今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!
渋谷教育学園渋谷中学校
2022年06月掲載
2022年 渋谷教育学園渋谷中学校入試問題より
- 問題文のテキストを表示する
次の会話文を読み、問いに答えなさい。
リカ子:お父さ〜ん。学校の課題をプリントアウトしたいのに出てこないんだけど、見てもらえる?
父 :ああ。これは、インクが切れているね。年賀状でたくさん使っちゃったからなあ。
リカ子:そうか。じゃあ、新しいインクに交換(こうかん)すればいいんだね。
あれあれ?黒いインクが切れたみたいなんだけど、黒いインクのカートリッジって2つもあるよ。(図)
(図)プリンターのインクカートリッジ
リカ子:『BK』ってBLACK(ブラック)だから、黒色だよね?『PGBK』もBKだから黒色のようだけど、PGって何だろう。
父 :よく気づいたね。PGはPigment(ピグメント)の意味で、これは顔料という意味なんだ。
リカ子:顔料?
父 :色の材料としては、顔料と染料という2種類に分けられるんだ。簡単にいうと、顔料は水などの液体に溶(と)けないもので、染料は水などの液体に溶けるもののことだよ。このプリンターインクのPGBK以外の色はみんな染料なんだ。『BK』以外では、『M』はMagenta(マゼンタ)赤っぽい色、『C』はCyan(シアン)青っぽい色、『Y』はYellow(イエロー)黄色、『GY』はGray(グレイ)灰色ということだよ。そして、インクを出す部品を急速に加熱することで、紙に吹(ふ)き付けて印刷するんだ。
リカ子:そうなんだ。あれ?でも、インクって液体だよね。顔料って水に溶けないのにどうやって液体のインクにしているの?
父 :顔料は水に溶けないけど、とても細かくして水の中に混ぜてあるんだ。
(問)下線部のようなプリンターはサーマル方式またはバブルジェット方式とよばれます。この方式は、インクを詰(つ)めた注射器の針に加熱されたハンダごて※が触(ふ)れた瞬間(しゅんかん)、小さなポンという音とともにインクが噴(ふ)き出したことがきっかけとなって開発されました。ハンダごてが触れた瞬間、インクが噴き出したのはなぜでしょうか。「体積」という言葉を使って、2行以内で説明しなさい。
※ハンダごて……スズと鉛(なまり)などの金属の合金である「ハンダ」を溶かして、金属の導線などをつなぎ合わせるためのこて。300°C程度まで温度が上がる。
中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この渋谷教育学園渋谷中学校の理科の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)
解答と解説
日能研による解答と解説
解答
ハンダごてが触れると針の中のインクがあたためられて気化するので、急激に体積が大きくなり、インクを押し出す力が働いたから。
解説
多くの物質は、温度が上がると体積が大きくなり、温度が下がると体積が小さくなります。また、物質に熱を加えると状態が変化します。このとき、固体、液体、気体と状態が変化していくにつれて、体積が大きくなっていきます。特に、液体から気体へと状態が変化するときには体積が急激に変化します。ハンダごてが触れた部分のインクがあたためられることによって液体から気体に変化するときに、急速に体積が大きくなったことによって、まわりのインクを押し出す力が働き、針先からインクが噴き出したと考えられます。
- 日能研がこの問題を選んだ理由
学びと日常がつながるとき、そこには自分の中からわき起こる「問い」と、それに伴走する他者の存在があります。家族や友人とともに過ごす日常の中で、子どもたちの学びが育っていくことを感じる問題です。
問題に登場するリカ子は、プリントアウトした課題が出てこないことをきっかけにお父さんと会話を始めます。プリンターを前にした二人の会話からは、疑問を言葉にして相手に伝えることで、相手から新たな情報が示されることをくり返しながら、発見が生まれたり、疑問をさらに掘り下げたりしていくようすが伝わってきます。
このような「自調自考(自らの手で調べ、自らの頭で考える)」ことを体現した問題に取り組むことは、子どもたちが豊かな学びの世界へ足を踏み入れ、好奇心を持って「!」や「?」を創りだしていくきっかけになることでしょう。
また、身近なものを新たな視点から見つめなおしてみることで、これまでに学んできたことが未知のことがらとつながることを体験でき、子ども自身が発見する面白さに気づくことにもつながるでしょう。
このような理由から、日能研ではこの問題を『シカクいアタマをマルくする。』シリーズに選ぶことにしました。