シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

海城中学校

2022年09月掲載

海城中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.複数の資料を読み取り、関連づけて考える力を磨こう

インタビュー1/3

現代の裁判制度の意味を考えてほしかった

出題意図からお話いただけますか

渡邉先生 弁護人・検察官・裁判長の三者がいる中で話し合いながら、正しい事実に基づき客観的な判決を出せるようにするという現代の裁判制度の意味について、改めて考えてほしいという意図がありました。比較対象を設けたほうが、考える手助けになると思い、江戸時代の裁判の様子を提示しました。

「遠山の金さん」を出した意図は?

渡邉先生 受験生は「遠山の金さん」を知らないと思いますが、イラストがあることによって、考えるきっかけになるのではないかと考えて、あえて出題しました。小学生はテレビ、漫画、ゲームなどが好きだと思いますが、そうした中で見たり聞いたりすることも学ぶ素材になるんだよ、というメッセージも含んでいます。

「遠山の金さん」を授業で扱ったことはありますか。

渡邉先生 「天保の改革」で、水野忠邦の政策にことごとく反対していくのが、「遠山の金さん」こと遠山景元です。高校生の授業では、水野の政策を相対化するという意味でも遠山景元に触れて、「遠山景元(金さん)というのは桜吹雪の刺青があって…」という話をします。でも、生徒は金さんのことを、ほとんど知らないですね。

社会科/渡邉 宏明先生

社会科/渡邉 宏明先生

その場で考えられる問題を丁寧に作成

問題の素晴らしさだけでなく、あたたかみに感激しました。学校から受験生への心配りが感じられる問題ですよね。

渡邉先生 入試なので合否の判定ができなければいけません。つまり点差を付けなければいけないのですが、受験生がその場で考えることで、学ぶことができる問題を作成したいという思いがあります。そのため、一つひとつを吟味しながら丁寧に作っています。

資料1つにしても、小学校の教科書に掲載されているかどうかを1つの基準に判断しています。今回の問題でいうと、三審制や裁判員については触れられていますが、検察官や弁護人がいる現在の裁判の仕組みについては小学校で触れられていません。おそらく受験生は塾で学んだり、テレビドラマなどを見て知っているとは思いますが、瑣末な知識でこの問題を考えることができなくなってしまうのはもったいないので、考えるきっかけとなるであろうイラストを掲載しました。

一題の中で地理、歴史、公民を問う問題形式

貴校の入試問題といえば、一つのリード文で地理、歴史、公民を問う問題形式が定着しています。今回は現代の裁判制度を問うために古代から遡る内容でした。その意図を教えてください。

渡邉先生 社会科は地理・公民・歴史の3分野から成り立っていますが、一つのリード文にすることで、あるテーマについて多角的に論じることができると考えています。
今回は、それぞれの時代における、その当時の人々の価値観が裁判のあり方に大きな影響を与えていることを受験生に伝えたいと思い、古代から始めました。

海城中学校 校舎

海城中学校 校舎

多くの受験生が概ね筋を外さずに書けていた

リード文には古代から現代まで、かなり長い年月にわたる物語が語られています。

渡邉先生 古代の神のさばきにはかなり理不尽さがあり、冤罪が多かったのではないかと思われます。それが、時代を経るにつれて、より客観的な裁きへと移っていく。この問題の最後のメッセージでは、金さんのような江戸時代の裁判を経て明治時代になり、しだいに人々が納得しやすい裁きになっていっている、ということを伝えたいと思いました。

受験生は考えを書けていましたか。

渡邉先生 問8(掲載した問題)に関しては、多くの受験生が概ね筋を外さずに書けていました。「被告人に不利益である」「弁護人がいない」「検察官と裁判官を兼ねている」などが問題点となります。全ての要素を書けているわけではありませんが、比較的できていました。受験生にこちらの意図が伝わっていて、考えて解答してくれたので嬉しかったです。中には満点の解答もありました。

入試問題作成は教員にとっても学びの場

問6(喧嘩両成敗法は暴力的な法であると評価されてきたが、2つの資料を参考に、どのように考え直すことができるかを90字以内で説明する問題)も、個人的に好きな問題でした。

渡邉先生 喧嘩両成敗法については、新たな歴史の解釈について問う問題なので受験生にとっては少し難しい問題になってしまうのではないかと思っていました。案の定、正答率は低かったです。

おそらく受験生が知っているのは資料4の(1)(喧嘩をした者は、喧嘩の理由にかかわらず、原則として喧嘩をした両方をともに死罪とする)くらい。ですから、知らないことでもその場の情報でなんとかひねり出せる、そういう力が必要な問題だと思いました。

渡邉先生 そうですね。初めてみる資料を問いにそって、どのように分析し解答を作成できるのか、そういう力をみたいと思っています。

海城中学校 正門

海城中学校 正門

インタビュー1/3

海城中学校
海城中学校もともとは海軍予備校だった海城中学校。創立されたのは1891(明治24)年と、一世紀以上の歴史がある伝統校です。建学の精神は、「国家・社会に有為な人材を育成する」こと。そのために、「フェアーな精神」「思いやりの心」「民主主義を守る意思」「明確に意思を伝える能力」を身につけた、高い知性と豊かな情操を持つ人物を「新しい紳士」と名付け、その育成を目指している。
生徒の学習意欲をかきたて、個性豊かに育てるためには、ふさわしい学習環境が必要と考え、2021年夏に完成したScience Center(新理科館)、ユニークな体育館(アリーナ)、カフェテリア(食堂)など、一人ひとりが、より良く、より深く学べるよう必要な施設や教育環境が整備されている。個々の生徒の進路選択のために、豊富な情報、資料のそろった進路指導室が準備され、担当の先生による面談が随時行われ、学習や進学の悩みや迷いなどには、専門のカウンセラーも適切な助言を与える。
習熟度別授業は行っていない。個人のブースにこもって勉強するのではなく、級友と切磋琢磨し、集団として成長してほしいと考える。6年間を通じて学習の中心にあるのは、それぞれの時期に応じた内容の濃い授業だ。授業は、大学入試そのものを目標として行うのではないが、結果として大学受験に十分対応できるものとなっている。教員もよりよい授業を追求すべく、相互の情報交換や外部の研究会への参加などを通じて研鑽を続ける。
入学後生徒たちは先ずはPAやDEといった体験学習を通して「新しい人間力」(コミュニケーション能力・コラボレーション能力)のイロハを学ぶ。文化祭などの学校行事やクラブ活動などは、そこで習得した基礎力を、実践活動を通して向上・発展させる場・機会として位置付けられる。と同時に、そうした場で力を出し切る経験を積み重ねることで生徒たちは自分に対する信頼(自己信頼)や「(多少の困難があっても)自分は出来る」といった感覚(自己効力・自信)を高める。ここぞという時にうろたえ・浮足立つことのない「新しい紳士」のエートス(行為態度)はこうした営みの中で培われる。
中学3年生を対象に、中学卒業時の3月下旬にアメリカ研修が実施される。バーモント州のセントジョンズベリーアカデミーという学校に通学する子女の家に1週間ほどホームステイをしながら同校に通学する。ボストン見学やマサチューセッツ工科大学も訪問します。高1・2年生では、7月下旬から8月かけてイギリス研修が実施される。モーバンという町に滞在し、ホームステイしながら英語の勉強をする。現地の先生やホームステイ先の家族をお招きし、スピーチの発表会を開く。また、国内での語学研修としてイングリッシュキャンプを校内で夏休みの3日間実施し、すべてネイティブの先生による授業が実施されている。