シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

白百合学園中学校

2023年05月掲載

白百合学園中学校の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.体験を通して理科の楽しさを実感

インタビュー3/3

蚕の観察は幼虫、蛹、成虫の成長過程を見る

授業ではどんなことを大切にされていますか。

鈴木先生 生徒に「生物が楽しい」ことを伝えたい。そのためには実験・観察を数多く「体験」することです。体験を通して自分で何かを感じてほしい。そこで好きになったら自ずと学び進むようになります。
実験・観察の頻度は分野によりますが、化学や生物は2回に1回は実験・観察でしょうか。中1の植物の授業(週1時間)のときはほとんどが観察です。

中2は蚕を育てて幼虫から蛹、成虫までの過程を観察します。時間があれば生糸を取り出すこともします。昆虫を嫌がる生徒もいますが、蚕の幼虫は移動しないこと、成虫も飛べないので自分に向かって飛んでくることがないなど、人に危害が及ぶことはなく安全なことを説明します。
繭を開けて蛹を見せると、生徒は「蛹が動きました!」と当たり前のことにも反応して目を輝かせます。幼虫は苦手な生徒に配慮して透明な容器に入れていますが、平気な生徒は容器の蓋を開けて観察します。中には手に乗せて「かわいい」とつぶやく生徒も。
生徒は「みんなが怖がるから自分も怖がる」と周りに同調するところがありますが、怖がらず、嫌がらず、昆虫のことを知ろうとしてほしいと思います。

白百合学園中学校 理科室

白百合学園中学校 理科室

「かわいい」は学びの最強エンジン

生徒さんには蚕が「かわいい」という感覚があるのですね。

鈴木先生 「かわいい」は学ぶきっかけになります。かわいいと思ったら、もっとよく見ようとします。すると、いろいろなことに気づくようになり、「なぜ?」という疑問も湧いてきます。
蚕の幼虫を「新幹線みたい」と言うのは、よく見ているからです。脚の数がいくつあってどこから出ているか、胸脚と腹脚は形が違うこと、その働きも違うことなど、観察するといろいろなことがわかってきます。

高2の発生の授業では、アカハライモリの卵がふ化するまでを観察します。各生徒に卵を2~3個配り、毎日観察します。そのうち自分の卵に愛着がわいてきて、観察するまなざしはまるでわが子を見つめる親のようです。
実は理科教員も「かわいい」が口癖になっています。

瀧澤先生 生物の教員は愛情を持って生き物に接しています。そうした教員の姿勢や熱意は、生徒に伝わっていると思いますし、理系選択が増えている要因の一つではないでしょうか。

鈴木先生 理系選択はじわじわ増えて学年の半数を超えています。医学部・薬学部・獣医学部を目指す生徒が多いでしょうか。文理選択や理科の科目選択に迷っていたら、選ぶ基準の一つとして、「ウニの発生(卵割の様子)が『かわいい』と思えたら、生物向きじゃないかな」と伝えています。好きなこと、興味のあることなら、大学受験も頑張れるのではないかと思います。

高2の生物選択クラスは富士山で植物観察

鈴木先生 教室で体験できないものは現場に足を運びます。生物選択の高2は富士山で植物観察をします。富士山の五合目付近は、そこより上には樹木が生えない「森林限界」です。五合目を2時間ほど歩きながら、高山植物や、標高が高くなるにつれて樹木の種類が変わっていく様子を観察します。
生徒は、教科書に載っている樹木の種類を覚えるのにうんざりしています。実物を見ると、「教科書のとおりだ」と実感できるので覚えやすいと思います。富士山での実習は卒業生の思い出としてよく聞きます。

このフィールドワークを続けていると、森林限界の標高が上がっていることなどから、温暖化していることを実感します。私が毎年見ているからわかることも生徒に伝えています。
授業の補完として、国立科学博物館(科博)に見学に行くこともあります。進化や系統の単元は実験・観察ができないので、まとめとして科博の展示を見て知識を補強します。意外にも行ったことがない生徒が多く、「来てよかった」「楽しかった」と喜んでくれます。いつまでも展示を見ている生徒は大学受験で力を発揮する傾向にあるのは、知的好奇心が旺盛だからだろうと思います。

白百合学園中学校 理科室

白百合学園中学校 理科室

知識がつながると勉強がおもしろくなる

鈴木先生 勉強をしていて「そういうことだったんだ!」と気づくのは、別々に学んだことがつながったときではないでしょうか。知識が点から線に、さらに面になってつながると勉強が俄然おもしろくなります。
そうなるように、授業ではできるだけ教科・分野をつなげることを意識しています。高校の生物は酸化・還元など化学の知識が必要です。地理の地形・気候は生物の生態系と結びつけると理解が深まります。生徒は試験が終わるとその単元のことは忘れてしまうので、同じ分野内も以前に習ったこととつなげるようにしています。

瀧澤先生 いろいろな分野をまんべんなく学習することが大事です。私は英語を教えていますが、テーマが科学技術の英文では読解に理科的知識が必要なことが多々あり、そのことを強く感じます。英語科の教員は、科学の専門用語などを理解するのに理科教員にアドバイスしてもらっています。

白百合学園中学校 図書室

白百合学園中学校 図書室

学んで損をすることは何一つない

中高6年間で、どんな理科の力をつけてもらいたいですか。

鈴木先生 世の中の変化のスピードがとても早くなっており、1つの分野に特化しても変化に対応するのが難しくなるのではないでしょうか。今後は、正反対の複数の分野に精通し、両者をつなげる力があると強みにできるのではないかと思います。
多角的な視点を持つことで新しい発想ができるようになるでしょう。そうした力を身につけるためにも、文理選択にかかわらず、好きな分野・得意な分野以外にも門戸を開いてほしい。学んで損をすることは何一つありません。知識を蓄え、教養を高めてもらいたいと思います。

瀧澤先生 理科以外の教科でもこれは同じです。英語科でも「英語はあくまで手段」と伝えています。単語や文法がわかるだけでは、目の前の英文が伝えようとしていることをきちんと読み取れません。あらゆる教科を学んで、幅広い知識や教養を備えてこそ、英語というツールを発揮できます。これまでのお話につながるのですが、英語を使っていろいろなことを吸収して、自分の世界を広げていってもらいたいと思っています。

インタビュー3/3

白百合学園中学校
白百合学園中学校1881(明治14)年にカトリックのシャルトル聖パウロ修道女会を設立母体として創立。校名に冠している白百合の花は聖母マリアのシンボル。「キリスト教の精神に根ざした価値観を養い、神と人の前に誠実に歩み、愛の心をもって社会に奉仕できる女性の教育」が教育目的。勉強だけではなく部活動も委員会活動も行事にも力一杯取り組みながら、この目的達成を目指すのが白百合学園の教育方針である。校訓である「従順・勤勉・愛徳」の精神をあらゆる場で実践する。
多くの文教施設に囲まれ、緑豊かな靖国の森と隣接し、九段の閑静な住宅街に厳粛で落ち着いた風情が漂う。聖堂、講堂、図書室、体育館など施設・設備は充実しており、校内は整然とした美しさを保つ。併設の大学はあるが、純然たる進学校としてのカリキュラム編成。当然学ぶべき基礎教養を身につけることが、結果として進学実績を高めている。高2から大幅な選択制に。難関大学への現役合格率は高い。理系志向も強い。
一日は朝礼での祈りに始まる。社会奉仕も行う小百合会、ボランティア委員会などの活動は盛ん。クリスマスの時期に1日かけて、全校生徒が校内・校外にわかれ、奉仕活動を行う。週5日制だが、土曜日は行事などにあてられることもある。学園記念日ミサ・合唱祭、高原学校、球技スポーツ大会、学園祭、クリスマスミサなど行事も多種多彩。「修養会」では、心静かな祈りや講話、友人との話し合いなどを通じて、人生の根本問題を深く考え、自分で自分の心を育てる喜びの体験をしている。