出題校にインタビュー!
芝浦工業大学柏中学校
2022年10月掲載
芝浦工業大学柏中学校の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
1.漢字一つとっても単なる暗記ではなく仕組みに着目し、思考して学ぼう
インタビュー1/3
漢字の意味や成り立ちを理解しながら学んでほしい
「音記号を素材に生徒が漢字について、発言したり、やりとりしたりする」というシチュエーションが設定されている形式の漢字の出題を近年されているように感じますが、このような形式の出題意図を教えてください。
市川先生 漢字といえばひたすら書いて暗記するものだという捉え方が一般的だと思いますが、漢字の多くは「形声文字」と呼ばれる、音記号と部首からなるものです。この仕組みを理解しておくと、新しく漢字を覚える際に頭に入ってきやすいですし、未知の漢字と出会った際に、既知の漢字をもとに読みや意味を推測することができます。このように、単なる「暗記」として漢字を捉えるのではなく、思考力を働かせることで漢字の意味や成り立ちを「理解」しながら身につけていってほしいという願いを込めて出題しています。
先生と生徒のやりとりを用いているのはなぜですか。
市川先生 数年前から「主体的対話的で深い学び」ということがよく言われるようになり、平成30年頃から学習指導要領の改訂が始まりました。それに伴い大学入試共通テストなどでも対話形式のような設問が増えています。対話形式のような設問は、解く側がそれを読むことにより新しい知識を得て、解きながら学びを発展させたり、深めたりすることができます。つまり設問する側の思考に沿って追体験をしてもらうことにより、自分の中に今までなかった知識をアウトプットしてもらうことが可能です。既知の物事や知識、概念を結びつけることによって、未知の問題に対処できる体験をしてほしい、という意図をもって出題しています。
国語科/市川 昌史先生
問題文を忠実に読み解くことができれば正解にたどり着ける問題
この問題における子どもたちの答えにどのような印象や感想を持ちましたか。
市川先生 やはり、小学校で習わない漢字については、正答率が低くなる傾向が見られます。自分の知っている漢字であれば、問題文の意味を十分に理解していなくとも、直感的に正答にたどり着くこともあるようですが、知らない漢字を出題すると空欄が目立ちます。しかし、問題文を忠実に読み解ければ確実に正解にたどり着けるようになっているので、文章と向き合い、粘り強く思考し続けてほしいと思っています。
例年出題していますので、過去問で取り組んでもらうと、漢字の仕組みを理解して、その場で応用させる訓練になると思います。
Bはわかりやすいと思いました。
市川先生 そうですね。Cは直感的な問題、Aはメカニックに組み立てる問題です。小学生は直感的に解くと思うので、Aは難しかったと思います。「獣」を「けものへん」と連想できるか、それが第1段階です。その辺に対して適切な音記号を選べるか、それが第2段階。さらに正しい位置に書けるか、それが第3段階。3つのステップがありますが、「けものへん」がわかれば左側に置くと思うので、正しい音記号を選べていれば正答できたと思います。
Dは「始」を連想できるか、そこが簡単ではなかったのだろうなという印象があります。「女性」をキーワードに結びつければわかると思うのですが、なぜ女性なのかを深く考えると難しいです。民俗学、人類学に紐づく話になります。平塚らいてうが「女性は太陽であった」と言います。日本における天照も女性神です。農耕民族系は豊かに実るということを、女性が子供を産むことと関連させるので、日本人は「始」を「女性」と結びつけがちですが、そもそも漢字は日本で作られたものではないので、「始」の成り立ちを考えていくとものすごく難しい問いになります。ですからこの設問では断定していません。「担っていたのかな?」という連想です。厳密には分からないからです。ただ仮説の立て方や思考は大事にすべきであると思っています。もしかするとこの設問は探究的な素養を再現している問題と言えるかもしれませんし、壮大な問いに結びつくことになるかもしれません。そこはメタメッセージとして受験生に届けたいところです。
全部できた受験生はいましたか。
市川先生 少なからずいました。例年に比べてすごく難しかったというわけではありません。毎年難易度はそんなに大きく変わっていないと思います。
芝浦工業大学柏中学校 図書室
作問の根本にあるのは建学の精神
国語の入試問題を通して、受験生のどのような力を見たいと考えていますか。
市川先生 もちろん、最低限の知識が身についているかどうかは大事な要素ですが、思考力を要する問題を意識的に出題しており、実際に小説・評論共に論述問題を課しています。論述については、単に本文の記述を丸写ししたり、つぎはぎしたりするだけでは答えを導けないように工夫しています。先の漢字の出題と同様に、本文に書かれている既知の内容を踏まえて、未知の状況にその内容を応用させるような問題を通じて、受験生の粘り強い思考力を見たいと考えています。
作問の根本にあるのは建学の精神です。本校には「創造性の開発」「個性の発揮」 という理念があるので、それを踏まえて世の中の流れとミックスさせた時に、どういう出題が望ましいか、ということを考えています。今の世の中の動きは本校の建学の精神と親和性が高いと感じています。そういう意味で、世の中の流れを意識した出題になっていると思います。
今年の問題でいうと大問2の問5、4コママンガを使った問題が典型のように思いますが、それについて国語科では議論がなされましたか。
市川先生 もちろん問題については議論しますが、こういう問題であらねばならないという枠組みをそんなに強くは課されていません。教員にある程度の裁量を持たせて、クリエイティビティを発揮させようということだと思います。大枠としては、粘り強く思考する力を問う問題を出題する、ということは理念として共有しながらも、各教員による工夫の余地は残されています。
芝浦工業大学柏中学校 建学の精神
小説文は近代の名作シリーズから出題する
素材文の選定に関して、意図していることはありますか。
市川先生 小説文については、近代日本の名作と呼ばれる文学作品を、評論文については適度に読みやすく、それでいて新たな気付きを与えるような文章を、それぞれ意識して選定しています。
小説文を近代の名作シリーズから出題することはあらかじめ学校説明会などでお伝えしています。中でも宮沢賢治の作品を出題することが多いように思います。多少戦後の作品を出すこともあります。
なぜ近代日本の名作と呼ばれる文学作品を扱うのですか。
市川先生 私見ですが、「国語」はナショナルランゲージ、つまり国の言葉です。それを「日本語」ではなく「国語」という科目名で教えています。明治維新の時に、日本の公用語が英語やフランス語になってもおかしくありませんでしたが、それを選択せずに、のちに漢語を輸入して、欧米の概念を言い表せる国語の概念を作り出しました。それを作る過程で明治の知識人たちは苦悩して翻訳をしたり、自分たちで作品を作ったりしました。つまり彼らがアウトプットしたことにより、それが大衆に流布して、自然と国語のようなものが共有されるようになりました。
近代の「国語」は、明治維新以降の文章をベースに、時間的な広がりの中で変化を遂げながら今のようなスタイルになったため、現在の「国語」も時間軸を広げて学ぶ学習スタイルになっています。普段の授業に「現代文」という科目があります。これは近代以降の文章とされてます。近代以降の文章とは明治維新以降の文章です。「現代文」を学ぶことにより、今の子どもたちも、明治末期から大正初期に書かれた夏目漱石の文学作品に十分にアクセスできます。そういう背景から、本校の国語では時間軸を広げてほしいという意図をもって近代日本の名作と呼ばれる文学作品を扱っています。
芝浦工業大学柏中学校 図書室
インタビュー1/3