シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

逗子開成中学校

2023年08月掲載

逗子開成中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.算数が苦手な子は点数を取れるレベルの問題に着目。

インタビュー3/3

数学に悩む生徒には解くことの楽しさを思い出させる

抽象の世界に入って苦労している子どもたちに対して、先生方はどのように接していますか。

風間先生 私はどちらかというと、肩こりに悩んでいる子たちをほぐすのが好きなんです。そういう子たちには、まず解けて楽しかったことを思い出してもらいたいので、とっつきやすいレベルの問題を反復練習させて、点数を取れるようにするところから始めています。「君たちが使ったこの式はこういう仕組みだったんだよ」と説明すると、「へえ」と言ってくれることが多いです。

数学が得意な子たちには、いきなり概念的なことを出して、その公式の仕組みを教えて、実際に解いてもらうなど、症状に応じて異なるアプローチをしています。肩こりに悩んでいる子たちは、入学して3年も経つと自己肯定感が低くなっているので、そこをまず持ち上げて、「できるから大丈夫だよ」「よくできる子たちと遜色ないよ」と言って、手を変え、品を変え、数学嫌いを作らないようにしている、という感じです。

逗子開成中学校 校舎

逗子開成中学校 校舎

数学は役に立つのか

算数は得意だったけれど、数学はさっぱり、という子もいますか。

風間先生 はい。抽象的になると「ああ、よくわらない」となる子がいます。よくわからないという余白の部分もありつつ、こんなものかと進めていくと、ある瞬間、すとんとわかる時があるので、そういうところまで行きついてほしいのですが、だいたいがあきらめてしまいます。もう少し頑張ってほしいです。

算数と数学の境目については、全然、議論にならないのですか。

風間先生 算数のほうがたまにすごい力を発揮する時があります。大人がたくさん使っている数学の方程式よりも、算数の解法で解いたほうが暗算でできたり、早く解けることがあるので、本来、それほど境目はないはずなんですよね。

ただ、彼らがよく言うのは、「こんな数学、世の中でなんの役に立つんですか」ということです。そのつど、「これが解けたから世界の何かに役に立つというわけではなくて、考え方を筋道立てる訓練だとか、すごく複雑に絡み合った情報を整理して見やすくするとか。そういうことには役に立つと思うよ」と伝えています。

数学はクリエイティブな学問

風間先生 素因数分解がありますよね。2×2×2×3×3…とやりますが、あれも最初はごちゃっとなっている大きな問題を細分化していって、分類する作業なので、それは物事を整理するということにつながると思っていますし、数学は意外に料理ともリンクします。料理にレシピがあるように、数学にもこういう時にはこういう公式を使いましょうという、レシピがあります。レシピ通りに作業するだけでなく、アレンジもできます。できあがりは同じカレーライスかもしれませんが、具材やスパイスの合わせ方は自由で、そこにオリジナリティが出るというのは数学と似ているなと思います。

クリエイティブですね。

風間先生 はい。数学は本来、クリエイティブな学問のはずなのです(笑)。生徒によく言うのは、「ゆで卵を作りたいのに、お前たちは先に卵を割っているぞ」と。「それでは目玉焼きになってしまうだろう」と。そういうたとえ話をしながら、順番が大事であることを伝えています。

秦先生(入試広報部) 私は英語科です。教師は中高生のうちにたくさん考えてほしいと思っているので、英語科では日本と世界との比較や、言語と言語との比較などをさせていますが、結局のところ答えがありません。国語科や社会科も同様です。答えとして提示したものに対して「それは先生の答えですよね」と言われてしまったら、残念なことに証明することができないのです。

ところが、数学は答えがあるんですよね。だから考えるだけ考えさせて、「面白かったか?じゃあ答えに行くぞ」ということができるのです。それがある意味、うらやましくて、数学が好きな生徒が多いのもうなずけます。そこは勝てないと思っています。

風間先生 国語は行間が大事じゃないですか。物語を読み終えた後の余韻を楽しんだり、もし物語が続くとしたらどんなお話になるんだろうと考えたりしますよね。ところが数学は行間がいらない世界なので、答えが出たら次に行くだけ。長年やっていると、そういう思考になってしまい、僕も授業ではできるだけ端的に話します。黒板に書く量もできるかぎり短くしたいので、彼らにも簡潔に、ストレートに伝わる言葉を考えます。

広報部長/秦 健二先生

広報部長/秦 健二先生

6年間を通して論理的思考力の向上を図る

数学科で大事にしていることを教えてください。

風間先生 論理的思考力の向上には、中学1年生から高校3年生まで各学年が共通認識をもって取り組んでいます。他は、よい意味で任されています。大学入試が目標にはなりますが、人生はその先も続くので、どちらかというと大学受験に対応する能力というよりも、生きる力につながる学び。あるいは数式の美しさを感じられる余裕のようなものを彼らに求めています。

秦先生 職員室前に、先生と生徒でやりとりができるようにホワイトボードを置いています。昨年、大学受験を間近に控えた時期に、生徒の誰かが大学受験をはるかに超えた数学の領域をポンと書きました。すると、数学が好きそうな10人くらいの生徒が足を止めて、ああじゃないか、こうじゃないかと30分くらい議論していました。面白いのでビデオを撮りに行くと、「いや、こんなことをやっている場合じゃないんですけどね」と言っていましたが、その子たちはみんな大学受験で大成功しました。風間先生をはじめ、本校の数学科が大事である、と思っていることを素直に受け取り、大事にしている生徒は、結果的に大学受験もうまくいっているのです。

逗子開成中学校 海洋教育センター

逗子開成中学校 海洋教育センター

数学の授業で目指すのは「笑顔」

逗子開成の数学科では、生徒さんにどのような力を身につけてほしいと思っていますか。どのような人に育ってほしいと考えていますか。

風間先生 数学に限定するのと難しいのですが、1つ言えることは、数学を通して笑顔になってほしいです。よくわからなかったけれど楽しかったな、と思ってもらえる授業をしたいです。10年後、20年後、生徒が振り返った時に「全然わからなかったけど、授業は楽しかったなあ。あの時、友だちと協力して問題を解いたよなぁ」といったことを糧に、自分を大事にしてもらえたら嬉しいです。

数学のプロフェッショナルを育てたいわけではありません。生業にしなくてもかまいません(笑)。逗子開成で受けた教育をつらい時にこそ思い出して、あの時乗り越えられたから、今回も乗り越えられそうだなと思える力を身につけて巣立っていってほしいですね。そうなると、もっと難しい問題を出さなければいけないですね(笑)。

残念ながら、私には数学が楽しかったという思い出はないですね。

風間先生 誰でもつらい経験は忘れたいですよね。そうすると学んだことを使わなくなってしまいます。ならば、別につらくなかったなと思える授業をすれば、何かの折に数学的な思考を使ってもらえると思います。

計算練習が大事なのは?

小学生が算数を勉強する上でのアドバイスをお願いできますか。

風間先生 僕はすごく地味な計算練習が大事だと思っています。計算できないと意味がわからないのでつまらないんですよ。だから計算は考えずにできるくらい練習してほしいと思っています。

算数の楽しさは、その先にあるんですよね。問題文を読んでいて、「あ、これとこれを組み合わせればいいんだ」「これとこれを掛け算すればいいんだ」とひらめいても、掛け算に時間がかかってしまい時間が足りなくなったり、つまらないところで計算ミスをしてしまったりすると、せっかくのひらめきが点数に結びつきません。ですから、最初のベースとなる計算を大事にしてほしいです。

それはシンプルな計算問題を反復するということですか。

風間先生 小学校5、6年でも13-7のような繰り下がりのある計算を5分で何問解けるかという、スピード勝負の練習をしてほしいです。手が先に動くくらいの単純な計算も大事ですし、「うわ、何、この小数の計算」とあきれるような、複雑な計算も計算能力を上げるには重要です。ですから、両方やってほしいですね。

サッと終わる単純な計算の先に複雑な計算があって。その複雑な計算が解ける太い計算力があると、いろいろなシチュエーションの問題にあたった時に考える余裕ができます。逆に計算で考え込んでしまい、手が動かなくなると、問題の中身を考える余裕、時間がなくなってしまいます。すごく簡単な計算を正確に速く解けるようになるとともに、難しい計算にも取り組んでほしいと思います。
スポーツでも基礎練習をしっかりやっておかないと、試合で活躍できないですよね。試合が楽しくなるかどうかは、基礎練習にかかっています。

逗子開成中学校 校内

逗子開成中学校 校内

インタビュー3/3

逗子開成中学校
逗子開成中学校1903(明治36)年創立の神奈川県下最古参の男子私立中学校。東京の開成中の分校「第二開成中」として設立されたが、ほどなく独立。中学募集は一時中断したが、86(昭和61)年再開。近年の目覚ましい学校改革の試みは、バランスのとれた学校像の確立を目指すものとして注目されている。2003年(平成15)年に創立100周年を迎えた。
建学の精神『開物成務』にのっとり、「真理を探究し、目標を定め、責務を果たす」ことのできる人材の育成が教育の目標。レベルの高い学問を修めさせると同時に、独自の海洋教育や映像教育、コンピュータ教育等を駆使し、国際社会で活躍すべく、単なる進学校にとどまらない21世紀の新しい教育の創造を目指している。
逗子海岸に臨む校地には、ヨット工作室や宿泊施設もある海洋教育センター、本格的映写機と音響システムを備えた徳間記念ホール、コンピュータ棟やセミナーハウス、研修センターなどの充実した各施設が並ぶ。自習室も完備している。教育環境を見事に整備し、高い塀を廃した開放的な発想から、世界にはばたく人材が育っていく。
逗子開成の授業には演習が多く取り入れられている。問題を解く力や表現する力を、すべての教科・科目で身につけ、バランスのとれた基礎学力を育成している。学年によって教科、レベルは異なるが、習熟度別授業を実施。補習だけでなく、通常授業の効果をさらに上げる「特習」もある。中3から選抜クラスが新設され、学年ごとに入れ替えがある。高2からは文系・理系にコース分けをする。土曜日には各種講座や行事を実施するが、教師、保護者、生徒の好奇心がぶつかり合う土曜講座は進学・世界・体験・達成・地域の5分野100講座以上とバラエティ豊か。
中1の時にヨットを製作するのは有名で、中3までの全員が逗子湾で帆走実習を行う。海洋教育と並び映像教育をも柱とする同校では、年5回映画鑑賞会が行われており、学校にいながらにして名作を鑑賞できる。中3では全員がニュージーランドに。高2の研究旅行はマレーシア・ベトナム・韓国・沖縄・オーストラリアのコース選択制で実施。中2~高2の希望者にはフィリピンセブ島の英語集中研修、1週間のエンパワーメントプログラムのアメリカ研修、3ヶ月間の短期交換留学、1年間の海外長期留学がある。また、中1・中2では、校内における異文化英語プログラムなどがあり、語学以外に様々な体験ができる。奉仕活動にも熱心。