出題校にインタビュー!
清泉女学院中学校
2022年11月掲載
清泉女学院中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
3.Aの立場だけでなく、Bの立場にも立って考えるということを意識しよう
インタビュー3/3
知識を習得するとともに思考力、表現力を磨こう
入試問題を通してどのような力を見たいと思っていますか。
山内先生 入学後に「発表」や「議論」を行います。言葉を知らずに表現はできませんから、基本的な知識を身につけることは大切です。また、身近なことに目を向けて、自分はどうとらえるのか、それはなぜか、ということを考えて、人に正しく伝えることができる思考力や表現力も持っていてほしいという気持ちがあります。
北宮先生 地理にはもう一人教員がいます。いつも2人で共有しているのは、生徒の読み取る力、比べる力、表現する力を伸ばそうということです。中1では地理を、中2で歴史、中3で公民を学ぶので、地理ではこの3つの力をつけることにより地歴公民を学ぶベースを作りたいと思っています。それは社会だけでなく、他の教科にも通じるのではないかと思います。資料を読んで書くというのが清泉の入試の特徴ですが、その「読む」と「書く」の間に「自分の頭の中で情報を比較する」ということが求められます。また、「比較する」の中にもAの立場、Bの立場がありますので、そういうところにも意識をもって考えてほしいと思っています。
今年の地理でも「アイガモ農法がなぜ食の安全につながるのか、説明しなさい」という問題を出しました。写真が1つしか出ていませんし、聞かれていることも1つですが、普通の農法(アイガモを入れない水田)とアイガモ農法(アイガモを入れた水田)を頭の中で比べてほしいのです。ベースになる知識はもちろん必要ですが、それができれば自ずと解答が導けると思います。
山内先生 批判する力も問うていきたいという思いがあります。今年の地理の「諸外国の国会議員における女性の割合の推移」から日本を示すグラフを答える問題も、日本の現状に対する批判的な視点の1つではないかと思います。
社会科主任/山内 雄矢先生
健全な批判力をつけてほしい、それが社会科の願い
北宮先生 清泉には大切にしている4つの教育の柱(プログラム)があります。その1つが先ほど山内が話していた「ライフオリエンテーションプログラム」です。4本柱なのでどれも大切ですが、この「ライフオリエンテーションプログラム」が清泉でのすべての学びにおいて根底にあるものです。その前提となるのはカトリックの学校らしい「自己受容」「他者受容」です。自分・相手・世界全体という3つの視点で物事を見ることを目的としています。
キリスト教の考え方では、自分を大事にしないと相手を大事にできません。また、「タレント」(自分が持っている力)はすでに神様からもらっているので、まず、自分の中にあるタレントを見つけて、それをどうすれば最も良い形で社会に活かしていけるかを探していく。それが「ライフオリエンテーションプログラム」のテーマになっています。
そのプログラムでは、バックボーンが異なる相手をいかに受容しつつ、自分の意見も正しく伝えられるか、ということが重要になります。それをカトリックの学校では「意見の共有」と言わずに「分かち合い」と言います。教科の授業ではあまり使いませんが、職員間ではよく耳にします。「ライフオリエンテーションプログラム」でも必ず「分かち合い」をします。
「話し合い」と「分かち合い」の違いは、自分との違いを認めてどんなに「あれっ?」と思ってもまずは受け止めてみること。それが一番のルールとして教職員にも生徒にも根付いています。だからか、それがお叱りであっても相手の話をさえぎらずに最後まできちんと聞く人が多いです。「否定」と「批判」は違います。健全な批判力を身につけた生徒というのが社会科の育てたい人物像です。
清泉女学院中学校 図書館
公民では批判する精神が十分に発揮されている
野村先生 生徒は全般的に穏やかですよね。社会では皆が最後まで話を聞いて受け止めてくれるわけではないので、最初のうちは苦労するかもしれないけれど…。でも素地としては望ましい状態だと思います。
山内先生 社会科は社会で実際に起きている問題の是非をさまざまな視点に立って扱える教科なので、批判する力を養う授業にやりがいを感じています。
批判をすることに難しさを感じる生徒さんもいると思うのですが、その点はいかがですか。
野村先生 授業では比較的問題なく批判する精神は発揮されていると思います。むしろクラス内で何かを決める時のほうが、遠慮したり、後々の人間関係にとらわれたりするようです。本校の場合は中1、中2の頃から自分で考え、人に伝える素地が備わるので抵抗感はないと思いますし、授業中に意見が割れても、休み時間になればなんでもなかった状態に戻れます。ですからあまり心配はしていません。
もちろんはじめは「批判的な観点をもてない」という生徒もいます。しかし、クラスの中に数人、高校生でこんなものの見方ができるんだ、と驚かされるような子がいます。そういう生徒が刺激を与えてくれるので、批判的なものの見方が苦手な生徒も少しずつ変わっていきます。4月の時点でうまくできなくても、年が明けて2月、3月あたりになると、当初よりも深い議論ができるようになります。
何事にも興味をもってほしい
最後に、小学生に向けてメッセージをお願いします。
野村先生 受験勉強以外にも知的な刺激があると、結果的に受験勉強に強くなると思います。
山内先生 他者との対話や、人間関係を大切にしてほしいです。また、何事にも興味をもってほしいですね。「得意ではないから」と切り捨てるのではなく、「何か自分なりに得られるものがあるかもしれない」という前向きな気持ちで取り組んでほしいです。
北宮先生 そうですね。「得意じゃないから」「自分には関係ないから」と、思わないでほしいです。それは社会科を超えて考えると「無関心」ということになります。ですから、自分事としてほしい、せめて無関心でいないでほしい、と思います。
また、大人に「あっちへ行ってみる?」と言われて動くのではなくて、自分が見てみたいから「行って来てもいい?」と言えるようになってほしいと思っています。本校では英検や世界遺産検定などを受けるのも任意で、強制的に受けさせません。それは自分で選んでほしいからです。選んだら、全力で背中を押す、そういう学校なのです。私たち教員が受験生に望むことは、そういう前向きに考え自分で選択する勇気をもっていることです。
清泉女学院中学校 聖堂
インタビュー3/3
1877(明治10)年に創立の聖心侍女修道会(本部はローマ、世界20か国に約50の姉妹校)により、1938年、前身の清泉寮学院創立。47年に横須賀に中学、翌年高校を設立。63年に現在地に移転し、2023(令和5)年に創立75周年を迎える。進学率のよさから「鎌倉一の女学校」の座を堅持している。