シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

香蘭女学校中等科

2022年12月掲載

香蘭女学校中等科の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.失敗こそみんなでシェアする

インタビュー3/3

独自の探究プログラム「SEED」を開始

熊澤先生 本校では、2021年度の中2・中3から「SEED」(Self-Enrichment EDucation)という探究プログラムを始めました。これは2004年から実施していた、自ら主体的に取り組む「SE学習」(Self Enrichment study)の趣旨を引き継ぎつつ、内容をさらに深化させたものです。
SEEDというネーミングには「種」という意味も含みます。さまざまな取り組みを通して種をまき、芽を出し、花を咲かせて実を結んでほしいという願いを込めています。
今年度で2年目、中2・中3年は週2時間、高1は週1時間「SEED」として実施しています。

中学のSEEDは体験重視で科学的要素が強くなっています。問いを持ち、その問いに論理的に答えて、自分の考えを適切に言語化することを繰り返します。
通常の授業ではじっくり教えきれない考え方や調べ方をSEEDで習得することで、「これはこの方法で調べてみよう」と自分で取り出せるようになってもらいたいと思っています。中3では理科的アプローチ、社会科的アプローチ、数学的アプローチなどを体験し、3学期にそれらのアプローチによる表現を試みます。

中島先生 またSEEDに関わらず、生徒が興味を持ったこと、やってみたいと思ったことができるようにしています。放課後に実験室を使って、蚕の実験や藻類から繊維を作る実験など、自発的に取り組んでいる生徒もいます。

理科/熊澤 めぐみ先生

理科/熊澤 めぐみ先生

築山は心の拠り所であり、よき教材でもある

実験・観察はどれくらいの頻度で行っているのですか。

中島先生 分野にもよりますが、少なくとも2週に1回は必ず行っています。

熊澤先生 化学は実験が多く、中1の気体の単元では毎週のように気体の集め方の実験をしています。その場合、授業は実験と解説や考察を交互に行っています。

中島先生 生物は、中1の植物、中2の動物の単元では、ほぼ毎週校内の築山に足を運んで自然観察しています。
正門をくぐりアプローチを歩いて行くと左右に築山が広がります。多くの草木が生い茂り、春夏秋冬の花が楽しめます。池では鯉が悠然と泳ぎ、小川にはメダカなどさまざまな生物が生息、飛来する鳥のさえずりが聞こえます。タヌキが出没することも。都心にありながら自然豊かな築山は、私たちの心の拠り所であり、本物に触れることができる生きた教材でもあります。

皆既月食にワクワクした生徒たち

中島先生 私は授業の冒頭、雑談を5分程度してから授業を始めています。みんなで話題をシェアすることも雑談のねらいの1つです。
月食直後、中1の授業で月食の雑談をしたところ、地震の授業のはずが、ほとんど月食と地球の話に置き換わりました。
「なぜ月食の影が弧を描いているのか」という話から、「地球が丸いことは君たちでも証明できるけれど、どんな方法があるか」と問いかけました。さらに、「月が赤く見えるのはなぜか」光の話につなげました。次々に話題を広げて生徒の考えを引き出していきました。このように対話形式で授業を進めることもあります。中学生は特に対話に積極的に参加してくれます。

あるクラスでは月食を9割が「見た」と答えたように、身の回りの現象に興味がある生徒が多いように思います。

香蘭女学校中等科 図書室

香蘭女学校中等科 図書室

誰かの失敗をみんなで共有して失敗に向き合う

実験で失敗したときの生徒さんの様子はいかがですか。

熊澤先生 「やっちゃった」という顔をしていますね。指示を守らずに失敗したケースは、「間違えてこうすると、このように失敗するよ」とみんなで共有するようにしています。失敗にきちんと向き合うことで、プロセスを大切にするようになります。

中島先生 失敗の原因がわかれば、成功するにはどうすればいいか、次に生かすことができます。そこが理科のおもしろさだと思います。

熊澤先生 中1の始めはガスバーナーの使い方を覚えます。ガスバーナーを分解して、ガスの通り道を目で見て確認することで、ガスの調節ねじが下にあることに合点がいきます。わかっているようでわかっていないことがあるので、中1の始めに経験させるようにしています。

ガラス器具を割ってしまったら、なぜ割ってしまったかを考えさせます。「不注意だった」ではまた割ってしまいかねないので、失敗の原因にきちんと向き合います。

失敗の経験を知識につなげれば印象に残る

中島先生 鳥の骨について説明していたとき、柔らかくしていない鳥の骨を犬に与えるのは危ないという話になりました。そこで、小学生のときにガラス棒や試験管を割ったことがあるか聞いたところ、多くの生徒が割ったことがありました。
さらに、「割れた断面がどうなっていたか覚えてる?」と聞きました。ガラス棒は折れたように割れますが、試験管の断面はギザギザしています。それは鳥の骨にも当てはまります。
鳥の骨は中が空洞のためギザギザとがった形で割れやすく、それを飲み込めば消化管を傷つけるおそれがあります。
失敗の経験は覚えているので、このように失敗を他の話題とつなげると、生徒は楽しそうに聞いてくれます。

本物に触れる機会を数多く提供

中島先生 本校では、文化、芸術、自然などの本物にできるだけ触れさせようと、あらゆる機会を設けています。
理科では原体験に近いことを経験できるように、秋は高尾山へのハイキング、春は磯の生物・地層の観察会、夏休みの自然教室など校外へ出かけています。校外学習は残念ながらコロナ禍では実施できていませんが、そろそろ再開することを考えています。
実験室には岩石を展示して、見て触って比べられるようにしています。写真ではよく分からない凹凸の具合などが手に取ることで実感できます。

貴校は文系に進学される生徒さんが多いだけに、中高で理科の実物に触れる体験はとても貴重ですね。

中島先生 ある学年で看護師志望が多かったのは、中3のときの高大連携をしている聖路加国際大学での実習や看護学部長の先生のご講演に触発されたようです。進路選択はイベントによるところも大きいので、授業以外でもいろいろな機会を設けたいと思っています。

香蘭女学校中等科 校内

香蘭女学校中等科 校内

「隣人を大切に」キリスト教が考え方の土台

中島先生 本校ではキリスト教の教えが考え方の土台になっています。例えば、隣人を大切にすることをとても重視しています。学ぶことは自分を大切にすることであり、自分が幸せになるためだけでなく周りの人を幸せにすることにもつながります。理科の学びも、周りの人を幸せにすることに生かしてくれたらと思います。

貴校が入試で環境問題をよく出題しているのは、学んだことを周りの人の幸せにつなげてもらいたいという思いの表れではないでしょうか。

熊澤先生 そうですね、また、生徒一人ひとりが自分に与えられた「賜物」を見つけて、磨き上げて成長してほしいと思っています。

インタビュー3/3

香蘭女学校中等科
166_香蘭女学校中等科香蘭女学校は、英国聖公会のE・ビカステス主教による聖ヒルダ・ミッションの信仰の証しとして、「女子の教育」のために建てられたミッションスクール。1888(明治21)年に創立して以来130有余年に渡り、本校はキリスト教の信仰に基づく全人的な関わりをもって女子を育てるという伝統を守り続けてきた。香蘭女学校の欧名St. Hilda’s Schoolは、守護聖人 聖ヒルダの名に因んでつけられた。ヒルダ祭、ヒルダ賞、聖ヒルダ記念館など、学校の大切な行事や建物の名称には守護聖人 聖ヒルダの名を冠している。
校門を入ると、アプローチの左右を囲むように築山があり、そこには多くの草木が生い茂り、季節を問わず1年を通して色とりどりの花々が咲き誇る。校舎は落ち着いた雰囲気で、レンガの校舎が木々の緑と見事に調和している。テニスコートのほか、陸上競技用のトラックとしても整備され、体育の授業や運動部の活動のみならず、朝や昼休みには生徒たちが元気に走り回っている。すべてのホームルーム教室には電子黒板が設置されており、効果的に使用されている。また、中等科1年生からiPadをBYOD(Bring Your Own Device)方式で1人1台持ち、授業やホームルーム活動などの他、自宅学習でも使用。ほとんどの教科でiPadが活用されている。
英語教育では、ネイティブの先生との授業、洋書多読、オンラインスピーキングなど、多様なアプローチにより抵抗なく話せるよう自信をつける。希望者が参加する英国やカナダ・プリンスエドワード島での研修では、語学と同時に環境問題・多民族社会・キャリアについて学ぶ機会を持つことで国際社会を生きる女性としての意識を高める。また、国内および校内での国際交流・異文化理解プログラムを始めており、2021年度はオンラインを活用し、中学生はオーストラリアとニュージーランドの学校との交流、高校生はアイルランドの語学学校や在日大使館と繋ぎ「女性のキャリア教育」について英語で学んだ。
SEED = Self-Enrichment EDucationは、2004年から実施のSE(Self-Enrichment)授業の主旨を引き継ぎつつ、内容を更に深化させたプログラムだ。SEEDには「種」という意味があり、香蘭女学校ならではの有形・無形の産物を活かした様々な取り組み(種まき)を通して学んだことが実を結び、一人ひとりが賜物を発見し、卒業後に「香蘭での6年間が自分の礎を形成した」と実感できるように、という願いも込められている。
22の文化部、8の運動部に加え、クワイヤー(聖歌隊)、園芸係があり、それぞれの興味関心にあわせて幅広い活動の中から選ぶことができる。他校ではあまり見かけないスケート部もある。部活動は任意だが、ほとんどの生徒が部活に所属し、活動を楽しみにしている。同じ目標のもと中高一緒に活動をし、自然とリーダーシップや協働する力が培われる。なお、香蘭女学校が日本の「ガールスカウト」発祥の地であり、伝統を受け継ぐガールスカウト部は東京第一団としてとして活動している。