シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

淑徳与野中学校

2023年09月掲載

淑徳与野中学校の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.逆説パラドックスをテーマとした問題を作成

インタビュー1/3

まずはこの問題の作成意図について教えていただけますでしょうか。

池上先生 問題作成において、こういうのは避けたいというポイントが2つほどありました。

まず、文章や図、グラフを複数組み合わせること自体が目的となってしまうような情報処理問題は出したくない、というのがありました。組み合わせ自体が目的になってしまうと、複数の資料に散らばった細かい情報をただ短時間で組み合わせるといった情報処理問題になってしまい、国語という教科が目指す「読解力」や「思考力」を問うていないと思い避けたかったんですね。

また、「考えを書きなさい」という問題も、最終的に暗記した道徳的な知識を答えさせるような問題になってしまうことが多く、たとえばSDGsのような環境系の文章を出題すると、それについて学んだ知識をただ書くだけとなってしまい、それも国語力ではないと考え、避けようと思いました。

国語の問題ですので、何を要求するかというと、「文章の論理的な読解力」と「論理に見合う身近な具体例を対応づけられるような思考力」、「他者に伝わる文章で書く表現力」を問う問題を作りたいというのがありました。

普段中学生に授業をしていると、彼女たちが道徳的な観念や常識的な発想に縛られているのを実感します。たとえば、「ごみを減らして地球にやさしくしよう」とか「わがままは良くないから、他者には思いやりを持とう」など、それら自体は決して間違ってはいないのですが、道徳的観念や常識的発想が強すぎてしまうと国語の授業としては上手くいきません。

評論文は、常識とは違う筆者独自の見解を述べるものなのに、常識に縛られていると筆者の主張が読み取れなくなります。小説は、人間が非人間的な状況に追い込まれていく現実を描くことが多いのに、それを単に「この人はひどい人だ」と道徳的に裁断してしまうと、文学の豊かな読みは生まれません。そういう常識や道徳を疑う力を付けたい、という想いが授業の中で出てきたので、今回の出題については逆説パラドックスをテーマとして作成しました。

中学生は、まだ人生経験が少ないので「力が強い人、能力が高い人が強いんだ」、「能力が低い人は弱いんだ、負け組なんだ」といった発想に縛られがちです。今回の出題文のように「見るからに強そうなものが強いわけではない、柔らかく弱く見えるもののほうが強いことがあるんだよ」という逆説を文章読解で理解してもらったうえで、それが自分の身の回りにもあるはずだから探し出して説明してね、といった出題にしました。

この問題を拝見した時に、提示された文章と身の回りの自分の経験や世の中にあることなど、与えられた情報と自分自身をつなげることを大事にされているのかなと受け取りました。

池上先生 高校に近づけば近づくほど、取り上げる文章にはパラドックスがたくさん出てきます。「一般的には良いと思うことが実はそうではない」といった文章を読んでいくことになるのですが、それをきちんと読めたかどうかを確認するのに、授業中「このロジックが当てはまる別の例を考えてみて」といった質問を投げかけます。そこで適切な例を持ってこられる生徒は内容がしっかり理解できていますが、わかっているようでわかっていない生徒はとんちんかんな例を持ってきます。抽象的で自分の生活とは縁遠いと思っている論理が、実は身の回りの学校生活や家族の関係などにも当てはまるんだよ、ということは普段から考えてほしいですね。

国語科/池上 玲子先生

国語科/池上 玲子先生

ピントの合った解答を出せる子が少なかった

見るからに強そうなものと柔らかく見えるもの、これについての対比させる具体例ってなかなか出てこないように思うんですが、どのような解答がありましたか?

池上先生 要求していることがかなり高度だったことと、国語の試験時間が60分しかないこともあって、ピントの合った具体例を出せる解答は正直少なかったです。強そうなものと弱そうなものはなんとなくもってくるのですが、前提の条件となる共通の土台がないんです。

この問題は台風や強風の時にどうなるのか、という話ですが、状況設定がなく素材だけ比べてしまう受験生が非常に多かったです。特に多かったのは「高いところから落とした時に一見強そうなガラスは割れるけど、一見弱そうな紙は破れない」といった高いところから落としてみた的な解答が多かったですね。他にも「風が吹いたら硬いせんべいは割れるけど、プリンは揺れるだけでつぶれない」みたいな解答もありました。せんべいとプリンが風に吹かれるシチュエーションって?といった具合に状況設定がうまくできないんですね。単に強くて折れる素材と柔らかくてグニャってなる素材を2つ持ってきただけのものが一番多い誤答でした。

想定していた模範解答のひとつに、「地震が来た時にどっちの建物がどうなるか?」といったものがありました。たとえば、「頑丈そうに見えるコンクリートの建物と弱そうな木造の建物があった時に、もともと地震が来たら揺れるようにできている木造のほうが壊れにくい」と言ってくれたらマルなんですが、状況設定が何もなく、単に「落とすと割れる・割れない」といった解答だとバツになってしまうので、ピントが合う・合わないはとても難しいと感じます。

淑徳与野中学校 校舎

淑徳与野中学校 校舎

単に事実の説明では満点にならない

この問題の条件の2つ目には「具体例は、生物、人間、物、社会、どんな例でもかまいません」とあって、先生方のやさしさを感じるメッセージに思えたのですが、どのような例がありましたか?

池上先生 「社会」に関してはほとんど出てきませんでしたが、「生物(動物)」「人間」については結構書いてくれました。よく出てきたのが「恐竜とネズミ」で、おそらく理科や社会の授業で習っていて、それを自分の知識から引っ張り出しているのはすごいと思うんですが、満点をもらえなかった解答は、単に事実の説明になっていました。たとえば、「地球に隕石が落ちた際に、大きくて強そうな恐竜は絶滅したけれど、弱そうなネズミのような小動物は滅びなかった」だけだと理由がなく、そこに逆説性が見えないんですね。一方で同じような例でも、「隕石が落ちて寒くなった時に、恐竜はエサがたくさん手に入らなくて滅びたけれど、小動物は少しのエサで生きられるので滅びなかった」といったように、どうしてその状況が小動物に有利だったのかを説明できればマルになっています。

「植物」ネタは、出題文にあったヨシとカシを別の植物に変えただけのものは残念ながらバツにしましたが、同じ植物でも違う観点に注目して書ける子もいました。たとえば、「陽樹は幹が太くて強そうだけど、他の樹木が生い茂ってくると陽の光に当たれず成長できない。一方、ツル植物は弱くてちぎれそうだけど、高木に巻き付くことで日光に当たって生き延びられる」というように、風が吹いたので折れる・折れないではなく、条件を変えて書いていたものもありました。

満点正答率は全体の7%のハードな問題

正答率はどうでしたか?

池上先生 この問題については、10、5、0といった感じの採点で、全く的外れな解答だと0点、事例は合っているけれど理由の説明が中途半端、また状況設定が不十分だったりするものが5点といった具合です。

難しい問題でしたが、白紙はほとんどなかったです。とはいえ、「コンクリートVSプリン」みたいな素材勝負の解答が割と多かったので3/4は残念ながらバツでした。それ以外は何らかの点数が取れていたものの、全体の7%程度が10点満点という結果でした。

その結果についてはどのように感じましたか?

池上先生 私が問うている力として、(1)まずはロジックを読解し、(2)そのロジックに当てはまる具体例を見つけて、(3)それを伝わる文章で書く、と3段階あったのですが、(1)はほとんどの受験生が出来ていたと思うんです。でも(1)から(2)がすごく難しくて、なんとなく表面的に似てそうな2つを持ってくる子が非常に多く、「いい例なんだけど理由や状況が説明されていないから伝わらない」というケースが多かったんですね。そういう意味では、問いたい力は段階的には問えたかなと。

とはいえ、試験時間が限られている中で小学6年生の人生経験で本文に合う具体例を出すというのは、かなり難易度の高いことを要求してしまったかな、とは思います。
その中でも、たとえば、「メンタルが弱く気の弱い人は、自分が悪いところを改善しようと思って成長できるが、メンタルが強くて気の強い人は、悪いところを指摘されても改めなかったりするので、成長できず社会で上手くやっていけない」といった、感心するような解答もありました。

淑徳与野中学校 利行堂

淑徳与野中学校 利行堂

インタビュー1/3

淑徳与野中学校
淑徳与野中学校1892(明治25)年に輪島聞声により淑徳女学校が開設。1946(昭和21)年に淑徳女学校第8代校長・長谷川良信により与野町に淑徳女子農芸専門学校と淑徳高等女学校与野分校が設立。48年に現校名となり、2005(平成17)年に中学校を開校。2015年高校校舎を中学隣接地に移転。
中学校舎は、「自然との共生」をテーマにしており、風力発電やエコガーデンを組み込むなど環境にも配慮。吹き抜けがある玄関、南向きの窓から太陽光がたくさん入る普通教室、和室や特別教室、体育館、運動場など最新鋭の設備が整う。
「仏教主義に基づく心の教育」「21世紀を生きていくための国際教育」「生徒の個性を伸ばし、難関大学進学の希望をかなえる進学指導」など、埼玉県トップレベルの女子進学校・淑徳与野高校で培われた指導方針を継承する。校訓は「清純・礼節・敬虔」。「淑徳の時間」の中での宗教の授業、宗教行事などを通じ「常に感謝の気持ちを忘れないで生きていく」という心の教育を実践する。
内進生は原則として外進生とは別クラスで国公立・難関大学現役合格を目指す。高2・高3では文系・理系に分かれ目標大学に応じた指導を展開。中1から夏季・冬季特別指導、進学講座など、塾に通わなくても大学受験に対応できる体制が整っている。また、学習サポートと呼ばれる指名制の面談は各教科で実施。論文作成など「書く」機会を多く設定し、思考力を育てている。英語のテキストは『ニュートレジャー』を使用。授業は週5日制、隔週土曜日は中国語入門などの土曜講座を開講する。
学期制でなく、1年間を5つに分けた「5ステージ通年制」で学校生活を進めるのが特色。「適応・挑戦・確立・変革・未来」と各ステージで目標を定め、学習も行事も集中して取り組む。行事はオリエンテーション合宿、文化祭、芸術鑑賞会、花まつり、み魂まつりなど各ステージに合わせて行われている。韓国、タイ、台湾、イギリス、アメリカ、オーストラリアに姉妹校・提携校をもち、中2全員参加の台湾海外研修、高2アメリカ・オレゴン修学旅行のほか、長期・短期の留学なども用意。中3の修学旅行は京都・奈良で、日本文化への理解も深める。クラブ活動は剣道、バトン、サッカー、吹奏楽などが活躍。