シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

栄東中学校

2023年03月掲載

栄東中学校の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.失敗したら必ず「なぜ」を考える

インタビュー3/3

赤ワインをブドウジュースにして失敗させる

市原先生 栄東の理科の授業は「失敗OK」のスタンスです。失敗を恐れて何もしなくなれば成長できません。失敗して気づくことがあるので、「失敗した」で終わらせず、「なぜ失敗したのか」を考えるようにしています。
実験でわざと失敗させることもあります。赤ワインからアルコール(エタノール)を取り出す蒸留の実験では、1つの班だけブドウジュースを配ります。

高橋先生 ブドウジュースでは当然、火がつきません。生徒は「どうしてだろう?」と考えます。時間経過と温度のグラフは、赤ワインの班は温度上昇が2段階になっているのに対し、ブドウジュースの班は直線的に上昇しているので、「この温度の上がり方はおかしい」と気づきます。エタノールの沸点(約78℃)で何も発生していない、つまりエタノールがない、ということは、試料は赤ワインではなくブドウジュースではないか、と推測します。
実験内容についてよく考えてくれたからでしょう、この分野のテストはみんな好成績でした。

市原先生 失敗の原因を探る作業は「深く学ぶ」ことでもあるので、危険が及ばなければ、基本的に失敗は大歓迎です。
教科書の実験を機械的にこなすだけでは単なる作業になってしまい、おもしろくないし身につきません。「確かめてみよう」「やってみよう」「それって本当かな」と自分の内から湧き上がってくる思いを大事にしたいと思っています。

栄東中学校 実験室

栄東中学校 実験室

実験での感動を大切にしたい

実験のレポートはどうされていますか。

市原先生 レポートのプリントはありますが、「実験での感動」を大切にしたい。これは賛否分かれると思いますが、レポートを書く、データを取る、分析することは、今でなくても後でもできるので、実験中は実験することに集中してもらいたいという思いが強いですね。
教科書で勉強したことでも、実験して「こういうことだったんだ」という感動は印象に残ります。すると、理科っておもしろいな、楽しいなと思ってもらえるのではと思います。

高橋先生 レポートの考察は、理科的に表現不足なところがあっても、まず自分の考えを言葉にすることを大切にしています。
ただし、感想と考察は違います。「なぜそうなったのか」という考察はきちんと書くように指導しています。考察の方向性がおかしかったとしても、頭ごなしに否定はしません。否定すれば思考が止まってしまうからです。実験の結果から、さらにどんなことができるかを考えることが大切です。

栄東中学校 実験室

栄東中学校 実験室

植物観察に植物図鑑アプリを利用

市原先生 本校は自然豊かな環境にあるので、植物の学習は屋外で自然観察をしています。

高橋先生 写真を撮ればその植物の名称がわかるアプリなど、学びを助ける便利なツールを活用していきたいと思っています。

市原先生 そうしたアプリがあれば、日常生活の中で「こんなところに、こんな花が咲いている」と気づくことが増えて、学びにつながっていくでしょう。そうして学び進むことで、人生も豊かなものになっていくのではないかと思います。

高橋先生 生物は便利なツールを使うことで実物を見る機会を増やします。逆に物理は、あえて不便にすることを意識しています。すぐに答えが出ないことを、どの実験器具を使ってもいいから生徒自身で答えを導き出すような実験をしています。

栄東中学校 校舎

栄東中学校 校舎

動画配信で学ぶ機会をむしろ増やす

市原先生 コロナ禍では実験器具等の共有が難しかったため、実験の動画を積極的に活用しました。実物を操作したりすることはできないけれど、生徒が同じ操作の動画を見て実験の全体像をとらえられるようにしました。
オンライン授業もすぐに始められたので、従来は病欠や公欠で授業を受けられなかった生徒も後日、実験の動画を閲覧することができるようになり、学ぶ機会を減らさずに済みました。動画は繰り返し見ることができるので、かえって学ぶ機会を増やすことになりました。
もちろん、新年度からは実物に触れる機会を増やして、コロナ前のように実験できるようにしたいと思っています。

高橋先生 これからは実際の実験も増やしつつ、動画配信も継続して“いいところ取り”できるようにしたいですね。

科学の頂上決戦「栄東科学オリンピック」

高橋先生 学内で理科の力を鍛える機会に「栄東科学オリンピック」があります。例えば、A4の紙一枚をテープやハサミを使わず何かしら工作して、約6mの高さから落とし、滞空時間を競いました。
工作なしでは空気の抵抗が大きく、紙がめくれて縦になったとき一気に落ちてしまいます。優勝作品の「ムカデ」は、最もシンプルなつくりでした。ちょっとした切れ込みを入れて丸めるという簡単な工作で、“足”の隙間からほどよく空気が逃げてふわりと浮かせることができました。
教員のシミュレーションでは4秒台でしたが、優勝作品は7秒台でした。わずかな差に思えるかもしれませんが、6mの高さでそれだけの差があったのは驚きでした。
このように、理系に限らず文系の生徒にも理科の力をつける環境を整えており、学外の大会への参加も推奨しています。

栄東中学校 実験室

栄東中学校 実験室

自分の不便の解消が他者の便利につながる

中高6年間で、どんな理科の力をつけてもらいたいと思っていますか。

高橋先生 今あるものを受けとめつつ、「こうしたらもっとよくなる」ということを考え、さらにそれに向かって行動できるようになってくれたらいいですね。
中1の最初の授業で身近な特許の話をすることがあります。自分の不便を解消することで多くの人も便利に暮らせるようになり、巡り巡って自分を豊かにもします。こうした循環は理科で養うことができるのではないかと思います。

市原先生 今の常識は将来、非常識になるかもしれません。ですから学び続ける大切さを理科の授業を通して伝えたいですね。生徒が学び続けられるように、興味・関心の火をともすためのシカケを、いろいろと用意したいと思っています。生徒はいろいろなことにチャレンジして、食指が動いたものを突き詰めいていけばいい。そのとき、教員の想定を余裕で超えてほしいと願っています。

インタビュー3/3

栄東中学校
栄東中学校平成4年に中学校が開校し、中高一貫教育が開始された。時代の変化に先駆けて、アクティブ・ラーニングを取り入れ、「①授業、②校外学習、③キャリア、④部活動」という4つを軸に分けて展開している。授業での工夫という枠を超えて、生徒の学びの場すべてをアクティブ・ラーニング実践の場ととらえ、学校そのものがアクティブ・ラーニングの場である。特定の教員が実践するのではなく、全教員がアクティブ・ラーニングの実践者であることが最大の特徴である。
大学入試結果は教育の成果であり、そこにいたるプロセスと大学卒業後、社会で生きる力の育成に関する学校としての方針をアクティブ・ラーニングという理論に基づいて計画して実践している。授業は常に見学可能であり、教員同士がいつでも授業を見せ合う環境となっている。中1の入学時点では人の前でプレゼンテーションすることが苦手な生徒でも、中3までの間に至極当然のこととなっていくということである。
建学の精神「人間是宝」の理念は、『人間はだれもがすばらしい資質を持った、宝の原石であると考え、その原石を磨き上げ、文字通り本当の「宝」として育てること』であり、そのために、校訓「今日学べ」(今日のことは今日やり、勉強も仕事も明日に残さない)を掲げている。
広大な敷地には、勉学に専念するための充実した施設があり、先生方も遅くまで生徒たちの学びにつき合うことも多いという。勉強だけではなく、多くのクラブ活動も盛んであり、それは学校での生活すべてがアクティブ・ラーニングであるということに通じている。