シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

神奈川大学附属中学校

2022年12月掲載

神奈川大学附属中学校【国語】

2022年 神奈川大学附属中学校入試問題より

次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。

われわれはとても弱い存在である。社会の動き、もっと言えばマスコミやメディアの言説に動かされやすい。特に社会の情勢に関しては、よほど自分で調べない限り、メディアから流される情報に依拠(いきょ)するよりほかに判断の手段を持たないことが多い。いきおい誰(だれ)もが同じ方向へ顔を向けることになりやすい。

誰かが強いメッセージを発すると、途端(とたん)にそちらに靡(なび)いてしまうのが大衆というものである。じっくり考えてみれば、そんな傾向(けいこう)は紛(まぎ)れもなく自身のうちにもあることに思い当たるだろう。

特に、新聞やテレビ、評論家やコメンテーターなどがそれらしいことを言うと、自分で考えることなくそれに流されてしまうことが多い。自分のよく知らない分野の出来事についてはとくにその傾向が強い。どっちみち自分なんかが考えても、あんな権威(けんい)のあるマスコミや、あんな偉(えら)そうな先生にかなうはずがないと思ってしまう。だから考えてみようともせずに、それらの意見を受(う)け容(い)れようとする。そんな傾(かたむ)きは、きっとあなたのどこかにあるはずだし、私自身のなかにもある。

みんなが正しいと言いはじめたら、一回はそれを疑ってみること。一度だけでいいから左を見てみること。たいていは自分の考えや判断が間違(まちが)っていることのほうが多い。それでいいのである。とりあえず習慣として、一度はみんなが向(むこ)うとしている方向とは反対を見てみる、それが習慣、習性となるまで、意識しておきたい。
(略)

(永田和宏『知の体力』新潮新書 二〇一八年 による)

(問)ーー線「誰(だれ)もが同じ方向へ顔を向ける」について、次の2点について答えなさい。

  • ①このような事例として挙げることができることは何ですか。
  • ②そういった事態に、筆者の言う「一度はみんなが向こうとしている方向とは反対を見てみる」ためにあなた自身が心がけねばならないと考えることを一文で答えなさい。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この神奈川大学附属中学校の国語の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答例

例1  ①多くの人が認めているからとグルメサイトの評価を信じること。
②自分が見つけた情報の出所を探したり、自分の目で事実を確かめたり、冷静に考えたりすること。

例2  ①SNSで流されたニュースが拡散され、広く信じられること。
②報道される映像や情報に惑わされることなく、主体的に情報を集め、それに基づいて合理的な判断をするようにすること。

解説

まず、傍線「誰もが同じ方向へ顔を向ける」とは、どういうことをたとえているのかを明確にする必要があります。傍線の前後に目を向けると、「誰もが同じ方向へ顔を向ける」とは、「メディアなどが強い言説を発信すると、多くの人が(誰もが)その通りだと従う(同じ方向へ顔を向ける)」ことだと分かります。①では、あなたが身の回りの出来事に目を向けたり、新聞やテレビのニュースなどで得た知識を思い出したりして、このようなケースの事例を具体的に挙げることが求められています。②では、まず、「一度はみんなが向こうとしている方向とは反対を見てみる」とはどういうことかを明らかにします。「みんなが向こうとしている方向」は、①でとらえました。それとは「反対を見てみる」ということは、メディアなどによって発信される言説を疑ってみる、鵜吞みにしない、ということです。この問いでは、①で答えた事案について、言説を鵜吞みにしないために、「あなた自身が」心がけねばならない(忘れず注意しなければならない)と考えることは何かと問われているのです。また、「一文で答えなさい」とあるので、解答例にあるように、「~冷静に考える」「~合理的に判断する」といった中心的な内容を定めたうえで、①で答えた事案と関連付けた「どのように」の部分を肉付けしていくと、答えを簡潔にまとめることが出来るでしょう。

日能研がこの問題を選んだ理由

問題の文章にもある通り、私たちはマスコミやメディアが発信する言説(情報)の波の前にあって、大変弱い存在です。そして、程度の差こそあれ、いつの時代でも人は風説に騙され、多数派に口を塞がれ、先入観に屈してきました。しかし、そういう中にあっても問題解決を人任せにしたり逃げ隠れしたりせず、自ら考え、行動し、困難に立ち向かう人たちがいたこともまた事実です。この問いは、我々が晒されている危険が決して一過性の特殊なものではないことを、そして、「反対を見る」ことの大切さは人類普遍であり、受験生にとっては近い未来に待ち受ける中学校生活の中できっと直面するに違いない現実であることを示唆しています。

一見、要旨関連の記述問題のようでありますが、設問②には、「あなた自身が」とあり、さらに波線が引かれています。この問いをテストの問題で済ませてはいけない。ほかならぬ自分に対する「問い」として受け止めてほしい。どんなに厳しい状況下であっても自ら考える人であり続けてほしい。そういう神奈川大学附属中学校の先生の、受験生に対する願いと愛情が織り込まれた問題であると受け止めました。

このような理由から、日能研ではこの問題を『シカクいアタマをマルくする。』シリーズに選ぶことにしました。