたのですが、土地=陸地を指すので、洋上風力ということで海の上にXを置いているということを踏まえると、答えに「土地が少ない」「土地が足りない」というのは少しニュアンスが違うのではないかと思いました。この受験生は地図の「海」が読めているのかな、と思いました。
魚への影響はないのですか。
橋本先生 風力発電施設を、例えば海に埋め込んだ時に、そこが魚の住処になるかもしれない、という考え方があります。それがどうなるかなというところで、可能性がないとは言えません。ですが、実験を行うに際して、島としてOKを出したらしいです。やはり火力だけに頼るというのは、島の人たちも不安なのだと思います。島に火力発電をするための資源を持ってこなければいけませんよね。何かの拍子にそれが途絶えた時に、電気のない生活になるかもしれません。村の人たちとしては、子どもたちのために、と考えると、他の発電施設も検討したいという気持ちがあるのではないかと思います。
山脇学園中学校 校舎
信号機で知った島の暮らし
ちなみに先生は何をしに粟島へ行かれたのですか。
橋本先生 一緒に地理を学んでいた友人が、夏の間に地域協力隊か何かで手伝いに行っていて、「冬も行くよ」というのでついて行ったんです。
大きな集落が2つあって、そのうちの1つがこちら側です。学校はこちら側にしかないです。反対側にあった分校はなくなってしまいました。人は住まわれていますが、車移動になります。コンビニはなかったような気がします。感動したのは、信号機があることです。1つだけなんですけどね。この地図のYの南のほうに小中が並んでいますよね。その前に1つだけあるのです。この島に高校はなくて、いずれこの島を出るから信号を知らないと困るということで、あまり車は通らないのですが、作られています。これが島の暮らしかと感じました。
地域を活性化させることが目的なのですか。
橋本先生 当時は竹が多かったようで、竹を使って何かできないかということを考えていたようです。馬がいるので、それを育てるための山村留学で子どもたちが来ていると聞いて、いろいろ考えていらっしゃるんだなと思いました。
キーワードは「価値観」と「対話」
入試問題を作成する上での社会科の考え方についてお話いただけますか。
猪野先生 社会科では「国際社会で活躍できる人材の育成」を念頭に置いています。世界にはいろいろな価値観を持つ人がいます。自分の価値観を主張しながらも、他人の価値観にも耳を傾けて、対話により調整し協力して、国内外の人と交流ができる人材を育成したいと考えていますので、入試問題にもそうした考え方が反映されていると思います。コロナ感染などにより、流動的な世の中になったことを踏まえて、正解の見えない社会課題にも向かっていける力を養ってほしいとも思っています。
その考え方は入試のどのようなところに反映されていますか。
猪野先生 地理ではそれぞれの地域がもつ異なる価値観を問いたいと思っています。これは日本の地形図ですが、そういうものを通してその地域の歴史や文化、産業などを問うようにしています。価値観は時代によって変わるので、歴史では時代によって人々の考えがどのように変わってきたのか。文化や制度がどのように変わってきたのかを問う問題を出しています。昨年度のテーマは貨幣でした。貨幣のデザインには日本文化が現れている、という観点から、その変化に着目して作問しました。
山脇学園中学校 EIシアター
歴史では過去の人と対話してほしい
猪野先生 歴史では問題文や資料などを読んで、過去の人と対話できるような問題を作っています。先ほど「対話」による交流という話をしましたが、過去の人との対話も大事であるという考え方がベースにあります。過去の人と対話をしてみると、当時の人たちも合理的決定だと思い、法律や制度を作って工夫して生きて来たことがわかります。つまり、今の価値観で判断し、おかしいなと思っても、それを断罪してはいけないということですね。そういうことをわかってほしいので、いつもテーマ史的な出題をしています。
公民は、現代の諸課題について問う問題を出しています。歴史とも関わりがあるのですが、その時代時代で、社会に対応する合理的な制度ができています。民主主義も選挙も国民の声を吸い上げようという観点で制度が整ってきたという背景をまずは押さえてもらい、その上で、時代の変化とともに制度上の不備や齟齬が出てきますから、今、どういう問題があり、それについて受験生がどのように考えるか、を問うような問題を出しています。
社会科、特に公民分野は、技術の革新によって新しい製品やサービスが出てくると、問題もそれに対応していくことになります。例えば、チャットGPTなどの活用が広まると、学校教育ではどうすべきかなどの問題が生まれます。後追いではありますが、それについてどうしましょうかと考えられる人材を育成したい。その思いを大問に落とし込んでいると、常々公民の教諭は話しています。
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