シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

香蘭女学校中等科

2022年12月掲載

香蘭女学校中等科【理科】

2022年 香蘭女学校中等科入試問題より

次の問いに答えなさい。

ガソリン車は、現在世界的に広く利用されています。最近では2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、ガソリン車の他にもハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車なども普及(ふきゅう)し始めています。このうち、燃料電池車に搭載(とうさい)されている「燃料電池」は、水素と空気中の酸素から水ができる化学反応を利用して電気エネルギーを取り出す装置です。

下の図はガソリン車と燃料電池車の製造から廃棄(はいき)までの二酸化炭素の排出(はいしゅつ)総量を表しています。図の縦軸は「自動車が10万kmを走行したときに排出する二酸化炭素の量[トン]」です。次の(問1)・(問2)に答えなさい。

問題図 ガソリン車と燃料電池車の製造から廃棄までの二酸化炭素の排出総量

(問1)ガソリン車と燃料電池車が同じ距離だけ走行したとき、燃料電池車の方が環境に対する負荷が小さい理由を説明しなさい。

(問2)すべてのガソリン車を燃料電池車に置き換(か)えても、二酸化炭素の排出総量が0(ゼロ)になるわけではありません。その理由を答えなさい。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この香蘭女学校中等科の理科の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答

(問1)燃料電池車は走行中に地球温暖化の原因となる二酸化炭素を排出しないから。

(問2)燃料電池車も燃料製造や車両・部品製造などの際に二酸化炭素を排出するから。

解説

(問1)
図から、ガソリン車と燃料電池車が排出する二酸化炭素の量を比べると、ガソリン車は走行するときに大量の二酸化炭素を排出するのに対して、燃料電池車は走行するときに二酸化炭素を排出しないことがわかります。したがって、走行する場面では、燃料電池車の方がガソリン車よりも環境に対する負荷が小さいと考えられます。

(問2)
図から、走行するときに二酸化炭素を排出しない燃料電池車であっても、素材製造、車両・部品製造、燃料製造、メンテナンス、廃棄などの際に、二酸化炭素が排出されることがわかります。したがって、すべてのガソリン車を燃料電池車に置き換えても、二酸化炭素の排出量が0(ゼロ)にならないといえます。

日能研がこの問題を選んだ理由

身の回りにあるさまざまな現象に目を向けると、そこにはたくさんの学びが詰まっています。身の回りにある「ガソリン自動車」と近年普及し始めている「燃料電池車」のちがいに着目することを通じて、わたしたちの身の回りだけでなく、地球規模で起きている地球温暖化という環境問題まで、視野の広がりが感じられることに、大きな魅力を感じます。子どもたちは、この問題に取り組むことを通じて、身の回りで起こっているさまざまな現象をきっかけに視野を広げ、自らの手で調べたり、考えたりしながら育っていくことでしょう。

ポスターではすでに明かされている水素と酸素についても、実際の入試問題では気体X、気体Yとして出題の対象となっていました。気体Xについての問いは、以下の通りです。
「気体Xは、人類が250年ほど前に発見したものです。燃えやすく空気より軽い特徴があり、20世紀前半では気球や飛行船などに用いられていました。この気体Xの製法と捕集方法をそれぞれ選び、記号で答えなさい。」
問題を解きながら、人類がどのように気体Xを利用してきたのかという背景を垣間見ることができます。

また、(問2)では、一般的にガソリン車よりも「環境に優しい」といわれている燃料電池車であっても、走行以外の場面に目を向けると、二酸化炭素の排出量が0(ゼロ)ではないことが実感できる問題の設定になっています。車が走行するという「一部分」だけに目を向けるのではなく、車の製造から廃棄までの「全体」に視野を広げて見ることの大切さが感じられます。このような視点で燃料電池車を見た場合、走行以外の場面では、まだまだ二酸化炭素の排出を減らすことのできる工夫が、考えられるかもしれません。幅広い視野で、物事を論理的に考えることを通じて、子どもたちに新たな気づきや疑問を創り出していくことが感じられる問いかけであり、私学の学びの豊かさを魅力的に伝える問題だと感じました。

このような理由から、日能研ではこの問題を『シカクいアタマをマルくする。』シリーズに選ぶことにしました。