シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

浅野中学校

2022年11月掲載

浅野中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.ものごとの構造を理解しポイントを見極めることは何においても重要

インタビュー3/3

浅野中高の数学として、これから生徒達にどんな風に育ってもらいたい、どんな力をつけてもらいたい、というのはありますか?

山崎先生 数学科としてというと、先ほど申し上げたように構造を理解してポイントを見極めるということが何においても大切だと思います。「論理的な思考力を養う」ことが数学には求められていますが、個人的にはプログラミングも同じだと思います。今は情報が増えてきて、論理的な思考力を養うだけならむしろプログラミングを学んだほうがよいでしょう。コンピューターを走らせた方が合っているかどうかは自分で分かるので、論理的思考力は養われるのではないかと感じます。

数学の役割の中で、コンピューターで、できる部分というのは、現在だと「取って代わられる部分なのかな」と思ってはいるのですけれど、その根底にあるものは、やはり数学そのものであり、コンピューターは所詮道具に過ぎない部分もあります。「本質を見極めて」というところでは、数学は生きるうえで必要なものだと思います。

ただし、そうは言っても、そこまで難しいことを中学高校ではできないので、そうなるとある程度は「基本的なことをコツコツやって」ということになってしまうと思うのですけど。

浅野中学校 図書館

浅野中学校 図書館

算数・数学の知識は社会に出ても必要なもの

定番な話題になりますけれど「数学なんて社会に出たら何の役に立つんだ?」みたいなことを言ってくる子もいると思いますが。

山崎先生 数学って目に見えないところでたくさん役に立っていることもありますし、数学によって知らないうちに論理的な思考力を身に付けていることもあります。また人から騙されないようにするのに、数学の力は必要となることはあります。

徳山先生 数学も含めたサイエンスの責任として、論理的に物事を見極めて「非科学的なことに惑わされないようにしていくこと」があると思います。逆に「こういう風にすると、こんな見え方になってしまうよ」という事も含め、中学高校の間に学びとって欲しいことは結構たくさんあるのではないか、という気がします。

山崎先生 最近は統計が流行ってきたために、道具としての数学となっている部分もあります。統計を学ぶことはもちろん大切ですけれど、本質的なものではないので、数学の根っこの部分からしっかり学んでいかないといけないね、とは思っています。

中高の6年というのは、いろんな事が学べて教養が身に付く期間なんだな、って改めて思います。

浅野中学校 授業風景(図書館1階)

浅野中学校 授業風景(図書館1階)

あきらめずに試してみること

最後に、浅野中学校を目指す受験生に向けてメッセージをお願いできますでしょうか。

徳山先生 学校の校訓に「九転十起」というものがあります。創立者が「いろいろな事業を立ち上げて諦めずにチャレンジし続けた」というところから「諦めずにまずは試してみよう」ということを掲げています。ただし、実際に学校行事や自分の人生において物事を成すためには、準備や段取りが必要であったり、自分の力だけではなく、周りの仲間の理解を得たりする作業も必要となります。そのため、自分のことやものごとを俯瞰的に見る力が大事になるのではないかと思います。

その原点になるのが、先ほどの算数の出題もそうですが、「なぜなのか?」を考えることであったり「自分の考えを人に伝える力」といったものがとても大切なのではないかと思っています。ですから、そういった努力を重ねた上で諦めずにチャレンジをしてみる、その先に「人の役に立つような、社会の役に立つような活躍をする人になってほしい」というのが学校の意図しているところです。

子どもが何かに興味を持った際、親は面倒と思わないこと

先生が考える算数が出来る子とできない子の違いって、どんなところにあると思いますか?

山崎先生 人それぞれ、何かしらの琴線ってあると思います。まず算数が嫌いだときついですよね。では、どうやったら好きになれるのか?っていうと、小さい頃からの蓄積というのがまず一つあると思います。私は幼稚園の頃から時刻表が大好きで、数字って結構昔から好きだったんです。やはり何か興味があるものがあるかどうか。数字って結構何にでもついてまわるものなので、数字に少し興味を持ち始めた時に、親がどう手助けするかによって、方向性が多少変わるような気がしますね。

たとえば、電車が好きっていう子にたくさんイラストを見せて、絵を描かせれば、その方向に進むかもしれないし、数字に目が向くっていうケースもあるでしょう。当然親がそういうものに興味がないと子どもも興味が持てません。でも、親が写真に興味を持っていれば一緒に写真を撮りに行こうってなりますし、持って行き方は意図して何かをするわけではないにしても、興味をうまく引き出してあげる。何かに興味を持った時、親が面倒くさがらずに手伝ってあげることは大きいと思います。

意識的に選べば、学校の勉強以外にも「学びの場」「学習のきっかけ」はたくさんあると思うんですね。そういうところに連れていってあげたりとか、実際に見せてあげたりとか、そういうことだけでも子どもの学習への取り組み方は変わってくると思います。ただ、ずっと家の中で「勉強しなさい」というだけでは、もちろん、楽しくないでしょうから、博物館や科学館に行くだけでも、ずいぶん違うでしょう。

浅野中学校 ハンドボールコート

浅野中学校 ハンドボールコート

本来、数学とは日常生活をシンプルに簡単にしてくれるもの

普段生活する中で算数の力を鍛える、身に付けていくには、どういうものに触れたら良いと思われますか?

山崎先生 問題の構造を理解する、簡潔にものごとを考えられるようにモデリングする、というのはすごく大切だと思っています。授業を行っていると「結局こういうことだよね、この問題」って簡単に言ってしまう生徒って、いますよね。こんな複雑に書いてあるけど結局こういうことですよね、といった具合にです。そこを意識するということが大事になります。意識して問題を読んだ時に、どこがポイントであるかを判別していくわけです。そういうところで、文章構造を理解するという、当然文章だけでなく普段の生活においても、ということですけどね。

徳山先生 日常生活の中で勉強として見ると、我々の頭を悩ませる数学ではありますが、本来は「我々の生活をシンプルにかつ簡単に考える為に利用される道具」であって、その数学のおかげで我々が楽に過ごせているっていうのが本来の性質なんですね。高校生ぐらいになると、学ぶ数学もそれなりに難しくなり、日常生活の先を行ってしまうところもありますが、その気持ちを忘れないことは大切です。ページ番号一つとっても数学の力で整理されてるわけですし、我々の生活の中に隠れている数学というものに興味を向けてもらうことを、数学に限らずサイエンス全体の視点からも期待したいですね。

インタビュー3/3

浅野中学校
浅野中学校1920(大正9)年、事業家・浅野總一郎によって創立。当初はアメリカのゲイリー・システムという勤労主義を導入し、学内に設けられた工場による科学技術教育と実用的な語学教育を特色とした。戦後間もなく中高一貫体制を確立し、1997(平成9)年に高校からの募集を停止。難関大学合格者が多い進学校として知られているだけでなく、「人間教育のしっかりした男子校」としても高い評価を受けている。「九転十起・愛と和」を校訓とし、自主独立の精神、義務と責任の自覚、高い品位と豊かな情操を具えた、心身ともに健康で、創造的な能力をもつ逞しい人間の育成に努めることを教育方針とする。校章は、浅野の頭文字で「一番・優秀」の象徴である「A」と「勝利の冠」である「月桂樹」から形作られており「若者の前途を祝福する」意味が込められている。
横浜港を見下ろす高台にある約6万平方メートルの広大な敷地の約半分を「銅像山」と呼ばれる自然林が占めている。Wi-Fi環境が整い、中学入学後に購入するChromebookで授業や行事、部活動を展開している。2014(平成26)年には新図書館(清話書林)、新体育館(打越アリーナ)が完成、2016(平成28)年にはグラウンドを全面人工芝とし、施設面が充実している。
中高6年間一貫カリキュラムを通して、大学受験に対応する学力を養成することが目標。授業を基本とした指導が徹底している。中学の英語では週6時間の授業に加えて、毎週ネイティブスピーカーによるオーラルコミュニケーションの授業もある。数学では独自の教材やプリントが使われていて、中身の濃い授業が展開されている。高校2年から文系・理系のクラスに、高校3年では志望校別のクラスに分けてそれぞれの目標に向けた授業を行う。進路選択は本人の希望によるが、理系を選択する生徒の方が多くなる傾向がある。全体的にハイレベルな授業が展開されているが、高度な授業展開の一方で、面倒見のよいことも大きな特徴。授業をしっかり理解させるために、宿題・小テスト・補習・追試・夏期講習などを行い、授業担当者が細かく目を配っている。一歩ずつゆっくりと、しかし、確実に成長させるオーソドックスな指導方針が浅野イズム。
「大切なものをみつけよう」ーこれは学校から受験生へのメッセージ。生徒にとって学校は、一日の内の多くの時間を過ごす場所。勉学に励むことはもちろん、部活動や学校行事にも積極的に参加して、その中で楽しいこと、嬉しいこと、悔しいことや失敗をすることも含めて多くのことを経験してもらいたいと考えている。学校でのそのような経験が、学ぶことの意味、みんなで協力することの大切さと素晴らしさ、生涯、続いていくような友人関係、そして、決して諦めない強い心を育んでいくことになる。浅野中学校、高等学校という場を思う存分活用して、人生において大切なものをたくさん見つけ、成長してほしいとの願いが込められている。
部活動と学習を両立させる伝統があり、運動部の引退は高校3年5~6月の総合体育大会、野球部は甲子園予選までやり通す。中学では98%の生徒が部活動に参加している。ボクシング、化学、生物、囲碁、将棋、ディベート、演劇が全国レベル。柔道、ハンドボールやサッカーも活躍している。また、5月の体育祭と9月の文化祭を「打越祭」として生徒実行委員が主体となって運営する。これをはじめ、学校行事も盛んで生徒一人ひとりが充実した学園生活を送っている。
「銅像山」は、傾斜がかなりきつく、クロスカントリーコースとして運動部の走り込みに使われるだけでなく、中学生たちの絶好の遊び場所となっている。また、各学年のフロアに職員室を配置してオープンにすることで、生徒と学年担当の先生が日常的に対話を行っている。こうしたメンタルケアにも力を入れている。