シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

海城中学校

2022年09月掲載

海城中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

2.なんだかんだ言っても、やるべきことにきちんと向き合える生徒が多い

インタビュー2/3

中1から大学レベルの授業を展開

社会科の授業で大切にされていることを教えてください。

渡邉先生 授業の中でいかに考えさせるかということは、多くの先生が考えていることだと思います。私は歴史を担当しているので、体系的に分かりやすく教えることを意識しつつも、発問を積極的に行ない、生徒にできる限り頭を使ってもらおうとしています。

社会科の特色は生徒の自発的な研究能力や積極的な問題解決能力を育むことを目的に、総合学習(社会Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)/通称:社会総合)と系統学習(1年次地理・2年歴史・3年次公民)の二本立てで授業を実施しているところです。社会科の授業は週4時間ですが、総合学習が2時間、系統学習が2時間となります。

社会総合では現在起きている社会問題から生徒自身が興味や関心をもつ問題を大切にし、新聞記事や書籍・ネット上の文献情報を検索・収集します。自分でアポを取って社会で課題解決にあたる方を取材したり、フィールドワークをしたりします。それらの活動を通して収集した情報を十分に分析して自分の見解を学期ごとのレポートにまとめます。

「社会総合」ではフィールドワークに力を入れていて、1学期は本校の最寄駅「新大久保」周辺で行いました。ここは多国籍な街で、すごく魅力的なのです。電柱を見るだけでも、いろいろな言語で書かれた広告が貼ってあります。生徒たちは4、5人のグループを作り、それぞれのエリアを巡って調べました。収集した情報を精査し、まとめてパワーポイントで発表しました。その過程を通して、受け身の姿勢で知識を得るだけでなく、主体的に学ぶ楽しさを育んでくれればいいなという思いをもって取り組んでいます。

海城中学校 校舎

海城中学校 校舎

小さな研究者になって卒論に挑んでほしい

授業のたびに書く作業があるのですか。

渡邉先生 そういう時もありますし、そうではない時もあります。担当者によって変わります。決まっているのは、学期ごとのレポートと、中3次に取り組む「卒業論文」です。私が担当する学年では、卒論のテーマの先行研究整理を中2の3学期に行う予定です。単に文献をわかりやすく体系的にまとめるのではなく、小さな研究者となって、少しでもオリジナリティーのあるものを書いてほしいという思いがあります。そのために、社会の現場で課題解決に努める方々への取材やフィールドワークが重要となります。卒論は中2の3学期、中3の1学期、2学期を使って書くことになります。字数は400字詰めの原稿用紙で30枚以上、12,000字以上となります。

テーマの設定が重要になりますね。

渡邉先生 生徒にとってテーマを設定することが一番難しいと感じています。今は生徒にMacbookを配っているので、パソコンを使って検索し、集めた情報の中からテーマを探す生徒が多いです。小さな研究者となってもらうためには、社会問題についてのアンテナを広げることが大切だと思うので、どのように広げてあげたらいいのか、ということは常に考えています。図書館を活用することも1つの方法ですが、普段の授業の中でもいかに刺激するかということを意識しています。

入試でも入学後の学習に必要な力を問いたい

私は本校の卒業生ですが、「社会総合」は海城らしい授業だと思います。

渡邉先生 卒業生から感謝される授業の一つです。「大学生や社会人になって、社会総合を行う意味がわかった」という話をよく耳にします。

中3で書く卒論は冊子になりますが、私は全部掲載されました。

渡邉先生 それはすごいですね。全部掲載される生徒はごくわずかで、大学のレポートや卒論として出しても通用するのではないかと思うくらい、高いレベルです。

社会の問題への多様な関心、資料を活用する力、論理的に文章を書く力などを測る問題を出しているのは、入試問題でも「社会総合」の素養と言いますか、土台となる力があるかどうかを見たいという思いがあるからです。

生徒を指導をしているとテーマ探しに苦戦している生徒もいますが、なんだかんだ言ってもみんなきちんとまじめに取り組んでいます。海城にはそういう力を持っている子が集まっていると感じます。

海城中学校 卒業論文集

海城中学校 卒業論文集

インタビュー2/3

海城中学校
海城中学校もともとは海軍予備校だった海城中学校。創立されたのは1891(明治24)年と、一世紀以上の歴史がある伝統校です。建学の精神は、「国家・社会に有為な人材を育成する」こと。そのために、「フェアーな精神」「思いやりの心」「民主主義を守る意思」「明確に意思を伝える能力」を身につけた、高い知性と豊かな情操を持つ人物を「新しい紳士」と名付け、その育成を目指している。
生徒の学習意欲をかきたて、個性豊かに育てるためには、ふさわしい学習環境が必要と考え、2021年夏に完成したScience Center(新理科館)、ユニークな体育館(アリーナ)、カフェテリア(食堂)など、一人ひとりが、より良く、より深く学べるよう必要な施設や教育環境が整備されている。個々の生徒の進路選択のために、豊富な情報、資料のそろった進路指導室が準備され、担当の先生による面談が随時行われ、学習や進学の悩みや迷いなどには、専門のカウンセラーも適切な助言を与える。
習熟度別授業は行っていない。個人のブースにこもって勉強するのではなく、級友と切磋琢磨し、集団として成長してほしいと考える。6年間を通じて学習の中心にあるのは、それぞれの時期に応じた内容の濃い授業だ。授業は、大学入試そのものを目標として行うのではないが、結果として大学受験に十分対応できるものとなっている。教員もよりよい授業を追求すべく、相互の情報交換や外部の研究会への参加などを通じて研鑽を続ける。
入学後生徒たちは先ずはPAやDEといった体験学習を通して「新しい人間力」(コミュニケーション能力・コラボレーション能力)のイロハを学ぶ。文化祭などの学校行事やクラブ活動などは、そこで習得した基礎力を、実践活動を通して向上・発展させる場・機会として位置付けられる。と同時に、そうした場で力を出し切る経験を積み重ねることで生徒たちは自分に対する信頼(自己信頼)や「(多少の困難があっても)自分は出来る」といった感覚(自己効力・自信)を高める。ここぞという時にうろたえ・浮足立つことのない「新しい紳士」のエートス(行為態度)はこうした営みの中で培われる。
中学3年生を対象に、中学卒業時の3月下旬にアメリカ研修が実施される。バーモント州のセントジョンズベリーアカデミーという学校に通学する子女の家に1週間ほどホームステイをしながら同校に通学する。ボストン見学やマサチューセッツ工科大学も訪問します。高1・2年生では、7月下旬から8月かけてイギリス研修が実施される。モーバンという町に滞在し、ホームステイしながら英語の勉強をする。現地の先生やホームステイ先の家族をお招きし、スピーチの発表会を開く。また、国内での語学研修としてイングリッシュキャンプを校内で夏休みの3日間実施し、すべてネイティブの先生による授業が実施されている。