シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

神奈川大学附属中学校

2022年12月掲載

神奈川大学附属中学校の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.社会へ意識を向けて、きちんと考え自分の意見をもとう

インタビュー1/3

自分なりの意見を持ってほしかった

まずはこの問題の出題意図からお話いただけますか。

中川先生 コロナの前からなんとなく「みんなと同じ」と言うか、「空気を読む」と言うか。こうしておけばいいのかな、というような風潮を感じ、そこに問題意識をもっていました。生徒には、本当にそれでいいのかなと疑って、よく考えて、自分なりの考え方や意見を持ってほしいという思いがありました。そしてたまたまこの文章と出会い、テーマが合致していたので、文頭にある「誰もが同じ方向へ頭を向ける」という部分に棒線を引っ張って問題を作りました。「あなた自身が」に意味があると思っています。そこを問わないとこの文章を生かせないと思いました。

受験生の解答を見て感じたことを教えてください。

中川先生 「コロナ」「ワクチン」「マスク」などの言葉が目立ちました。受験生はコロナ関連のニュースを見ていて、同調圧力的なものに敏感になっているのかもしれません。

国語科/中川 甲斐先生

国語科/中川 甲斐先生

学級会での経験や実感を生かした解答も

印象に残った解答はありますか。

中川先生 学級会で感じたことを書いている受験生もたくさんいました。
「空気を読まないと辛いので、あえて友だちの意見に同調してしまう」などという解答には、12歳もなかなか大変なんだなと思いました。「友だちの意見に合わせてしまうのではなく、私が言いたいことも言ってみよう」というような解答もありました。確かに、話し合う場(学級会)を設けるものの、あらかじめ先生が答えをもっていて、その答えになるように生徒の意見を誘導する、ということもあり得ます。「本当は『そうではない』と言いたいけれど、その場の空気を壊すのは難しい。私がもしその立場だったらと考え、100%共感はしないけれどそういう言い方もわからなくはない、というように自分の気持ちを整理させるのだ」と書いている受験生がいて、この子はすごいなと思いました。

自分の感情では動かないで、誘導したい人の立場に立ち、なぜ、その人はそういうことをするのだろうか、と気持ちを推し量ることができるってすごくないですか。感心しました。入試で突然問われてこの答えを書いたのだとしたら、たいしたものだなと思います。

きちんと考えて書くことが大切

中川先生 一方、素材文の文章を利用した解答もある程度ありました。ただ、この問題は、社会へ意識を向けている子が入学してくれたらいいなという思いで出題しています。筆者はこう言っているけれど自分はこう思うという意思表明をしてほしかったです。

採点について教えてください。

中川先生 入試の場であれば本気で考えますよね。合否がかかっていればなおさらです。そこに期待しているので、きちんと考えて意思表明をしてくれれば0点はないと思っています。また、こうした問題は、入学後のいろいろな場面で「こんな問題があったよね」とみんなで共有できる素材になるので、そこにも出題する価値を感じています。
評価のポイントは問題の趣旨を汲み取っているかどうかです。例えば問1なら、論旨に合う事例を挙げているかどうかを見て段階的に評価しました。もちろん漢字を間違えている、一文がすごく長いなど、表現上の問題は減点しました。

神奈川大学附属中学校 校舎

神奈川大学附属中学校 校舎

自分が見てきたもののレベルで考えてみよう

中川先生 大問2(作文の問題)ではTwitter(ツイッター)の問題を出しました。アメリカの作家、スティーブン・キングの2020年4月4日のツイートを通して、「あなたが考えたことを3つの点(考え方)に触れながら200字以内で書きなさい」という問題です。受験生にとってツイッターは身近です。しかもスティーブン・キングなので、取り組みやすいのではないかと思いました。スティーブン・キングを知らない受験生でも解けるか、という点についても作問の段階で十分に議論して出題しました。

受験生は解答を書けていましたか。

中川先生 一生懸命考えて書いていました。自分の経験をベースに考えて解答を書ける子が一定数いました。このツイートは、受験生が小5の時のものです。メディアが取り上げていたので感じるものがあったのではないかと思います。
このツイートは、中学校に入ったら勉強もするけれど、ピアノや野球など自分がやりたいことを存分にやるんだという、受験生の気持ちを後押しするような内容です。「人生の彩りはいろいろなところにあるのだから…」という意味合いの解答がたくさんあって、それにはすごく共感しました。

まんべんなくいろいろな分野に触れよう

中川先生 近年、文学部などいらないのでは?という動きがあります。「実利主義」と言うか、「それを学んで何になるの?」ということを、大きな声で言うことに対して疑問をもっていました。確かにコロナ禍の大変な時期に文学や音楽ではご飯を食べることは難しくなっています。経済効果は低いですが、「そこではないところで価値を見い出せるよ」という受験生がいれば、話が合うかなと思いました。

本校の生徒は大学進学を目指していますが、そのために朝から晩まで勉強していればいいかと言うとそうではありません。部活動や生徒会活動、あるいは学外のいろいろなイベントに顔を出します。自分がやりたいなと思うことを取捨選択し、試行錯誤して、「これが私の人生だ」と言える道を歩んでほしいと思っています。中高時代にまんべんなくいろいろな分野に触れて、おもしろいものに出会ってほしいのです。

神奈川大学附属中学校 制服

神奈川大学附属中学校 制服

のびのびと考える機会をもとう

2023年入試より作文形式(200字程度)の問題が変わりますね。

中川先生 同じような形式の問題を今後も出題し続けたら、パターンで解答する子が増えるだろうなという懸念がありました。
そこで教科として検討し、一度、その形式はやめようという考えに至りました。今回の問題は、その前段階という意味合いもあります。受験生の12年間の生活の中で、あるいは中・高学年の生活の中で経験したことを思い出して書くことを求めました。
ここ数年は特に、かつてないような我慢を強いられる日常だったと思いますから、自分の思いを書く場が用意されていれば、おそらく感じ取ったことを素直に書いてくれた受験生が大半だったのではないかと思います。

また、過去問を解いた時に、本校を希望していない受験生に対しても、こういう問題に触れてもらえれば少しはその子の学びに貢献できるのではないかと考えています。本校を受けてもらえれば一番いいのですが、そうではなかったとしても、考える経験をたくさんして成長してくれればいいなと個人的には思っています。

2023年入試ではイメージを伝えたい

2023年の入試についてはどのように考えていますか。

中川先生 これまでに出した問題よりも少し難しいかもしれません。2023年以降は受験生が解いている様子や得点状況などを見て調整したいと思っています。我々も試験監督をしますので、受験生の反応を見ることができます。問題を見てギョッとしていれば、見立てが甘かったということになると思います。簡単そうであればもう少し手を加えるかもしれません。

岩佐先生 説明会でも反応は半々です。作文がなくなると聞いて「やったー」という子もいれば「えっ、残念」という子もいます。

中川先生 「残念」という子には「入学したら飽きるほどやるから、入試は付き合ってね」という話をさせてもらっています。

神奈川大学附属中学校 図書室

神奈川大学附属中学校 図書室

インタビュー1/3

神奈川大学附属中学校
神奈川大学附属中学校「質実剛健」「積極進取」「中正堅実」を建学の精神に掲げ、真面目で、サバイバル能力があり、何事も進んで行う人間性豊かで有能な人物の育成に努める。「足を大地に手を大空に」という学校のモットーは平成10年に生徒会の提案で決められた。多様な教科をバランスよく学ぶ「生涯学習」の立場、すべて男女共修の「ジェンダーフリー」の立場をとりながら、国際化と情報化への対応や個性本位の進路指導を教育理念の柱とする。
「教科学習」「進路指導」「生活指導」「校外学習」等のすべては、2年ごとにきざむ3段階でゆとりを持って積み上げられており、保健体育科・音楽科・美術科・技術家庭科の充実度は大きな特色の一つとなっている。体育も家庭科も男女混合で行われており、体格差、得意不得意の差があるからこそ助け合いの大切さを学べるという考えのもと、社会性が養われている。部活動も盛んであり、広大な敷地と、その中にある多様な施設を使って、10の運動部と8つの学芸部が活動している。顧問の他にコーチ制度も設けられ、専門的な技術指導が受けられる体制も整っている。
神奈川大学への推薦入試制度はⅠ期とⅡ期の二度あり、Ⅱ期では、ある程度の私大入試が終わってからの出願になる。一人ひとりの可能性を見逃さないきめ細やかな指導による6年間で、大学合格実績や現役での合格率も、年々向上している。学校にある「くすのき」はシンボル的存在であり、合格祈願のために「くすのき」の前で手を合わせる受験生も多い。