シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

横浜女学院中学校

2023年07月掲載

横浜女学院中学校【理科】

2023年 横浜女学院中学校入試問題より

糖尿病(とうにょうびょう)の患者(かんじゃ)に使われる医療用針(いりょうようはり)は、ある研究者が、昆虫のカに刺(さ)されても痛みを感じにくいということに注目してつくったものである。カの針を観察したところ、1本ではなくとても細い複数の針を持ち、そのうちの2本はギザギザの構造をしていることが分かった。ギザギザの方向に沿って針を刺すことで痛みを軽減し、一方の針に沿わせて2本目を入れることで同じ断面積をもつ1本の針よりも抵抗(ていこう)が少なくなる。このような特徴を模して造られた針は、毎日採血をして血糖値(けっとうち)をはからなければならない糖尿病患者の負担を減らしている。
この例のように、地球上の生物の特徴を模して、人間の技術に取り入れることをバイオミメティクスという。

(問)バイオミメティクスを利用した製品を考えてみよう。クモの巣・クモの糸・クモ本体のいずれかの特徴を利用した製品を自由に考え、下にならって紹介してみよう。

問題図

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この横浜女学院中学校の理科の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答例

例1)(商品名)スパイダーシルク
クモの糸は伸縮性と強度に優れている(という特徴を利用した)手術用の縫合糸(です!)伸び縮みすることで、患者の痛みが軽減すること間違いなし!
(学校による解答例)

例2)(商品名)カトール
カなどの小さい虫がからまりやすい(という特徴を利用した)カをとる商品(です!)人体に害を与えずに、カをとることができる商品です。

例3)(商品名)テープでペタサラ自由自在!
クモはひとつの体でねばねばしたくっつきやすい糸と、ねばねばしていないくっつきにくい糸を自在に作り分けている(という特徴を利用した)テープ製造機(です!)片面をベタベタ、もう一面はサラサラにして、何かを貼り合わせるテープをつくれる。また、両面をベタベタにした両面テープもつくれる。さらに、サラサラの中の一部分だけベタベタにしてふせんのようにするアレンジも思いのまま!

解説

クモの糸は、力を加えても切れにくく、強いのにしなやかさも持ち合わせています。また、クモの糸には、ねばねばした粘着力のある糸と粘着力のない糸の2種類があります。このような特徴のちがう糸をクモは1つの体の中でつくり分け、巣をつくるときにも2種類の糸を利用しています。クモについて、これまでに自分が見たり学んだりして知っている特徴のどれかに着目し、その特徴を生かしてどのような商品をつくることができそうかを考えていきます。

答えるときには、「商品名」「どのような特徴に注目したのか」「考えた商品は何か」「セールスポイント」を書くことが求められ、問題や解答らんでもその流れがガイドされています。どのような情報をどのように表現すると、自分が考えたことやそのプロセスをわかりやすく相手に伝えられるのか、という視点でも考えていきましょう。

日能研がこの問題を選んだ理由

クモは、私たちの身の回りで見ることができる生物の一種です。例えば、木と木の間にクモが糸を張ってつくった巣、その巣の近くでじっと身を潜めて獲物を待っているクモ、隠れようとして素早く動いているクモなど、さまざまなようすを実際に目にしたことがある子もいるでしょう。また、絵本や図鑑、映画やアニメなどに登場し、それらの中でクローズアップされているクモの特徴に触れたことがある子もいるかもしれません。

この問題では、生物の持つさまざまな特徴を模して、新しい技術の開発や物づくりに取り入れるバイオミメティクスという視点で、クモの巣・クモの糸・クモ本体の特徴に目を向け、その特徴を利用した製品を考えていきます。バイオミメティクスには、問題中で紹介されているカの針の利用の他にも、ハスの葉が水をはじく特徴のヨーグルトカップのふたへの利用、カワセミのくちばしの形状の新幹線への利用などさまざまな事例があり、すでに私たちの生活の中に取り入れられています。これらは、研究者や製品開発者がある生物に目を向け、その構造や成分、色などさまざまな視点で特徴を研究して、そこから得られた情報を製品の中に取り入れてきたのです。

多くの子どもたちにとって、比較的身近な生物であるクモ。このクモの特徴を実際の製品に利用するという視点で見たときに、どのような製品を考え出せるのかをこの問題では問うています。体の分かれ方や足の数といった単純な特徴だけではなく、クモが持つ特徴のある部分に自分で焦点を当て、そこから実際の製品イメージを膨らませていきます。また、自分が頭の中で考えたことを、その根拠や利点とともに説明する流れが解答らんによって構成されていて、子どもたちが自分の考えを表現するためのガイドをしてくれています。

この問題からは、身の回りの生き物をよく観察してみよう、自分が注目したことを根拠に考えを広げてみよう、自分が考えたことが他者に伝わるよう、その根拠と合わせて説明してみようなど、出題者からのメッセージが伝わってきます。

このような理由から、日能研ではこの問題を『シカクいアタマをマルくする。』シリーズに選ぶことにしました。