シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

海城中学校

2022年09月掲載

海城中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.大学生や社会人になってから役立つ力を6年間かけて磨こう

インタビュー3/3

中2男子に男女間格差の話題で刺激を与える

渡邉先生 本校は教員に与えられている裁量の余地が広いので、教員は授業でいろいろなチャレンジができます。特に「社会総合」は教科書がないので、昨年、初めて授業を任されて、「フリーハンドでやりなさい」と言われた時は、どうすればいいのかわからず面食らいました。

「社会総合」はテストがないので、ことさら自由度が高く、やりがいがある反面、ハードルは高いです。中学生は正直なので、つまらないとつまらなそうな顔をします。ですからおもしろがってくれそうなネタ探しに力を入れています。

例えば、どのような題材を持ち込んでいますか。

渡邉先生 最近の紅白歌合戦は、LGBTQを意識してロゴマークを変えるなど、ジェンダーレスを意識した形で行われています。その話を、昨年、中1の3学期にした時は興味をもってくれた生徒が多かったです。

今、日本でもジェンダーギャップ指数がすごく問題になっています。中高一貫の男子校で過ごすと、「女性」という視点が抜けてしまいがちなので、中2の男子には男女間格差のような話をぶつけてみようと思っています。そういう視点もあるんだよ、ということが伝わるのではないかと思います。中2になると、そういうことへの関心が強くなりますので。ジェンダー問題には、かなり鋭い質問や意見が出ます。男子校だからこそ、生徒も、ジェンダー問題に関して、深く知りたいという思いがあるのかもしれません。

海城中学校 校舎

海城中学校 校舎

高校受験がない分、「社会総合」のような学びを深めて欲しい

「社会総合」は授業を担当する先生の影響を受けそうな授業ですね。

渡邉先生 それはあると思います。社会Ⅰ・社会Ⅱ・社会Ⅲは教科書がないので、論文の作法などは社会科内で決まっているのですが、おもしろいテーマ、関心を持ってもらいたいテーマには各教員の個性が出ます。学年によって、多いテーマがあったりするのは、おもしろいところだと思います。

授業は大学のゼミですね。特に中3は40人のクラスを20人ずつ、2クラスに分けて行っています。それぞれのクラスに一人ずつ先生が付いて、毎回ディスカッションをします。

そうした授業は中学3年間で終わるのですか。

渡邉先生 高校は大学進学を見据えた授業になります。とはいえ大学受験は論述型が増えているので、中学校3年間で身につけた論理的に書く力や資料活用能力などはつながっていくと思っています。高校受験がない分、「社会総合」のような学びを深めて欲しいと思っています。

社会科/渡邉 宏明先生

社会科/渡邉 宏明先生

すべては30年前の学校改革から始まっている

「社会総合」の授業はいつから始めたのですか。

渡邉先生 学校改革が行われた30年前からです。昔の海城は受験スパルタ進学校の印象があったのではないかと思います。でも、大学受験で燃え尽きてしまう生徒では困る。変えていこう、と行動し始めた時期に、社会科では「社会総合」の授業を始めました。入試問題が今の形式(大設問1題構成)になったのも同じ時期だと思います。

そうだとすると1992年からですね。

渡邉先生 まさしくそこです。すべてがそこから始まっています。その時から、社会科だけでなくいろいろな教科が生徒に考えさせるために創意工夫をしています。例えば数学では大学レベルの数学を学ぶことを通じて数学の本質について学ぶ機会をつくっています。理科では新設の理科館を活用して頻繁に実験を行い、生徒たちに考えさせています。国語では発表形式や演劇を取り入れた授業を行っています。英語では歌や映像を通して、生徒の興味を喚起しています。それが楽しくて勉強する生徒がいます。

海城生のカラーは大学時代からの憧れ

渡邉先生は海城に対して率直に感じていることがあれば教えてください。

渡邉先生 私は海城の入試問題やカリキュラムにかねてから興味・関心がありました。自分が大学生のときに出会った海城出身者に良い印象を持っていたからです。スマートな雰囲気を身にまといつつ、アカデミックな素養を備えている。学校の教育内容や教育環境が大きな影響を与えているのではないかと思っていました。実際に、教員になってから、自分で調べていく中で、生徒の「考える力」を育てることを意識したカリキュラムがあり、自分もそうした場で研鑽をつみたいと考えるようになりました。

本校の職員室は教科ごとに設けられているので、社会科の職員室には他の教員の授業の資料が散乱しています。目にする機会が多いので、そこからヒントをもらうことも少なくありません。先生方と顔を合わせて授業の話をすることも多く、そうした日常が互いの視野を広げ合う機会になっていると思います。

海城中学校 海城のクスノキ

海城中学校 海城のクスノキ

インタビュー3/3

海城中学校
海城中学校もともとは海軍予備校だった海城中学校。創立されたのは1891(明治24)年と、一世紀以上の歴史がある伝統校です。建学の精神は、「国家・社会に有為な人材を育成する」こと。そのために、「フェアーな精神」「思いやりの心」「民主主義を守る意思」「明確に意思を伝える能力」を身につけた、高い知性と豊かな情操を持つ人物を「新しい紳士」と名付け、その育成を目指している。
生徒の学習意欲をかきたて、個性豊かに育てるためには、ふさわしい学習環境が必要と考え、2021年夏に完成したScience Center(新理科館)、ユニークな体育館(アリーナ)、カフェテリア(食堂)など、一人ひとりが、より良く、より深く学べるよう必要な施設や教育環境が整備されている。個々の生徒の進路選択のために、豊富な情報、資料のそろった進路指導室が準備され、担当の先生による面談が随時行われ、学習や進学の悩みや迷いなどには、専門のカウンセラーも適切な助言を与える。
習熟度別授業は行っていない。個人のブースにこもって勉強するのではなく、級友と切磋琢磨し、集団として成長してほしいと考える。6年間を通じて学習の中心にあるのは、それぞれの時期に応じた内容の濃い授業だ。授業は、大学入試そのものを目標として行うのではないが、結果として大学受験に十分対応できるものとなっている。教員もよりよい授業を追求すべく、相互の情報交換や外部の研究会への参加などを通じて研鑽を続ける。
入学後生徒たちは先ずはPAやDEといった体験学習を通して「新しい人間力」(コミュニケーション能力・コラボレーション能力)のイロハを学ぶ。文化祭などの学校行事やクラブ活動などは、そこで習得した基礎力を、実践活動を通して向上・発展させる場・機会として位置付けられる。と同時に、そうした場で力を出し切る経験を積み重ねることで生徒たちは自分に対する信頼(自己信頼)や「(多少の困難があっても)自分は出来る」といった感覚(自己効力・自信)を高める。ここぞという時にうろたえ・浮足立つことのない「新しい紳士」のエートス(行為態度)はこうした営みの中で培われる。
中学3年生を対象に、中学卒業時の3月下旬にアメリカ研修が実施される。バーモント州のセントジョンズベリーアカデミーという学校に通学する子女の家に1週間ほどホームステイをしながら同校に通学する。ボストン見学やマサチューセッツ工科大学も訪問します。高1・2年生では、7月下旬から8月かけてイギリス研修が実施される。モーバンという町に滞在し、ホームステイしながら英語の勉強をする。現地の先生やホームステイ先の家族をお招きし、スピーチの発表会を開く。また、国内での語学研修としてイングリッシュキャンプを校内で夏休みの3日間実施し、すべてネイティブの先生による授業が実施されている。