シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

市川中学校

2023年04月掲載

市川中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.「逆説」をコンセプトとして出題した問題

インタビュー1/3

まずはこの問題の出題意図についてお聞かせください。

守脇先生 本校の社会科では、毎年単問の問題と記述・論述型の問題を必ずミックスして出題しています。歴史・地理・公民分野それぞれ記述は一題、多い時で二題の出題となり、点数にすると100点中30点いかない程度が出されています。幕張メッセでの入試という大規模受験のため、採点スピードとの兼ね合いで、どこまで記述を突っ込んで出すかのバランスをいつも考えて作問しています。

今回の公民の出題に関しては、18歳成人が社会的に話題となっていたこともあって、「18歳の成人」「18歳の有権者」をテーマに問題のコンセプトを決めました。民主主義については、小学生の場合だと学級会などで経験すると思いますが、民主主義とはどういうコンセプトなのか、それについていろいろな考えがあるよね、というところを考えてほしくて出題しました。

出題の意図として考えたのが「多数決」という概念です。このあとの問題でも訊いているのですが、「少数意見を汲み取るのが民主主義だ」という大きな考え方もある一方で、「多数決で決めていかないと先に進まない」という考えもあります。小学生だとどちらも正しいと考えてしまうと思うのですが、多数決原理の大きなテーマの中に「憲法改正」があります。

記述問題では、こうだと思っていたら実はそうではない、といった「逆説」をコンセプトとして出題するようにしています。社会科学は、「常識だと思っていることが常識ではないかもしれない」、「みんながそうだと思っていることがそうではないかもしれない」、「みんなが良かれと思ってやったことが結果として間違った結果になるかもしれない」といったように、常に逆説を意識した思考が必要であると思います。本校では入学後6年間でそういった社会科の指導を統一して行っていこうというコンセプトで進めていますが、入り口段階となる入試においても「逆説」というものの考え方を問うていこうと思った次第です。

キーワードとしては、投票率が低下していく傾向のなか、実際に選挙、それに伴う国民投票に参加する有権者が半分程度しかいない場合に、その過半数の意味を考えたことが皆さんありますか?という問いからピックアップし、場合によっては有権者の1/4の賛成で改憲または改憲の否決が行われることは、果たして民意を反映しているのか、ということについて問うています。

副校長/守脇 竜彦先生

副校長/守脇 竜彦先生

小学生の段階から「逆説」で物事を考えられる子どもに

実際の受験生の解答は、先生がねらいとしたものとなりましたか?

守脇先生 我々の要求を完璧に答えてくれた解答は全体の15%程度でした。小学生ながらあっぱれという答案もありました。たとえば「投票率が低下している中、投票に行った人の過半数を取ったとしても、それは有権者の過半数ではない」という逆説のロジックをしっかりと書いてくれた子はいましたね。また、逆説とまではいかないものの、過半数の意味について疑いがあるような文章を書いてくれた子もいました。残りの85%の中には、このグラフの読み取り自体はしっかりできていたものの、そこから先のロジックがなく、「だから問題です」と終わってしまっているものが多かったです。そこのロジックを書いてほしかったのですけれど。とはいえ、しっかりとできている子はいるなとは感じました。

小学生が書く文章の場合、基本的に順接や並列で書くことがほとんどですから、小学生のうちから逆説の「でもね」や「そうなの?」「ちがうんじゃない?」といったように、人の意見に対して疑問を持ったり自分の頭を使って考えたりするとよいですね。

白紙解答は15%ぐらいだったでしょうか。地理や歴史がかなりこってりした問題となっているので、40分の試験時間で最後の公民までたどり着けなかったのか、おそらくは時間切れだと思います。

市川中学校 校舎内

市川中学校 校舎内

資料から正確に情報を読み取って過不足ない文章が作れるように

作問の際、この部分は意識して作っているといったポイントはありますか?

守脇先生 受験生は覚えてきたことや習ってきたことを答案用紙の上で再現しがちなのですが、問うているところは与えられた資料を正しく読み取って、論述のベースを作ってほしいという部分です。そのため、読み取れないことをいくら書いたとしても一切加点はしません。あくまで与えた条件の中で書いてほしい。これは歴史・地理・公民すべてに共通しています。

無駄な要素が付け足されてしまい結局何が言いたいのかよくわからない、ということ解答は、多いように感じますか?

守脇先生 この問題は、資料全体を読んで過不足ない文章を作ることを要求したものでしたが、今回採点する中、一定の割合で「若者の投票率が下がっている」ということが書かれていました。しかし、「若者の投票率が下がっている」とは本文中に書かれておりません。そこは論点ではないわけなのですが、世間一般やご家庭での話、塾や学校の話の中で刷り込まれていることなのでしょうね。

また、「高齢者だけで憲法を改正してしまうとそれはシルバー民主主義だ」と書いていたものもありました。「シルバー民主主義」という言葉を知っているんだという点について感心はするものの、そこもこの問題では聞いていないんですね。すごく勉強している受験生は多いんだなと誤答の場合でも感じるのですけれど。

あとは、選挙データを出したので「少ない投票率でも当選してしまう」という選挙の話を書いてきた子もいましたし、参院選のグラフだけ見て「50%を切っている」と書いてきたものもありました。

条件の読み取りができていない、というのは今年に限らず例年多い印象でしょうか?

守脇先生 そうですね、一定数はいますね。一生懸命書いてはくれているのですが、何を聞かれているのか自分の中で咀嚼して書き始めるというよりも、読んだ瞬間に自分の書きたいことを書いてしまう。「何を書いたらいいんだっけ?」と立ち止まって考えるクセが、まだ体に身に付いていなんだと思います。とはいえ、10年ぐらい前までは白紙答案の子もかなりいましたので、最近の受験生は書く練習はしていると感じます。

本川先生 しっかり構成をして書かないといけない問題は増えています。そのため、条件に当てはまらない解答が増えており、「内容を説明しなさい」「背景を説明しなさい」といった問題であれば暗記で行ける子でも、こういった問題の場合には点数にならないことが多いです。

守脇先生 正直言って、この問題に公民の知識はいりません。グラフと与えられた文章とキーワードを3つ使って作文するだけですので、その場でひらめく力がもとめられており、予備知識はいらない問題なんです。

市川中学校 図書館

市川中学校 図書館

インタビュー1/3

市川中学校
市川中学校1937(昭和12)年、市川中学校として開校。47年、学制改革により新制市川中学校となる。翌年には市川高等学校を設置。2003(平成15)年には中学で女子の募集を開始し、共学校として新たにスタート。同時に新校舎も完成させた。女子の1期生が高校へ進学する06年には高校でも女子の募集を開始。昨年4月には校舎の隣に新グラウンドが完成。2017年には創立80周年を迎えます。
創立以来、本来、人間とはかけがえのないものだという価値観「独自無双の人間観」、一人ひとりの個性を発掘し、それを存分に伸ばす「よく見れば精神」、親・学校以外に自分自身による教育を重視する「第三教育」を3本柱とする教育方針のもとで、真の学力・教養力・人間力・サイエンス力・グローバル力の向上に努めている。
効率よく、密度の濃い独自のカリキュラムで、先取り学習を行っていく。朝の10分間読書や朝7時から開館し、12万蔵書がある第三教育センター(図書館)の利用などの取り組みが連携し、総合して高い学力が身につくよう指導している。中学の総合学習はネイティブ教師の英会話授業。2009年度より、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定校となる。授業は6日制で、中1、中2の英語7時間、中3数学7時間など主要科目の時間数を増やす。ほかに夏期講習もあり、中1・中2は英・数・国総合型講習を実施。高校では、高2で理文分けし、高3ではさらに細かく選択科目等でコースに分かれて学ぶ。授業の特徴としては、インプット型の学習で基礎力を育成するともに、SSHの取り組みとして、研究発表、英語プレゼンなどを行う「市川サイエンス」、対話型のセミナーである「市川アカデメイア」、文系選択ゼミの「リベラルアーツゼミ」といった発表重視のアウトプット型の授業展開を実施している。自らの考えを相手に伝える表現力を、論理的に考え、それを伝わりやすい文章で表現するスキルとしてアカデミック・ライティングといい、「読めて、書ける」を目指し「課題を設定する力」、「情報を正確に受け取る力」、「それを解釈・分析する力」、「自分の考えをまとめ・伝える力」を育てる。
高1の各クラスごとに3泊するクラス入寮は創立当時から続く伝統行事。クラブは中高合同で活動する。行事は体育祭、文化祭のほか、自然観察会、合唱祭、ボキャブラリーコンテストなどもある。夏休みには中1、中2で夏期学校も実施。中3でシンガポールへの修学旅行を実施。また、希望者を対象にカナダ海外研修(中3)、イギリス海外研修(ケンブリッジ大学、オックスフォード大学中3・高1)、ニュージーランド海外研修(中3・高1)、アメリカ海外研修(ボストン・ダートマス高1・高2)が実施されている。生徒のふれあいを大切にしているが、カウンセラー制度も設けて生徒を支えている。