今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!
市川中学校
2023年04月掲載
2023年 市川中学校入試問題より
- 問題文のテキストを表示する
次の日本国憲法第96条の条文の一部を読んで、あとの問いに答えなさい。
この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又(また)は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
(問)下線について、グラフ1・2を見ると、憲法改正について国民の承認が民意を正しく反映するとは限らないとも考えられます。なぜそのように考えることができるのですか、グラフから読み取れることを参考にしたうえで説明しなさい。なお、説明には以下の[語句]を使用すること。
[語句] 有権者 投票率 過半数
中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この市川中学校の社会の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)
解答と解説
日能研による解答と解説
解答例
最近の国政選挙の投票率は60%を下回っている。国民投票でも同様に投票率が低ければ、実際の有権者の過半数の意見を反映していないことが考えられるから。
解説
指定語句である「有権者 投票率 過半数」の3つの語句を手がかりにして記述の方向性を考えます。憲法改正の発議については、日本国憲法第96条では「この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。」と書かれています。つまり、国民投票による必要な賛成は、「有権者の過半数の賛成」ではなく、「投票における、その過半数の賛成」です。グラフ1・グラフ2からも読み取れるように、最近の国政選挙の投票率は50~60%ほどで、50%を下回ったときもあることから、投票していない満18歳以上の有権者が多くいることがわかります。このような投票率が低い状況で国民投票が行われた場合、投票しなかった人が賛成なのか反対なのかもわかりません。このように選挙の投票率が低くなると、政治に民意が正しく反映されると言えません。
- 日能研がこの問題を選んだ理由
日本国憲法は、1947年に施行されてから現在に至るまで改正されていません。しかし、2010年に国民投票法が施行されて以降、憲法改正が国政選挙の場においても争点の1つとなってきました。そうしたことから、近年の入試問題でも、日本国憲法第96条の条文中の語句の穴埋めや、憲法改正の手続きの流れについての出題が散見されます。
今回の市川中学校の問題には、「民主主義とは何か」というリード文があり、受験生は民主主義に関するいくつかの意見を比較しながら、民主主義にはさまざまな考え方があることを知ります。その上で、「憲法改正について国民の承認が民意を正しく反映するとは限らないとも考えられる理由」について考えます。受験生であれば、問題でも示されている、日本国憲法第96条の「特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする」ことは学んでいます。その上で、戦後からの衆議院議員総選挙と参議院議員通常選挙それぞれの投票率の推移を示したグラフを読み取ると、どちらも近年では投票率が低くなっていることがとらえられます。すると、「過半数の賛成」とは、有権者の過半数の賛成ではなく、投票した人の過半数の賛成であるため、投票していない人は賛成か反対かの立場もわからないことに気づきます。これらのことから、憲法改正について国民の承認が民意を正しく反映するとは限らないということがわかります。
市川中学校の入試問題のリード文に、次のような一節があります。
「私たちは、民主主義の当事者として行動することを通して、自分なりの民主主義についての理解を深めていくことが求められているといえるでしょう。」問題を解き終えた後、改めてリード文を思い起こすと、「投票率が何%なら国民の民意が反映されたといえるのだろうか」「投票率100%なら民意が反映されているといえるのだろうか」「投票に行く、行かないを判断した人はどのようなことを考えているのだろうか」「賛成や反対といった意見が同じでも、その考えの背景は同じなのだろうか」など、新たな問いが生まれてくるでしょう。憲法改正は、国民が最終的な意思を決定するものであり、その意思を表明する手段の1つが国民投票です。現在、12(11)歳の受験生は、6(7)年後に、国政に参加する有権者となります。この問題からは、今から自分が民主主義の当事者として社会とどのようにかかわっていくかを考えるきっかけをつくり、そして、問いを持ち続けながら中学・高校の6年間を学んでいこうというメッセージが込められていると感じます。
このような理由から、日能研ではこの問題を『シカクいアタマをマルくする。』シリーズに選ぶことにしました。