出題校にインタビュー!
市川中学校
2023年04月掲載
市川中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
2.具体→抽象、抽象→具体を行き来きできる力を身に付ける
インタビュー2/3
次に全体の構成についてお伺いします。市川中学校の社会科として、こういうことを大切にしている点について教えてください。
本川先生 受験において知識は当然必要ですし、漢字等を正確に書くことも重要です。しかし、最近は具体的な事例を思い浮かべるような問題、たとえば、2人の主張に対しこれを具体に落とし込むとどういう選択肢になるのか、といった小学生にとっては頭の使い方が難しい問題は増えています。これまで、「記述問題でなければ思考力を問えないのかな」と思いながら作問していた時期もありましたが、「記号問題でも十分問えるのではないか」というのが最近のコンセプトとなっています。テキストで言わんとしていることを具体として考えてみる、ということを意識的に出題しています。
実際にこちらで合致する具体を用意できるかというとそれなりに労力を割かなければならないわけですが、記号問題でもこういった思考力は問えると感じています。具体的に考えることは結構できていないと感じますね。
昔から歴史の出題は多いですよね。歴史の問題が多いというのは何か理由があるのですか。
守脇先生 配分比率は歴史が50%、地理25%、公民25%といった感じでしょうか。歴史が50%を切ることはなく、基本的に前近代と近代にて時代区分して、近代までで1題、近代以降で1題といった具合に出題しています。公民分野は小学生だとあまり学習時間をかけられないと思いますので、歴史に比べると配点はぐっと少なくなりますね。憲法や地方自治、人権、統治機構までは出してもよいと思ってはいます。社会をしっかり学んできてくれた子であれば、歴史はきちんとやってきているだろう、ということで、その成果が出やすい入試としています。
社会科主任/本川 梨英先生
知識偏重型の問題から思考力・判断力・表現力を解く問題へ
初見の資料を入れた問題を出すようになった、きっかけなどはあったのですか。
守脇先生 学校全体として取り組んでいる探究の影響かもしれません。文科省の指導要領でも観点別評価といったものが入ってきております。3年ほど前の中学入試から意識はしているのですけれど、思考力・判断力・表現力の部分についてどう問うていくかは、社会科の中ではかなり意識している部分となっています。
教育界全体でも少子化を迎え、1人の人間がどれだけ高い付加価値を生み出せるかという社会に転換していかなければならない中、子どものうちから思考力・判断力・表現力を育てていくことは大事であると思います。それを入試でも問えるのではないかとは感じます。
本川先生 知識に関しては、本校を受けている子はかなり一生懸命やってきていると思います。あとは、それをいかにこちらの提示している条件、たとえば今回で言うと、グラフや語句に沿って運用していけるかとなった場合、ただ覚えてきたことを書く問題でないと、そのひと手間が小学生にはかなりハードルが高いかもしれませんね。
この問題は、かなり差がついたのではないですか。
守脇先生 社会科の平均点は例年50点台後半なので、そのあたりまでは知識問題で積み重ねることができるのですが、そこから先で2点、4点を積み重ねようとした時に、この問題が2点で終わるか、その上に積み上げ分の点数が取れるかで差がついてしまうと思います。他教科との兼ね合いはあるものの、まんべんなく点数を取るタイプの子だと、弁別がついてしまった可能性はあります。記述問題で満点を取るのは難しいかもしれませんが、必ず部分点は取れるようには作問していますので、まず書くという勇気が必要ですよね。
市川中学校 掲示物
自分で課題設定ができることが中学3年間の目標
社会科の授業で展開していること、今大切にしていることなどあれば教えてください。
本川先生 6年間あるので、高1ぐらいまでは比較的ゆとりがあります。中1・中2は地理・歴史をやり、中3で公民を学ぶのですが、たとえば憲法の記述ってものすごく抽象的で、何を守ってくれるのかが具体的でなかったりします。先ほど「具体と抽象を行き来できるようにする」とお伝えしましたが、ある程度地理や歴史は具体的なことを学びます。では、どうやってこの時代を抽象化できるのか?という『具体→抽象』を中1・中2でやっていきます。そして中3で公民に入るとそれが逆転します。抽象的なこと、たとえば「実社会でどういう部分を憲法は守ってくれるのか」、「この法律は何を言っているのか」について具体的な内容を知る(『抽象→具体』)ために判例を実際に見ていくことなどをやっていて、そこは意識しています。
中3の課題の最後では、1,600文字以上の小論文を書かせているのですが、その際には自分でテーマを設定することにしています。「自分が社会の中で課題と思っていることを1つ取り上げて書きましょう」と言っているのですが、生徒の多くは最初の課題設定ができないんです。自分で課題だと思っていることを設定していくことは、中学の段階だと難しいんだと感じており、その課題を設定できることが中学3年間における目標だと思っています。自分の都合のいいようにデータを読むのではなく、客観的根拠に基づいたデータを使って論じていく冷静さを持ちつつ、自分の結論を導いてくプロセスを授業ではやっていきたいですね。
授業中は生徒同士の話し合いなどを行ったりするのですか?
本川先生 歴史の授業の場合、「もし、〇〇でなかったらはたしてどうなのか?」といった問いは立てづらいものです。その点、公民はわりと自由にできるので、話し合いもありますし体験させることもできます。中3の公民は比較的体験させることは多い気がしていて、たとえば先日、「保険に入るか・入らないか」、「生活レベルをどれくらいにするのか」といったことなど考えるきっかけとして、『マネープランゲーム』という長期的にお金の計画を立てるシミュレーションゲームを行いました。生徒にとって実社会で体験したことがないことは数限りなくありますので、公民に関するようなテーマであれば、まずは触らせてみる、やらせてみるっていう感じですね。
市川中学校 図書館
具体的に考えられる生徒を育成する
先ほど「中学3年間で課題設定できるようにすることが課題」と仰っていましたが、現実問題としてはどうなんですか。
本川先生 課題設定に向けて「どういうふうに課題設定するの?」と生徒と1人ずつ面談をするのですが、課題設定を行うことができていて、教員側が「よくこんな課題を設定できたな」と感心してしまう子たちもいます。一方で、「環境問題について」といった抽象的な課題を立ててしまう生徒も中にはいます。それだと1,600文字で解決できない問題ですし、そもそも具体的に考えられていないってことなんですね。その場合、「環境問題のどの分野・どの内容に対してあなたは問題意識があるんですか?」ということが掘り下げられていないのです。
具体化できていない生徒たちには、どのように接していくのですか。
本川先生 テーマ自体を変えてしまうと生徒のやる気をそいでしまいますので、一応生徒が見つけてきたテーマ自体は活かしたいと思っています。その上で彼らに「どっちの方向に興味があるの」とか「何を知りたいの」といった質問をして、選択肢を狭めていくスタイルで指導していきますね。
インタビュー2/3