今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!
学習院女子中等科
2022年07月掲載
2022年 学習院女子中等科入試問題より
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牛乳とコーヒーをまぜ合わせて作った3種類のミルクコーヒーA,B,Cがあり、それぞれの量と、それぞれにふくまれる牛乳とコーヒーの量の比は、下の表の通りです。さくらさんは、「AとB」をすべてまぜ合わせた場合と、「BとC」をすべてまぜ合わせた場合のミルクコーヒーについて、それぞれにふくまれる牛乳とコーヒーの量の比を次のようにして求めました。
量 | (牛乳の量):(コーヒーの量) | |
---|---|---|
A | 1000mL | 17:3 |
B | 600mL | 7:5 |
C | 600mL | 9:11 |
【さくらさんの計算】
「AとB」(牛乳の量):(コーヒーの量)=(17+7):(3+5)=24:8=3:1 答え 3:1
「BとC」(牛乳の量):(コーヒーの量)=(7+9):(5+11)=16:16=1:1 答え 1:1
(問)【さくらさんの計算】で求めた答えについて、「AとB」の答えは実際の比と等しいですが、「BとC」の答えは実際の比と異(こと)なります。なぜ「AとB」の答えは実際の比と等しくなったのでしょうか。言葉や式で答えなさい。
中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この学習院女子中等科の算数の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)
解答と解説
日能研による解答と解説
解答例
2つの比「17:3」と「7:5」において、1000÷(17+3)=50、600÷(7+5)=50より、比の1にあたる量が同じ50mLになっているから。
解説
比の数値は「2つ以上のものの関係性を表したもの」で、比の1にあたる量がいくつかによって表す数量が変わってきます。よって、見かけの数値は同じでも、異なる比(比の値が異なる比)で用いている数値どうしをそのまま比べることはできません。例えば、比の1にあたる量が10mLでの3:5の3と、比の1にあたる量が30mLでの2:3の3は異なる量を表しています。
そのため、比の値が異なる比の数値どうしをたし合わせることも通常、意味を成しません。先ほどの例で出てきた2つの比の数値どうしを(3+2):(5+3)と足し合わせたとき、3+2の意味は「10mL3つ分と30mL2つ分」という意味であり、3+2で求められる5という数値には意味がありません。よって、一般的には、異なる比の数値どうしを足し合わせることはできません。
しかし、【さくらさんの計算】での「AとB」は実際と等しくなっています。これは、「比の1にあたる量が等しい」ために、同じ基準で比が作られているため、2つの比の数値どうしを合わせられるようになっているからです。この問題では、1000÷(17+3)=50、600÷(7+5)=50と、どちらも比の1にあたる量が50mLになっているので、例えば「17:3」の17と「7:5」の7をたし合わせるのは、「50mL17個分と50mL7個分を合わせて、50mL24個分になる」という意味があります。よって、17+7=24と3+5=8は、「50mL24個分と50mL8個分」という意味になり、24:8という意味のある比を作り出すことができます。だから、【さくらさんの計算】で作られた比が実際の比と等しくなります。
- 日能研がこの問題を選んだ理由
この問題では、2つの比の数値どうしをたし合わせる、というやり方について、「(たまたま)成り立ったとき」と「成り立たなかったとき」の両方の場合が提示されています。一般的に、操作の方法は「こうすれば(どんなときも)成り立つ」と一般化されていることが多いですが、この【さくらさんの計算】の方法は、ある特別な条件下でのみ成り立ちます。【さくらさんの計算】での式や数値の意味を、比の意味とつなげて考えていくことで、この方法が成り立つためにはどんな特別な条件が必要なのかを探っていきます。
また、この問題では、「なぜ実際の比と等しくなったのか」が問われています。実際と異なるときに「なぜ異なったのか」を考える問題はよく見かけますが、答えが実際と合っていたときに「なぜ合っていたのか」を考える問題はあまり見かけません。この問題には、「たまたま成り立ったことの背景には、どんな特別な条件があったのか」を探っていくものの見方を学んでほしい、という学校の先生方の想いがふくまれていると言えそうです。この問題からは「どうしてそうなるのか、どういう意味があるのか、という本質的な理解を追及していく」ことを学校の先生方が大切にしているのを感じ取れます。
このような理由から、日能研ではこの問題を『シカクいアタマをマルくする。』シリーズに選ぶことにしました。