シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

ドルトン東京学園中等部

2022年10月掲載

ドルトン東京学園中等部の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.学校の学びの特徴がよく見える問い

インタビュー1/3

台風の経路図からどんなことに気づけるか

この問題の出題意図を教えてください。

風間先生 理科に限らず入試問題では「気づく力」を大切にしています。このような図は見たことがないかもしれません。初めて見る図からどんなことが読み取れるか、受験生の着眼点、視点の多様さを見ようと、この問題を作りました。
「これはどういうことだろう?」「これって不思議だな」と興味を持って、いろいろなことに気づいてくれたらいいなと思います。

伊東先生 未知のことに「おもしろそう」と知的好奇心を持ち、何とか解答の糸口を探してほしいですね。チャレンジする前向きな姿勢も大切にしています。

教務部長・理科/風間 健志先生

教務部長・理科/風間 健志先生

仮説の立証にどんな情報が必要かを考える

仮説を立てて、それが正しいことを示すのに必要な情報は何かという聞き方は、中学入試の理科ではほとんどされていません。その意図を教えていただけますか。

風間先生 これはドルトン東京学園の学び方と関係があります。本校は今年で開校4年目になります。1年目は、実験の準備から手順までこちらが用意していました。生徒は楽しそうに実験しているように見えましたが、後日確認するとあまり覚えていないということが多々ありました。
数をこなすだけでは意味がないと痛感し、実験の数は減るかもしれないけれど、実験の設計の段階からある程度自分で考えて行う探究型のスタイルに方向転換したのです。入試問題も、本校の理科の学び方ができる力、すなわち読み取ったこと(仮説)を確認(検証)するにはどんな情報が必要かを考える力を問いました。この問題は、普段の授業の延長線上にあると言えます。

図から読み取る力は想定以上

出来具合はいかがでしたか。

風間先生 (問1)の読み取りは予想以上にできていました。初見の図に躊躇することなく答えてくれたと思います。中学受験の段階で気づく力があるというのは、入学後ののびしろに期待が持てます。

伊東先生 一方、(問2)はなかなか難しかったようです。なぜそうなっているのか説明し、さらに必要なデータの提示まで達成できた受験生は限られました。仮説検証に必要な力は、入学してからしっかり鍛えたいと思います。

ドルトン東京学園中等部 校舎

ドルトン東京学園中等部 校舎

根拠がなければ個人の感想になってしまう

(問1)は具体的にどんな解答がありましたか。

風間先生 台風は大陸ではなく海で発生している、赤道をまたいでいるものがない、南大西洋では基本的には発生していない、同じ海でも極に近づけば近づくほどない、といった解答がありました。無答はほとんどなかったと思います。

点数をあげられない答えはありましたか。

伊東先生 この図から読み取れないことを書いていた解答では得点できません。自分が知っている台風の知識を書いたのかもしれませんね。

(問2)は、正解するのに何が足りなかったのでしょうか。

風間先生 説明はできていてもデータが出せない解答と、データは適切でも説明ができていない、あるいは説明が不十分な解答の両方ありました。
後者の場合、例えば「台風は南大西洋ではほとんど発生していない」ことを説明する情報は「海水温のデータ」でよいのですが、なぜ海水温が重要なのか、海水温のデータでどのように説明できるかを書くのは、小学6年生には難易度が高かったようです。

伊東先生 知識と経験を総動員して説明しようとしていましたが、論理構成がきちんとできる受験生は少なかったようです。

風間先生 具体的でなくても、「こんなデータがあれば、仮説の証拠になるのではないか」というものを提示してもらいたかったですね。仮説を裏付けるデータがないと単なる個人の感想になってしまいます。この問題を通して、受験生に客観的な科学的根拠の大切さを伝えたいという思いもありました。

台風を世界地図で見るから気づくことがある

この図には詳しい説明がありません。この点も、通常の中学入試の問題と違うところではないでしょうか。

風間先生 この図では台風の発生地点がわからないので、説明を加えるかどうか、かなり議論しました。元データに説明がないこと、データは必ずしも丁寧な説明があるとは限らないことから、説明は加えず、限られた情報から読み取ってもらうことにしました。したがってこの図から合理的に読み取れるものであればよしとしました。

台風の経路の地図は日本付近のものが一般的ですが、この図は世界全体が載っています。

風間先生 世界全体で見ることで、同じ太平洋の海でも全くない風が発生しないエリアがあることを私も今回初めて知りました。

伊東先生 台風を日本付近だけでなくハリケーンやサイクロンを含め広い視野で見てみると、新しい発見がありますね。

ドルトン東京学園中等部 ラーニングコモンズ

ドルトン東京学園中等部 ラーニングコモンズ

インタビュー1/3

ドルトン東京学園中等部
ドルトン東京学園中等部2019年に中等部が開校した。書架とテーブル、ソファが置かれたラーニングコモンズを中心とした校舎では、多様な学び舎交流が生まれている。2022年秋にはSTEAM校舎が完成した。主体的に学び、探究・挑戦し続ける生徒、多様性を理解し、他者と協働する生徒、自らの意志で積極的に新しい価値を創造し、広く社会に貢献する生徒の育成を目指している。
校名にあるドルトンプランとは、今からおよそ100年前に、米国の教育家ヘレン・パーカストが、当時多くの学校で行われていた詰め込み型の教育に対する問題意識から提唱した、学習者中心の教育メソッドである。「自由」と「協働」の2つの原理に基づく「ハウス」「アサインメント」「ラボラトリー」を軸とし、一人ひとりの知的な興味や旺盛な探究心を育て、個人の能力を最大限に引き出すことを大きな特徴としている。
ハウスとは、異学年の生徒で構成されるコミュニティ。日常的に集まって交流したり、協力して行事の企画や準備・運営に取り組んだりします。授業のクラスとは違った立場や役割で様々な活動に参加することによって、多様性の理解や協働が促進され、社会性が育まれている。上級生は下級生の学習や生活をサポートすることで、良き先輩としての自己有用感を獲得し、下級生は、ロールモデル(=理想の上級生像)を発見し、今後の自分の姿に見通しを持つことができる。
アサインメントは生徒自身による「学びの設計」をサポートする課題解決型の「学びの羅針盤」。これを用いて、生徒は自分が学んでいることの意義や目的を知り、ゴールまでの道のりを見通し、自分に合った学習計画を立てている。
ラボラトリーは、授業での学びを深め、定着させる場所・時間。この時間、生徒は学習の目標や進め方を自由に設定することができる。また、教員からアドバイスを受けることで、知識をつなげ、自らの学びをより深め、その輪を広げていく。
地域コミュニティとの協働や企業人との交流、ファンドレイジング等、従来の科目の枠にとらわれない、実践的なプログラムも提供されている。様々な体験を通じて「学ぶ楽しさ」に気づき、「自分から問いを立て、学び続ける」ことができるようになる。また、専門的な知識・経験を持つスタッフが、国内・海外大学への進学支援だけでなく、実験機器の操作方法やプレゼンテーション技法といった様々な技能習得の支援も行う。
部活動は、生徒が自分の興味や関心があることに楽しみながら取り組み、知識を深め、技術を身につけていく探究的な活動です。バドミントン、剣道、日本文化(華道・茶道)、合唱、美術、弦楽アンサンブル、ダンスの8つの部活動と、バスケットボール同好会、バレーボール同好会、理化学研究会の3つの同好会、サッカークラブがある。専門的な指導のできる指導員のもと、質の高い活動を週3日間で集中して行う。
標準服は、リボン・ネクタイ・蝶ネクタイやポロシャツ、カーディガン、パンツ・スカート・ハーフパンツ・キュロットなど様々なアイテムから選択することが可能。また、式典などの公式な場では標準服でそろえた正装とするが、日常の学校生活では一定の決まりの中で私服と組み合わせたコーディネートができる。