今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!
大妻多摩中学校
2023年05月掲載
2023年 大妻多摩中学校入試問題より
- 問題文のテキストを表示する
次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。字数制限のある問題は、句読点やカギカッコも一字と数えること。
(略)
だからこそ私は、科学、つまり人間の知を拡(ひろ)げる活動というのは、「文化」として捉(とら)えたほうがいいんだ、ということをいろいろな場で発言することにしています。
たとえば、芸術とかスポーツですばらしいパフォーマンスを目にしたとき、われわれは感動しますよね。その感動というのは、決して「役に立った」という言葉で測られるものではないはずです。科学の達成というのも、そういう意味で測られていく側面が必要なのだと思っています。
(大隅良典(おおすみよしのり)「すべては好奇心から始まるー“ごみ溜め”から生まれたノーベル賞」『「役に立たない」研究の未来』〔柏書房〕より)
(問)最近、「実学志向(じつがくしこう)」という言葉をよく耳にするようになりました。実学とは「習得した知識や技術がそのまま社会生活に役立つような学問」のことであり、例えば商学・工学・医学などが挙げられます。その基準で言うと、文学は「実学ではないから役に立たない」と捉えられる場合があり、その考えに押し流されるかのように、大学の純粋な「文学部」は減少傾向にあります。しかし文学を代表する物語作品は、今や小説だけでなく、映画やドラマやマンガやアニメなど様々な形で社会に広がっています。以上を踏まえ、もしあなたの周囲に「小説や物語などの文学は実学ではないから役に立たない」と判断する人がいたとしたら、あなたはどのように反論しますか。本文の最後の二段落における筆者の考えに沿って、百字以内で記述しなさい。
中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この大妻多摩中学校の国語の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)
解答と解説
日能研による解答と解説
解答例
「実学」は重要だ。しかし、世の中すべてが「実学」だけで成り立っているわけではない。実用品の装飾、芸術作品などと同じく、文学もひとつの「文化」であり、日々の生活を豊かにし、うるおいをもたらすものである。(100字)
解説
この問題では、「基礎科学は技術のためにある」という、世の中に蔓延している考えに対する反対意見が述べられた文章を読んだうえで、設問に答えるという流れになります。「いまの日本では『役に立つ』という言葉がものすごく氾濫しているし、私はそのことが、あらゆる意味で社会を窮屈にしてしまっているのだと思っています」というのが筆者の主張です。設問では、その主張を踏まえながら、「小説や物語などの文学は実学(習得した知識や技術がそのまま社会生活に役立つような学問)ではないから役に立たない」と判断する人への反論を、100字以内でまとめることが求められています。
設問文に「本文の最後の二段落における筆者の考えに沿って」と示されているように、賛成か反対かの意見ではなく、「反論する」内容をまとめなければなりません。文章の要旨や筆者の主張を踏まえることが必要です。
「小説や物語などの文学は実学ではないから役に立たない」と述べる人に対して、どのような反論が考えられるでしょうか。設問中に示された「文学を代表する物語作品は、今や小説だけでなく、映画やドラマやマンガやアニメなど様々な形で社会に広がっています」という部分を参考にして考えてみましょう。ただし、百字以内という字数では書ける内容は限られます。理由を明確にして説得力ある内容にすることだけでなく、要点を整理して簡潔にまとめることも目指しましょう。
- 日能研がこの問題を選んだ理由
多くの子どもたちにとって、「実学志向」という言葉は、この問題で初めて目にするものだと思われます。想定外の設問に戸惑ってしまう子どももいるでしょう。
しかし、あらためて目の前に提示されることで、「実学志向」という考え方に対する問題意識が生まれ、社会に対する新たな視点を得ることができるはずです。受験生によっては、潜在的に持っている問題意識の一端を垣間見ることができるかもしれません。なにより、その気づきは子どもたち自身の今後の学びにも関わってくるものだと考えられます。
昨今、「SDGs」に代表されるように、さまざまな問題の解決に向けて、科目や学問の専門分野をこえ、問題を多角的にとらえることの重要性が高まっています。「科学」や「技術」に関しても、それらがもたらしているメリット、デメリット両面からとらえて、活用に関して総合的に判断していくことが、社会では求められます。一方で、それらの「ねらい」が意に反して「悪い結果」をおよぼしている例は、「もの」だけにとどまらず、法や制度、人間関係などをふくめ、生活していくうえで至る所に存在している問題でもあります。多様なものの見方は、子どもたちに是非身につけておいてほしいもののひとつです。
そういった意味で、大妻多摩中学校の設問は、今、求められている学びの形を体現していると考えます。「科学」や「技術」の進歩を題材に、子どもたちは理科や社会科で扱うようなものを、国語で学んだことと結びつけながら、問題を「多角的にとらえること」や「筋道を立てて考えること」の面白さが味わえると考え、この設問を『シカクいアタマをマルくする。』シリーズに選ばせていただきました。