今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!
栄光学園中学校
2023年01月掲載
2022年 栄光学園中学校入試問題より
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1から10までの10個の整数を1つずつ下の に入れて、分数のたし算の式を作ります。
(問1)次のように式を作ったときの計算結果を、これ以上約分できない分数で答えなさい。
(問2)計算結果が\(\frac{9}{5}\)より小さくなる式を1つ作りなさい。また、その計算結果をこれ以上約分できない分数で答えなさい。
(問3)計算結果が7以下の整数になる式を1つ作りなさい。また、その計算結果の整数を答えなさい。
中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この栄光学園中学校の算数の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)
解答と解説
日能研による解答と解説
解答
(問1)6\(\frac{248}{315}\)
(問2)解答例 式 \(\frac{5}{10}+\frac{3}{9}+\frac{4}{8}+\frac{2}{7}+\frac{1}{6}\)
計算結果 1\(\frac{11}{14}\)
(問3)解答例 式 \(\frac{10}{5}+\frac{6}{9}+\frac{1}{3}+\frac{7}{2}+\frac{4}{8}\)
計算結果 7
解説
(問1)
\(\frac{2}{1}+\frac{4}{3}+\frac{6}{5}+\frac{8}{7}+\frac{10}{9}\)を計算します。
初めから5つの分数をすべて通分して計算することもできますが、大変そうです。
ここでは、計算量ができるだけ少なくなるように工夫して計算します。
\(\frac{2}{1}+\frac{4}{3}+\frac{6}{5}+\frac{8}{7}+\frac{10}{9}\)
=(2+\(\frac{6}{5}\))+(\(\frac{4}{3}+\frac{10}{9}\))+\(\frac{8}{7}\)……まず、\(\frac{2}{1}\)=2に直し、たし算しやすそうな組を作る。
=3\(\frac{1}{5}\)+2\(\frac{4}{9}+\frac{8}{7}\)
=3+2+\(\frac{1}{5}+\frac{4}{9}+\frac{8}{7}\)……帯分数を整数部分と分数部分に分ける。
=5+\(\frac{563}{315}\)
=6\(\frac{248}{315}\)
(問2)
計算結果が\(\frac{9}{5}\)よりも小さくなる式を探す問題です。まずは\(\frac{9}{5}\)という数を気にせずに、計算結果ができるだけ小さくなるように式を作ります。その計算結果が\(\frac{9}{5}\)よりも小さくなれば、その式を答えとすることができます。
計算結果をできるだけ小さくしたいので、それぞれの分数が小さくなるようにします。そのためには、分母を大きくし、分子を小さくします。つまり、分母には10、9、8、7、6を、分子には5、4、3、2、1を使います。
次に、分母と分子の組み合わせを考えます。例えば、分母に10と6を、分子に5と1を使うなら、\(\frac{1}{10}+\frac{5}{6}\)よりも\(\frac{5}{10}+\frac{1}{6}\)の方が小さくなります。つまり、大きい分母には大きい分子を使った方が、全体の和が小さくなることがわかります。
以上より、まず、\(\frac{5}{10}+\frac{4}{9}+\frac{3}{8}+\frac{2}{7}+\frac{1}{6}\)という式ができあがります。
この計算結果が\(\frac{9}{5}\)よりも小さいかどうかを確認しますが、計算が大変そうです。
そこで、分母と分子の組み合わせを、計算しやすそうな組に換えてみます。
このとき、組み換えることによって、計算結果が\(\frac{9}{5}\)よりも大きくなるかもしれませんが、そうなってしまった場合は、別の組をさがします。
例えば、\(\frac{5}{10}+\frac{4}{9}+\frac{3}{8}+\frac{2}{7}+\frac{1}{6}\)を、\(\frac{5}{10}+\frac{3}{9}+\frac{4}{8}+\frac{2}{7}+\frac{1}{6}\)と、約分ができる組み合わせに換えて、計算しやすくしてみましょう。
すると、
\(\frac{5}{10}+\frac{3}{9}+\frac{4}{8}+\frac{2}{7}+\frac{1}{6}\)
=\(\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{2}+\frac{2}{7}+\frac{1}{6}\)
=(\(\frac{1}{2}+\frac{1}{2})+(\frac{1}{3}+\frac{1}{6})+\frac{2}{7}\)
=1+\(\frac{1}{2}+\frac{2}{7}\)
=1\(\frac{11}{14}\)
となります。11÷14=0.78…なので、1\(\frac{11}{14}\)=1.78…となり、\(\frac{9}{5}\)=1.8よりも小さいことがわかります。ですから、\(\frac{5}{10}+\frac{3}{9}+\frac{4}{8}+\frac{2}{7}+\frac{1}{6}\)=1\(\frac{11}{14}\)を答えとすることができます。
(参考)和が\(\frac{9}{5}\)よりも小さくなる式は、他にも次の4つがあります。
\(\frac{5}{10}+\frac{4}{9}+\frac{3}{8}+\frac{2}{7}+\frac{1}{6}\)=1\(\frac{389}{504}\)=1.771…
\(\frac{4}{10}+\frac{5}{9}+\frac{3}{8}+\frac{2}{7}+\frac{1}{6}\)=1\(\frac{1973}{2520}\)=1.782…
\(\frac{5}{10}+\frac{4}{9}+\frac{2}{8}+\frac{3}{7}+\frac{1}{6}\)=1\(\frac{199}{252}\)=1.789…
\(\frac{5}{10}+\frac{4}{9}+\frac{3}{8}+\frac{1}{7}+\frac{2}{6}\)=1\(\frac{401}{504}\)=1.795…
(問3)
(問1)や(問2)に取り組んでいくうちに、10個の数のそれぞれの使い道がいろいろ見えてくるでしょう。例えば、次のようなことが挙げられます。
- \(\frac{4}{2}\)や\(\frac{8}{2}\)などのように、分子に分母の倍数を置くと整数を作ることができます。
- 合計を7以下にするので、10や8などの大きめの数は、例えば\(\frac{10}{5}\)=2のように小さくしたり、\(\frac{4}{8}\)=0.5のように分母に持ってきて、整数を作れそうな小数にしたりした方がよさそうです。
特に、\(\frac{5}{10}\)や \(\frac{3}{6}\)、 \(\frac{4}{8}\)、 \(\frac{7}{2}\)など、小数にすると「□.5」となる数はたくさんありそうです。これらを使うと、比較的自在に整数が作れそうです。 - 3と9を分母にすると、これらの分数はたし算しやすく、例えば\(\frac{6}{9}+\frac{1}{3}\)=1のように、分母が3や9の分数で整数を作ることができます。
- 7を分母にすると、分子に何が来ても割り切れない小数になるので、整数を作るためには、7は分母ではなく分子に持ってきた方がよさそうです。
このようなことを組み合わせて調べていくと、例えば次のような式を作ることができます。
例1 \(\frac{10}{5}+\frac{6}{9}+\frac{1}{3}+\frac{7}{2}+\frac{4}{8}\)=7
例2 \(\frac{8}{10}+\frac{1}{5}+\frac{6}{9}+\frac{7}{3}+\frac{4}{2}\)=6
例3 \(\frac{6}{10}+\frac{7}{5}+\frac{4}{8}+\frac{9}{3}+\frac{1}{2}\)=6
例4 \(\frac{5}{10}+\frac{3}{9}+\frac{1}{6}+\frac{4}{8}+\frac{7}{2}\)=5
他にも、様々作ることができます。
- 日能研がこの問題を選んだ理由
問題で問われていることは、とてもシンプルです。(問2)では5つの分数の和が\(\frac{9}{5}\)=1.8より小さくなるものを、(問3)では5つの分数の和が7以下の整数となる組を、それぞれたった1組でも見つければ終わりです。その上、\(\frac{10}{5}\)や\(\frac{6}{3}\)や\(\frac{8}{2}\)のように、整数になる分数が簡単に作れてしまうことから、問題に取り組み始める前には、何だかすぐに答えが見つかりそうな気がします。ところが、実際に調べ始めてみると、意外と大変なことに気づきます。途中までは順調なのに、最後には、どうやって組み合わせてもうまくいかない数が残ったり、微調整をしようとすると、また別のところで半端が出てきて、やはりうまくいかなかったりします。あと少しでできそうなところまで到達するのに、なかなか到達しないところが、この問題の面白いところで、取り組む人をついつい没頭させてしまう魔力を持っています。
そして、この問題のもう一つの魅力は、(問1)や(問2)を経て、(問3)に取り組むあたりになると、この問題を解き始める前の自分と比べて、いつの間にかかなり賢くなっていることに気づく点です。つまり、(問1)や(問2)で試行錯誤しながらパズルを楽しんでいくうちに、自然とそれぞれの数の性質や特徴、できる分数の個性に気づき、それを上手に使おうとする自分の姿に気づきます。「失敗は成功のもと」という言葉があります。そこには、失敗をすることによって得られる教訓や知識や知恵が、次にチャレンジするときに使えるようになる、という意味が込められているのでしょう。この問題に取り組むと、数の性質に目を向ける力と、わかったことを次につなげる力を養うことにつながっていきます。この問題には、算数や数学の学び方を成長させるきっかけがたくさん詰まっているといえるでしょう。
このような理由から、日能研ではこの問題を『シカクいアタマをマルくする。』シリーズに選ぶことにしました。