シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

栄光学園中学校

2023年01月掲載

栄光学園中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

2.生徒の好奇心をかきたてる題材とライブ感がおもしろい授業を生み出す

インタビュー2/3

考えている時が一番楽しい

先生方にとって「おもしろい」とはどういうことですか。

須田先生 私は考えている時が一番楽しいです。あることを正確に考えるには、あるいは正確に表現するには、どういうふうに考えを進めていけばいいのだろうと考えている時です。例えば、計算を少し簡単にできないか、あるいはそこまでシンプルにできたのなら一般化できるのでは?そういう視点をもって考えて、気づいたことをまとめて、わかっていく過程も楽しいですし、新しい発見があるとなお楽しいのです。

自分一人で考えることも楽しいのですが、それを生徒と共有して一緒に考えることができるともっと楽しいです。なぜなら、生徒はこちらの設計どおりに考えを進めてくれないからです。いろいろな発言が飛び交い、脱線し、1つの問題をみんなで「あーでもない」「こーでもない」と言いながら考えていく時間はとても有意義です。以前、「空間を平面で分割したら何個の空間ができるか」という東京工業大学の入試問題を生徒たちと共有したことがありました。私はある程度こうなるという解答をもって臨みましたが、その当時、インターネットのどこのサイトにも載っていないような解答を生徒が出してきたのです。「そんなことができるの?確かめてみよう」と言って計算してみると合っていました。そういうことをしている時間がすごく楽しいのです。

小松先生 生徒のほうから「こう考えたらどうですか」という提案がよくなされる学校だと思います。そういうことがあると、こちらとしても本当に楽しいです。

数学科/須田 忠寛先生

数学科/須田 忠寛先生

授業は自由度が高く、教員の色が出る

授業についてもう少し詳しく教えてください。

須田先生 授業のやり方は先生によって違います。担当する子どもたちに適している内容ややり方とはどういうものかを考えて、やってみたいと思ったことはほぼできます。私の場合は、自分がおもしろいと思った題材を使い、ポイントだけ押さえて、あとは生徒に考えてもらうことが多いです。題材は普段から探していて、見つかるとカリキュラムに関係なく、その問題に太刀打ちできる学年に投げるといった具合です。

思いもよらない解答が返ってくることもありますよね。

須田先生  あります。そうなればしめたもので、拾いまくります。生徒たちから出てきたもの(考え)を拾って、それを展開していくと、もっとやろう、みんなで考えよう、という雰囲気になります。すべてがすべてそういう授業ではありませんが、そういう雰囲気が生まれた時は楽しいです。

数学は概念を感覚でつかむことが大事

考え始めたら1コマの授業に収まりきらないのでは?

須田先生  収まらなくてもいいと思っています。考える時間が1時間しかないのはもったいないので、できれば収めずに、授業をまたいで考える時間を作るようにしています。数学は概念を感覚でつかむことが大事なので、教え込むというよりも、生徒に考える場を提供し、自分でつかみ取るまで少し待つということを意識しています。授業でもやもやしてもらい、その状態で家に帰って、例えばお風呂に入りながら考えて、もやもやしたものが少しクリアになるというか、自分の中で納得して次に進んでいってほしいと思っています。数学が好きな生徒たちは、休み時間に自主的に集まって、黒板を使って「ああでもない」「こうでもない」と議論しています。そういう姿を見るのが楽しくてたまらないのです。

中には高3までそのモヤモヤを解消できないものもあります。「ここまでは来ているよ」と、現在地は提示しますが、残っているモヤモヤは頭の片隅に持っている状態のままでいてほしいと思っています。頭は使えば使うほど良くなりますから。各々が自分の中でストンと落ちるところを目指してくれたらいいなと思っています。

栄光学園中学校 校舎

栄光学園中学校 校舎

授業では数学のおもしろさを伝えたい

目の前の生徒さんに対して誠実に向き合う姿勢が、入試問題にも現れているということがよくわかりました。

須田先生 授業は生き物なので毎年同じことはできません。同じ内容でも、自分も一緒に考えながら解いている時は脂が乗っておもしろい学びになっていると思いますが、一回実施したものをコピーして、1年後に同じことをやろうと思うとしくじります。生徒は一人ひとり違いますから、目の前の生徒から感じたことを大切にして題材を提供し、その場その場で、そこにいる生徒たちと同じ呼吸で取り組むことを大事にしています。

ライブ感を大切にした授業を行うことによって、生徒に変化は見られますか。

須田先生 授業はきっかけだと思うんですよね。生徒は一人ひとり異なる能力をもっていて、数学が好きな生徒もいれば、好きではない生徒もいます。好きではなくても、授業を通して数学は楽しいものなんだろうな、と感じたり、なんかおもしろいぞ、と気づいて、突然勉強を始めたりする生徒が出てきてくれたらいいな、という気持ちで行っています。
実際に、少し勉強をサボっていて数学も不得意でしたが、ある日、おもしろさに気がついて…。「もっと早く数学の楽しさに気づきたかった。そうすればもっと楽しかったのに」というようなことを言って卒業していった子もいます。やらされている状態では限界があると思いますが、自ら学ぶようになったら飛躍的に伸びます。変わっていく生徒は毎年います。

小松先生 授業における課題の提供の仕方や授業の進め方は先生によって違うのですが、基本的な考え方は須田先生が話してくれたように、数学のおもしろさをわかってほしい。そこに気づいてほしい、というところにあると思います。他の先生方も、生徒が自ら学ぶことが一番いいことだと思っていますし、きっかけをつかんでほしいという思いをもって授業を展開していると思います。本校には、生徒自ら勉強しようと思えば、どんどん勉強していける環境があります。先生だけでなく、友だちともいろいろなことを話し合いながら高めていくことができる学校だと思います。

栄光学園中学校 校舎内

栄光学園中学校 校舎内

能力が突出した生徒も導く必要がある

先生方の間で情報を共有することはありますか。

小松先生  おもしろい題材はないかとか。授業を展開していく中でこういうことがあってこれがうまくいったとか。そういう話はよくしますので、そういう中からヒントを得て自分の授業展開に活かしていくということはよくあります。

すごい能力をもつ生徒さんもいるのでしょうね。

須田先生 います。ただ、そういう子も勝手に学ばせるのではなく、導いてあげる必要はあると思っています。我々がある程度のくさびになってあげなければいけないと思っています。

たしかにトップアスリートにもコーチは必要ですからね。

須田先生 そういう子には(今、取り組んでいることを)報告してもらうようにしています。今、担当している生徒の中にも、ものすごく難しいことに取り組む生徒がいるのでおもしろいです。ギリギリ理解できるかどうか、という状況下でも、「ここはどうなっているの?」と聞いて、説明してもらうということをしています。そうしたコミュニケーションを取ることで、また報告しようという気持ちになってくれるからです。
私は全員が全員、1人の先生と相性がいいわけではないと思っているので、担当する1番上の学年には「聞きに行きたいことがあれば、自分が聞きに行きたい先生に聞きに行きなさい」と言っています。(今、習っている先生だけでなく)それまでに習った先生の中で、一番自分が聞きやすい人、わかりやすかった人に聞いて学んでいけばいいと思っています。

インタビュー2/3

栄光学園中学校
栄光学園中学校1947(昭和22)年、イエズス会運営の中学・高校として横須賀に創設。初代校長はグスタフ・フォス師。1957年に設立母体の上智大学から独立、学校法人栄光学園となり、1964年現校地に移転する。当初はしつけの厳しさで知られたが、1970年代からは進学校として一躍全国的に知られるようになった。
キリスト教的価値観に基礎を置き、「生徒一人ひとりが人生の意味を深く探り、人間社会の一員として神から与えられた天分を十全に発達させ、より人間的な社会の建設に貢献する人間に成長するよう助成すること」を教育理念とする。ただし正課として宗教の授業を設けたり、礼拝を義務付けたりすることはない。6年間完全中高一貫教育、通学時間の制限などを堅持している。
2017年、新校舎が完成した。低層2階建てで、2階部分は木造校舎。教室から容易に大地へ降りられ、人が自由に集えるスペースを設けられていることで、仲間や先生との交流を自然に育める環境づくりがされている。豊かな自然環境を生かしながら、先進のコンセプトを取り入れた「みらいの学校」である。約11万m2の校地は、首都圏私立中学校のなかでも有数の広さ。トラックフィールド、サッカーグラウンド、テニスコート、バスケットコート、野球場などを備える。そのほか、コンピュータルーム、聖堂、図書館などがある。丹沢札掛には山小屋がある。
中高6年間を初級・中級・上級の3ブロックに分け、各発達段階にふさわしい指導目標を掲げ、適切な指導方法を工夫しつつ教育を実践。決して「進学校ではない」としながらも、カリキュラムの内容はレベルが高く、進度も速い。英語は『ニュートレジャー』を使用。初級では日本人教師と外国人教師のペアで行う授業があり、中学2年~高校2年ではGTECの受験を義務付けている。高校1年では週1時間、必修選択の「ゼミナール」があり、中・韓・スペイン語の講座、マジック研究、料理研究、プログラミングなど、授業では扱わないテーマの講座も行っている。その中には、毎週異なるOBを招き、多角的に話を聞く講座もあり、放課後は他学年も聴講ができる。
イエズス会運営の学校独自の「中間体操」のほか、30kmを踏破する「歩く大会」など体を鍛える行事が多い。大船駅からの、通称「栄光坂」を通学することも鍛練の後押しになっているようだ。「愛の運動」と呼ばれるボランティア活動では養護施設などへの訪問や、クリスマスの施設招待など、カトリック校らしい多岐にわたる運動を実践。
課外活動としての聖書研究会への積極的な参加も呼びかける。フィリピンの姉妹校との交流は単なる語学研修ではなく、アジアの国に住む人とのふれあいから、自らを振り返り、成長する機会としている。また、イエズス会の運営する大学のボストンカレッジで、アメリカの高校生とともに学ぶカトリック・リーダー研修もある。クラブ活動は原則として全員参加。活動は週2回だが、工夫して熱心に活動している。