シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

逗子開成中学校

2023年08月掲載

逗子開成中学校【算数】

2023年 逗子開成中学校入試問題より

ズトシくんはZ湾で遠泳をしました。下の図はズトシくんが泳いだ経路の一部です。まず点Aから、波打ち際の直線nに直角の向きに泳ぎ始め、沖へ27分泳いで点Bに着きました。次に向きを変え、直線nに平行の向きに泳ぎましたが、実際には潮があって点Cまで流されました。点Cから再び向きを変えABと平行に13分泳ぎ点Dにたどり着きました。泳いだ時間は合計48分で泳いだ距離は合計1858.5mでした。
このとき、次の各問いに答えなさい。ただし、潮の速さ、潮が無いときのズトシくんの泳ぐ速さは常に一定とします。また、潮は海の沖から波打ち際の直線nに向かって直角の向きに流れています。

問題図

(問1)ズトシくんが泳いだA→B→C→Dまでの経路を次の(ア)〜(ク)から選びなさい。

問題図(問1)

(問2)潮が無いときのズトシくんの泳ぐ速さと潮の速さの比を求めなさい。

(問3)BC間の距離は350mでした。潮の速さは分速何mですか。ただし、答えだけではなく、途中の考え方も書きなさい。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この逗子開成中学校の算数の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答

(問1)(イ)

(問2) 24:7

(問3) 分速12\(\frac{1}{4}\)m

解説

(1)もし、ズトシくんが泳いだZ湾に潮の流れがなければ、図1のように、AからDまで、それぞれ直角に曲がって同じ速さで泳ぐことになるはずです。ところがZ湾には潮の流れがあります。ですから、ズトシくんは、図2の、それぞれ①、②、③のようにAからDまで進むはずです。

解説図(問1)

① AからBまで潮の流れに逆らって泳ぐ。進む速さは流れの速さだけ遅くなる。

② 左から潮の流れを一定の力で受けるので、陸方向に流される。その結果、BからPに向かって泳いでも、斜め一直線の向きにCまで流される。

③ CからDまで潮の流れに乗って泳ぐ。進む速さは流れの速さだけ速くなる。

つまり、ズトシくんが泳いだ経路は、(イ)とわかります。

(2)潮の流れがないところでのズトシくんの泳ぐ速さを分速□m、潮の流れの速さを分速△mとします。
すると、ズトシくんが図2の①、③で進む速さは次のようになります。
①潮の流れに逆らっているので、分速(□-△)mで進みます。
③潮の流れに乗っているので、分速(□+△)mで進みます。
したがって、AB間の距離は、(□-△)×27=□×27-△×27と表せます。
また、PC間の距離は、ズトシくんが②でBC間を泳ぐ48-(27+13)=8(分間)で潮によって陸の方向に押しもどされた長さなので、△×8と表せることがわかります。
さらに、CD間の距離は、(□+△)×13=□×13+△×13と表せます。
つまり、PD間の距離=PC間の距離+CD間の距離=△×8+□×13+△×13=□×13+△×21と表せます。
ここまでの関係は、図3のように線分図にまとめることができます。AB間の距離PD間の距離が等しいことから、図3の★の部分より、□×27-□×13=□×14と、△×21+△×27=△×48が等しいことがわかります。
ですから、□×14=△×48より、□:△=48:14=24:7と求められます。

(問2)図3

(参考)②のBC間でのズトシくんが進む速さは、流れがないところでズトシくんが泳ぐ速さよりも若干速くなります。BからPまでまっすぐ泳ごうとしても、左から潮の流れを受けるので、下の図のように、まっすぐ泳ぐときより若干速くなることがわかります。

(問2)参考図

(3)(2)より、ズトシくんのAB間とCD間での速さの比は、(24-7):(24+7)=1731です。また、ズトシくんは、AB間を27分で、CD間を13分で進みます。
ですから、距離の比=速さの比×時間の比より、
(AB間の距離):(CD間の距離)=(17×27):(31×13)=459:403とわかります。
1858.5-350=1508.5(m)……AB間とCD間の距離の和
1508.5×\(\frac{403}{459+403}\)=705\(\frac{1}{4}\)(m)……CD間の距離
705\(\frac{1}{4}\)÷13=54\(\frac{1}{4}\)(m/分)……CD間での速さ=流れのないところでの速さ+流れの速さ
(2)より、(流れのないところでの速さ):(流れの速さ)=24:7なので、求める速さは、
54\(\frac{1}{4}\)×\(\frac{7}{24+7}\)=12\(\frac{1}{4}\)(m/分)とわかります。

(参考)このとき、流れのないところでのズトシくんの速さは、12\(\frac{1}{4}\)×\(\frac{24}{7}\)=42(m/分)です。また、ズトシくんがBC間を進む速さは、350÷8=43.75(m/分)です。(2)の(参考)で述べた通り、BC間を進む速さは、流れのないところでの速さよりも若干速くなっていることが確認できます。

日能研がこの問題を選んだ理由

逗子開成中学校の目の前には、波の穏やかな逗子湾が広がります。逗子開成では、この環境が活かされた海洋教育が行われていて、そのうちの1つが、中学3年の7月に行われる「遠泳」と呼ばれるプログラムです。この「遠泳」では、中学3年生全員が、学校の目の前にある逗子湾の波打ち際から沖の方まで泳いで往復します。その距離はおよそ1500m。まさに、この問題のズトシくんが泳いだ経路と同じような経路を、生徒たちが泳ぎ切ることにチャレンジするのです。

この問題は、算数では「流水算」と呼ばれるジャンルの問題です。流水算では、「船が川を上る速さ=静水時の速さ-流れの速さ」や「船が川を下る速さ=静水時の速さ+流れの速さ」などのしくみを学び、これらの考え方を速さの問題で使っていきます。これらのことがらを学ぶとき、流れの速さだけ遅くなったり速くなったりする様子は、イメージすることができても、実際に味わえる場面はなかなかないのかもしれません。

逗子開成中学校の「遠泳」は、まさにこの「流水算」が実感できる場面といえます。逗子開成中学校を目指す受験生は、当然、この「遠泳」の存在を知っていることでしょう。彼らは入試当日、この問題に対して、まるで自分ごとのように潮の流れをイメージしながら取り組みます。そして、入学後にはこの問題がまさに「自分ごと」となるのです。

学校が大切にしている行事と算数の入試問題が、これほどまでにマッチした問題はあまり見られません。問題を作った先生方が、算数の問題を通して、逗子開成を感じ取ってほしいという思いが伝わってきます。

このような理由から、日能研ではこの問題を『シカクいアタマをマルくする。』シリーズに選ぶことにしました。