シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

大妻多摩中学校

2023年05月掲載

大妻多摩中学校の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.学びの価値は「役に立つかどうか」だけではない

インタビュー1/3

役に立つことが求められる時代

この問題の出題意図からお話しいただけますか。

小笠原先生 昨今の社会では「役に立つこと」にとても重きを置かれていると感じています。学びの価値は「役に立つかどうか」だけではないということに、受験生のみなさんに気付いてほしい、ということ。それが第一の出題意図でした。

昨今の社会では、多様な学びを確保しなければいけません。大学では実学教育を打ち出す学校が増えています。その結果、実学以外の学問は意味がない、という考え方も世の中にあふれている実情があります。その流れは大学だけでなく社会にも流れ込み、ひと昔前のように、企業でじっくり社員を育てるという文化は薄れ、すぐ役に立つ即戦力の確保に重点が置かれているような気がします。

役に立つことが求められる流れは中高にも押し寄せて来ており、純粋に学びを楽しむ機会や、純粋に好きな学問に没頭する余地のようなものが少しずつ失われているように感じています。ここで一度、「役に立つ」という価値基準だけでなく、人生の豊かさなども含めて考え、「役に立つかどうか」だけではない価値基準を自分の中に確立して学びに向き合っていってほしいなという思いから、このような問題を出させていただきました。

国語科/小笠原 佑志先生

国語科/小笠原 佑志先生

既存の考え方をなんとか拡張しようと奮闘した足跡を見られた

問題文が長文ですよね。

小笠原先生 小学校や塾でもご指導をいただいているように、問題は問いを読むことから始まっています。この問題もその一つで、落ち着いて問いをしっかりと読み解くことが、最初のステップでした。

「実学志向」という考え方は、受験生のみなさんにとって新しい考え方だったかもしれませんが、その考え方と出会うことによって、自分の中にあった考え方をどのように組み替えていくか。そういう力を問いたいと思いました。「役に立つことって大事だよね」という考え方はすでに存在するものだと思います。その考えに「実学志向」という新たな概念を与えてあげることによって、一歩先に進めるような問題を出してみたかったのです。

新しい考えとの出会い、そして問われている内容も難しいので、受験生のみなさんが戸惑うことなく向き合えるかどうか、ドキドキしながら出題したのですが、解答には受験生のみなさんが頑張って自分に落とし込みアウトプットしようという姿勢が表れていて、ほっとしました。

我々側が想定する模範的な解答は2割弱でした。それでも既存の考え方をなんとか拡張しようとした、その足跡みたいなものが見られる解答が多かったので、出題した意味はあったのではないかと感じています。

小学生にも「役に立つことを学べ」という流れが来ている

解答について教えてください。

小笠原先生 我々が想定していた解答は、「小説などの文学は役に立つかどうかではなく、それがもたらす豊かさ、文化的な意義から測っていくべきである」というような方向性の解答でしたが、「文学は役に立つ」という方向性の解答が数多く見られました。

その方向性から読み取れたことが2つあります。1つは「役に立つことを学ばなくてはいけない」という流れが、中高だけでなく小学生にまで押し寄せてきている、ということです。一方、ポジティブな側面から解答傾向を見てみると、「文学は人生を豊かにする。ゆえに役に立つ」という考え方をする受験生もいました。ここから読み取れることは、本文に書かれている筆者の考えを通して、「役に立つということはどういうことか」を自分の中で再考した結果、いわゆる実学的な「役に立つ」だけでなく、人生の豊かさも含めた新しい「役に立つ」観というものを確立した足跡が見られたので、そういう部分は前向きに評価させていただきました。

「本文を踏まえて」という部分は、かなり意識している受験生が多かったと思います。自分の考えを総動員して、というよりも、筆者の考えを理解して、反映させようという姿勢を解答から読み取ることができました。そういう解答が9割以上という印象でした。

大妻多摩中学校 校内

大妻多摩中学校 校内

条件を踏まえ、論理的に説得力をもって書くことが大事

採点のポイントについて教えてください。

小笠原先生 長文の記述問題の出題には、大きく分けて2パターンあります。1つは今回私が出題させていただいたような、「筆者の考えに基づいて」というような、ある程度の縛りを設けて方向性を絞る場合と、受験生の自由な発想を測らせていただく場合です。この問題は、その両方を聞いています。ですから採点のポイントは、「筆者の考えを反映させているか」。そこをクリアしていれば、「文学は役に立つ」というような方向性の意見でも、論理性がしっかりしていて説得力があれば、前向きに評価する方針で採点を行いました。筆者の考えに基づいていない場合は、その分をまず減点し、そこから考え方を評価していくという方法で採点しました。

先生方の間で想定していたことはどんなことですか。

小笠原先生 例えば、筆者の考えをそのまま切り取るだけで、明確な反論として成立していない解答が多くなるのではないか。その場合、採点で戸惑うのではないか、という予測をしていたのですが、その予測は外れました。逆に「文学は役に立つ」というような方向性の意見が目立った結果になりました。

受験生も最後の2段落を踏まえることはわかっていましたが、素材文で述べられている「科学は役に立つかどうかではなく、文化としての新たな意義を見出すべきなのである」という考え方を、文学に転用する際に少しずれが生じてしまい、うまく反映できなかったことが、その理由ではないかと考えています。

大妻多摩中学校 校舎内

大妻多摩中学校 校舎内

筆者の考えを自分の考えに反映する力を問いたかった

この問題を通して、受験生のどのような力を問いたかったのでしょうか。

小笠原先生 このような問題では、問題をただ解くのではなく、素材文で学んだ考えをしっかり自分のものにできているか。その力を測りたいと考えています。今回の出題では、もう一歩踏み込んで、今後、とても大切になるであろう「筆者の考えを自分の考えに反映する力」を問いたいと考えました。

小笠原先生 そういう意味では、本当にこちらが求めているような理想的な解答は1割程度でした。方向性が合っている解答も加えて2割弱ということになります。

渡辺先生 科学という「ものの見方」を超えた俯瞰した見方も大切なことです。科学もまだまだ数値化されたものしか扱うことができない、限定的な学問だと思いますので、曖昧なところにあるものにも目を向けてもらえたらなと思います。

インタビュー1/3

大妻多摩中学校
大妻多摩中学校国際化と女性の社会進出が求められる時代を背景に、大妻多摩は「わたしの力を、未来のために」をスローガンとして、「社会と世界に貢献できる女性の育成」を目指している。「世界」を視野に入れた活躍を目指すべく、多彩なプログラムで構成された「英語・国際教育」を実施。
5ラウンドシステムを導入した習熟度別の英語教育から始まり、中学2年生必修でのオーストラリア研修やグローバルインタラクションチャレンジ、約50名が参加可能なターム留学制度、そして海外大学進学説明会など、6年間を系統立てて準備された国際プログラムを実施している。
また、「科学は世界の共通語」という考えのもと、理数教育にも力を入れ、大妻多摩独自の授業である「数学探究」や、立地環境を存分に活かした「理科教育」は生徒に人気の授業だ。
中学生を対象に実施している「理系を知るガイダンス」は東京農工大学と協力して実施しており、理系への好奇心をかき立てている。
2021年度には東京薬科大学と高大連携協定を締結し、理数教育のさらなる発展が期待できる。2023年度には成蹊大学とも高大連携協定を締結。さまざまな交流や連携事業を推進していく予定だ。
大妻多摩のキャンパスは駅徒歩7分に立地している。東京都にありながら自然豊かで広大なキャンパス、5つの理科実験室と3つのCALL教室、森の図書館をイメージした約200席の自習室をもつ図書館、人工芝の大きなグラウンドなど、世界基準で見ても素晴らしい教育環境である。四季を感じることができる広々としたキャンパスは、生徒の心を豊かに育んでいる。
キャンパスには体育館が3つ・グラウンドが3つ・照明付きのテニスコートが6面あり、運動をするにも恵まれた環境で、バトン部・ラクロス部・バレーボール部・バスケットボール部・テニス部などが活発に活動している。
併設大学への推薦制度はあるが、多数の生徒が他大学へ進学している。3割強が理系に進学し、ここ数年は医学部への進学者が増加している。早稲田・慶應・上智など難関大学への進学者も多い。