シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

山脇学園中学校

2023年10月掲載

山脇学園中学校【社会】

2023年 山脇学園中学校入試問題より

【提案書】
地図中Yに、発電所の地図記号があります。この発電所では、火力発電が行われています。エネルギー供給面では、粟島浦村は100%が火力発電に依(い)存しています。しかし、脱(だつ)炭素社会が目指されている我が国において、火力発電だけにたよらず、風力発電などの再生可能エネルギーの割合を増やしていくことが重要だと考えています。
そこで地図中Xの海域に、風力発電施(し)設を設置することを提案します。構造物は、海底にうめこんで固定します。Xの海域は内浦港から距離的に近いので、発電設備にトラブルがあってもすぐにかけつけて、点検をすることができます。

問題図 地図

あなたは粟島で風力発電の導入を進める仕事をしています。この仕事に関わるメンバーとともに作成した上の【提案書】について、問いに答えなさい。

(問)この【提案書】の通りに風力発電施設を設置しようとすると、脱炭素社会の実現に近づくかもしれませんが、粟島に住む人々との間で、別の問題が引き起こされる可能性があります。どのような問題が予想できますか。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この山脇学園中学校の社会の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答例
  • 漁業に悪影響が出る可能性がある。
  • 海の景観が損なわれる可能性がある。
  • 漁船の航行のさまたげになる可能性がある。など
解説

【提案書】には、脱炭素社会の実現をめざすために、地図中にしめされたXの海域に、火力発電だけにたよらず、風力発電施設を設置するという提案が、Xの海域が選ばれた理由とともに説明されていました。この問題の背景には、脱炭素社会の実現と、そのためになぜ火力発電の割合を減らす必要があるのかということがあります。脱炭素社会とは、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする社会のことです。そして、一般的に火力発電は、石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料を燃焼することから、他の発電にくらべて多くの二酸化炭素を排出しています。これらを背景として、エネルギー供給の100%を火力発電に依存している粟島に再生可能エネルギーである風力発電施設を設置して、その発電の割合を増やしていこうとしているのです。この【提案書】をもとに、地図で風力発電施設の設置場所を確認すると、Xの近くには漁港があります。つまり、粟島では漁業を営む人々がいるということが考えられます。そこへ、風力発電施設の構造物を海底にうめこんで固定すれば、その工事や、風力発電の稼働時に、魚介類の生態系に悪影響を及ぼしたり、魚介類の漁獲量が減少したりするかもしれません。また、海に設置された風車によって、漁船の航行がさまたげられたり、海の景観が損なわれたりするかもしれません。
このように、【提案書】の内容と地図を結びつけて、提案に対する住民にとっての問題を考えていきます。

日能研がこの問題を選んだ理由

この問題では、【提案書】にしめされた粟島(新潟県)について、脱炭素社会の実現のために、温室効果ガスを多く排出する火力発電だけにたよらず、風力発電施設を設置して、再生可能エネルギーの割合を増やしていくという提案が、粟島の住民にどのような問題をもたらすのかを考えます。

受験生のほとんどは、粟島について直接、授業やテキスト等では学んでいません。入試当日に初見の資料として、【提案書】や地図(地形図)を読み取り、既存の知識と結びつけながらその場で考えを深めていきます。【提案書】にあるように、脱炭素社会の実現には、地球温暖化の原因となる温室効果ガスを多く排出する火力発電よりも、再生可能エネルギーである風力による発電のほうが適していると考えられます。しかし、風力発電施設の設置場所を地図で確認すると、近くには漁港があるために、設置工事や、風力発電の稼働時に漁業や周辺海域に悪い影響がないかなどの不安な点も生じます。こうした、ある課題や解決策を考えるとき、初見の問題だからこそ、受験生は思い込みや決めつけなしに、しめされた資料をもとにその地域の実情も想像し、そこに寄り添いながら自分なりに探求し続けることができるでしょう。

また、脱炭素社会の実現のために、国や地方自治体、私たち1人1人が取り組めることは数多くありますが、それが地域や私たちのくらしの実情に合うものかどうかも考えなければならないことを、受験生に投げかけているのではないでしょうか。同じように、日本や世界で生じている未知の課題についても、さまざまな資料をもとに多角的な視点で、その地域にくらす人々や周囲にあたえる影響を考えていくことの大切さがメッセージとして込められていると感じました。

このような理由から、日能研ではこの問題を『シカクいアタマをマルくする。』シリーズに選ぶことにいたしました。