シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

茗溪学園中学校

2023年07月掲載

茗溪学園中学校の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.「は」と「が」の使い分け、説明できる?

インタビュー1/3

作品を読み、引きつけられたところを問題に

濱島先生 実は、この作品を取り上げたのは、この問題を出したいと思ったからです。ですからこの問題が小説問題で最初に作った問題であり、作問には一番力を入れました。

中学入試の問題に平野啓一郎さんの『空白を満たしなさい』(2012年)を採用したのは、調べた限り御校だけです。素材文としても珍しいと思いましたが、作問の経緯はさらに驚きです。

濱島先生 この小説を読んだとき、「私が、寺田です。」という部分にとても引きつけられました。入試問題に限らず何かに使えそうだと思い、ストックしていたのです。
この場合ふさわしいのは、「は」ではなく「が」であることは小学生でもわかるはずですが、おそらく感覚的に、だと思います。何となくではなく、理由付けできるか、論理的に言葉に落とし込んで説明できるかどうかを試そうと思い、出題しました。

国語科/濱島 広大先生

国語科/濱島 広大先生

Ⅱのbの問題は無答が目立った

この問題の出来具合はいかがでしたか。

濱島先生 ⅠとⅡのaの正答率はとてもよく、国語の問題全体の中でも群を抜いて高かったです。つまり、感覚的にはわかっていたということでしょう。
Ⅱのbの問題は、頭ではわかっているけれど表現しきれないかなと予想していました。結果、できる・できないが分かれました。自分の考えを言葉にできるかどうか、すなわち、感覚のままなのか、理屈でわかっているかで差がついたように思います。

bが正解できた受験生は、若干の減点はあったものの内容的な間違いはなく、しっかり得点できていました。
一方、正解できなかった受験生は、「間違えた」よりも「書けなかった」無答が多く、aまで答えて、bは飛ばして次の問題を解いていました。どんなことを書けばいいのかわからなかった、あるいは、最後の方の問題だったのでまとめる時間がないとあきらめてしまったのかもしれません。

また誤答は、文中の言葉を拾って書いたものも目立ちました。とりあえず関係ありそうな言葉を集めて答えを作る、というのは文章記述問題で見られる傾向です。正解できた受験生は、本文に直接的に書かれていないことを自分なりに解釈して、自分の言葉で書き直すことができていました。

茗溪学園中学校 校舎

茗溪学園中学校 校舎

「初めて会った」だけでは正解にならない

濱島先生 bは、「電話で話して知ってはいるけれど、直接会うのは初めて」ということが書かれていれば正解です。「初めて会った(ので)」だけでは問題の意図に沿った答えになっておらず、正解にできません。「知ってはいるが」というところがポイントです。

全くの「はじめまして」なら、「私は」でもよさそうですからね。

鈴野先生 Ⅱの設問文に「Ⅰを参考にしながら」とあります。ここに着目しているか、設問文をきちんと読んでいるかどうかも試されます。Ⅰの正解の文章(ウ)をヒントに考えてもらいたいところです。本文はもちろん、設問文も「読む」意識を持ってほしいですね。

正解した受験生は細部にも注目

濱島先生 先日、この問題を解いて入学してきた中1がどんなところに注目して読んでいるか、担当教員に聞きました。文中のチョコレートの描写に「溶けた」「硬い」という表現がないことから、物語は夏や冬ではなく春か秋であること、さらに「菩提樹の花が咲いている」ことから5~6月ではないかということを、生徒自ら語ったそうです。季節など作品の設定をとらえているということは、細部にも注目して読み取ることができていると言えます。
このことから、Ⅱのbの問題が解けた受験生は、言葉に対して敏感ではないでしょうか。何となくではなく、読み取ろう、考えようとする意識が助詞にも向けられているのではと思います。
なお、この問題が正解できた受験生は小説の他の問題もできていました。一方、できなかった受験生は他の問題も苦戦している形跡が見て取れました。

茗溪学園中学校 校内

茗溪学園中学校 校内

文法の理由がわかると生徒は喜ぶ

鈴野先生 教科書では「○○は、××です。」という主語・述語の関係の説明に留まっており、「~は」となれば主語だと思いがちです。けれど、「お茶は飲むけれど、コーヒーは嫌い。」のように、「は」と付く言葉が必ず主語とは限りません。文法を丸暗記するのではなく、場面に応じて柔軟に考えられるようになってほしいと思っています。

濱島先生 文法にも理由があることを説明すると、生徒は「そうか!」と喜び、食いついてきます。
本校は、学問の裏付けがある論理的な説明力の養成に力を入れています。それは、着実な学びを通じて知性を磨く「アカデミアクラス(AC)」の開設(2021年度)でより明白になっています。

インタビュー1/3

茗溪学園中学校
茗溪学園中学校1872(明治5)年創設の師範学校をはじめ、東京文理科大学、東京高等師範学校、東京教育大学、筑波大学などの同窓会である社団法人茗溪会が、1979(昭和54)年に中学校・高等学校を開校。以来中等教育批判に応える取り組みをする研究実験校として注目される。
知・徳・体の調和した人格の形成をはかり、創造的思考力に富む人材をつくることが教育理念。人類や国家に貢献できる「世界的日本人」の育成を目指す。自ら学び成長していく能力、Study Skillsを身につけさせる。通学生も短期の寮生活を体験するなど、共同生活を通じての人間形成を重視している。
筑波研究学園都市の最南端に位置し、広い校地にはグラウンド、屋外プール、テニスコート、バスケットコートなど体育施設も充実。全教室にプロジェクターが設置されているだけでなく、大教室や、天体ドーム、2つのコンピュータ室など、設備も機能的。近くに寮があり、約230名が生活。中学生は主に3人部屋、高校生は2人部屋。
生徒の将来を考えた教育構想から生まれた独自のカリキュラム。英語では外国人教師による少人数制の英会話などで語学力を強化。また、希望者は放課後に第2外国語として、フランス語・スペイン語・ドイツ語・中国語等を無料で受講できる。ほとんど全教科でコンピュータ利用の授業を実現するなど、情報教育にも力を入れている。中2~高3の英語・数学は習熟度別授業。高2から進路に合わせた選択履修となり、受験に向けた放課後の受験対策補習や夏期補習が本格的にスタートする。医学部など理系にも強く、海外の大学に進学する生徒も少なくない。
女子は剣道、男子はラグビーを校技として定め、冬には精神訓練のためそれぞれで寒稽古を行う。本物にふれる芸術鑑賞会、茗溪学園美術展、合唱コンクール、文化祭などは質が高い。学園内のいたる所に展示された生徒の作品を見ても、芸術への力の入れようがわかる。フィールドワークとして中1・中2はキャンプで観察や実習を行い、中3は沖縄での国内研修旅行で本格的な調査活動をする。高2ではシンガポールで海外研修を行う。クラブ活動はラグビー、剣道、テニス、水泳、バトミントン、美術、書道、無線工学部などが活躍。昼食は中学生が食堂で全員給食、高校生は寮生は給食、通学生は給食またはお弁当で、お弁当は教室でとる。世界各地からの帰国生が全校生徒の約22%以上在籍している。
平成23年度よりSSH(スーパー・サイエンス・ハイスクール)に認定され、近隣の筑波大学や世界の最先端の研究所群とさらに協力関係を深め、生徒の学習・研究活動のレベルのより一層の高度化を実現中である。