シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

山脇学園中学校

2022年06月掲載

山脇学園中学校の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.人間の欲望について考えさせる問題

インタビュー1/3

砂口先生 「人間の欲望」というものを、私自身「人間を考える上でのテーマ」として長年持ってきました。私が大学生の頃はもうバブルがはじける直前の頃で、大学とはもっとアカデミックな場であると思っていたのですが、実際は消費の場というか、人間のいろんな欲望を駆り立てる場になっているような気がしたんですね。もちろんアカデミックな部分は残っているところもあったんですが。その中で、「人間の欲望」をどのように考えればいいのか、学生時分から私自身追求してきたテーマでありました。

学部生の時には漱石の「それから」という小説、修士の時には太宰治の短編小説を素材としたのですが、両方とも「人間の欲望」にフォーカスしており、特に、お金と人間はどういうふうに向き合ってきたのか、を自分なりに追求してきた経緯があります。国語科の教員になってからも、決してそういう問題意識が薄れることはなかったかと思います。

現在の消費社会は「人間の欲望」をいろんな形で刺激するような社会になっていますが、本当にそれだけでいいのか、人間の欲望を駆り立てるような消費社会にどっぷり浸かり、便利なものや楽しいものを追求しているだけで、人間や社会は本当に良くなるのか?と言えば、良くならないのではないかと思っています。

子どもたちが、社会のあり方をどうすればいいかを考えていかなければ、社会は変わってこないと思います。ですから、中学入試問題だけではなくて日頃の授業でも、現代の社会あるいは人間の欲望というものに対し、一個人としてどういうふうに向き合っていくのか、あるいは社会とどんなふうに関わっていけばよいのかを考えさせていきたいと思いながらこの仕事に携わってきました。欲望という「人間と社会の関わりの根本」について、皆さんはどういうふうに考えますか?という問いを、中学受験生に投げかけたかった、という思いがありました。

今回は社会科学系というテーマだったので、欲望と言っても、人間だけではなくて社会や環境の問題、その中の社会的なアプローチをメインとした広がりのある問題ができるかなと思いました。

鎗田先生 総合問題は3種類作らなければいけなくて、人文系と社会系、自然科学系で割り振って作りました。通常、問題で教員が自分で文章を作ることはなかなかないと思うんですよね。そのため、問題意識を持っていないと文章は書けないですね。

砂口先生 私も一般の入試問題を作る時、欲望というアプローチで出題したい、と思ったのですが、そういう素材文を探すと結構難しいんですね。中学入試の素材で「欲望」というと、変に生々しくなったりするものですから、教員が書いた文章だからこそこういう形で出題できたのかなと思います。

高校2年学年部長/砂口 義智先生

高校2年学年部長/砂口 義智先生

教員が入試問題の素材となる文章を作成

学校側が文章を作るっていうのは他の学校ではあまり見かけないケースと思いますが、素材文の作成をする際に気を付けたこと、意識されたことはありますか。

砂口先生 もちろん受験生にきちんと考えさせることはクリアする必要があります。だから言い回しだけ安直にして、読者に迎合するような文章は、やはり国語の教員としては避けたいと思いました。中学受験生が入試の場でしっかり考えることが可能なレベルで、しかも日本語としてきちんとしたものにしたい、という思いはありました。入試は生徒が真剣に文章に向き合う場なので、そこで出される文章が日本語として崩れていてはいけません。最終的に私が素材を作りましたが、検討会では意見を出し合ったりダメ出しされたりしながら、教員全体で作り上げていきました。

やはり「言葉」が真ん中にあるのが国語や文学だと思いますので、言葉を通じて社会や自然、人間について考えさせたいと思っています。そのあたりは社会科の先生のアプローチの仕方とは違ってくる部分があるのではないでしょうか。
ただし、例年の総合問題を見ていただくと、割と皆さんそういうような意識で作られていると思います。国語や文学だけではなくて、社会・自然に対して広がりを持つような問題を作りたいという意識は皆さん共有していると思います。

先生方の問題意識を文章として出していこうという思いが強いのでしょうか。

砂口先生 直接的に伝えられる問題にしようとは思っています。ただ、他の問題も含めてこのような形にするかというと、あまりそういうことは考えていないです。やはり国語の問題は、言葉の他者性みたいなものに向き合っていくところがあり、我々が作る問題は、ある種中学入試受験生向けにこなれた文章にしてしまっているんですよね。

でも普通の国語の問題はそうではなく、大人が必ずしも中学受験生向きに書いたわけではない文章に向き合い、それを理解しようとする、それが本当の意味での国語、日本語力・言語力っていうのを磨いていく体験になると思います。

ですから他の文章は、中学入試向けに書かれたわけではない文章にきちんと受験生を向き合わせています。そういう中にも、ある程度「こういうことを考えてほしい」という我々のメッセージや問題意識を直に伝えられるような問題があっていいよね、というところから生まれた形です。

山脇学園中学校 初代校長 山脇房子先生像

山脇学園中学校 初代校長 山脇房子先生像

書けてはいたものの、完答が難しかった問題

受験生がどんな解答を書いたかお聞きしても良いですか。

砂口先生 この問題では、「何が必要か」ということと、「どのようなことが実現できるか」、「それぞれ例を挙げて自分の考えを述べる」という3つがポイントとなります。たとえば、「スーパーやデパートで買い物をするとき、物を買いすぎないように買う量を決める、これにより無駄な物を買わなくなり、食品ロスなどの問題が改善する」といったものがありました。どういうことが実現できるか、というところで具体性がありました。割と環境問題は意見が書きやすいのか、同じような答えが多かったです。

それ以外には、社会学的関心のところで答えを書いてくれた人もいました。たとえば、「考えたことを実行する前に立ち止まって、自分の考えが本当に正しいのか、人のために役立つのか考えることが必要だ。それにより、みんなの視点から考えられるようになり、人々や国々の争いが少なくなる」みたいな答えです。これは私が今回嬉しかった答えの一つですね。「欲望」を一度立ち止まって、いろんな人の立場から眺めることにより、自分自身の欲望を相対化して他の人々の価値観の中に位置づけて考えることができる、こういった考え・答案は、嬉しいですね。

全体の正答率はどうだったのでしょうか。

砂口先生 予想はしていましたが、平均得点率的には難しかったのかな、と思います。

みんな、何かしら書いていたのでしょうか?

砂口先生 書いてはいましたが「何が必要ですか」「どのようなことが実現できるか」「例を挙げて」の3つの要素が揃っているものは、必ずしも多くなかったです。満点は取れないものの、みんな半分ぐらいの点数は取っていました。実現要素が書けていないとか、具体例がなかったりするものが多かったです。たとえば「人間はもっと我慢をするべきだ、そのことによって人々と程よい距離を保つことができる」という解答のように、もう少し具体的に書いて欲しかったものもありました。

レベルの高い解答が聞けてすごく驚きました。その欲望をコントロールする「そのもの」を考える機会がない中で、入試という短い時間でこういった考えが出てくるのは、普段からそういう問いかけがあってのことなのか、それともそういう環境で育ってきたのかはわかりませんが、哲学的な問いと向き合う非常に良い機会だったんだなと感じました。

砂口先生 そうですね。多分それぐらいのことを書ける子は、総合問題の過去問もある程度数を解いて、この問題がどういうことを考えさせたい問題なのかをよく研究している受験生だと思います。そういう意味でも、こちらのメッセージを受け取る準備ができている受験生だったのかと思いました。

ただし、文章の中だけの関心にとどまって欲しくないっていうのはありますね。読んだり考えたりしたことを、社会や世の中の他の問題を考える上でどういうふうに活用していけるかがますます大事になってくると思いますので、そういうことを授業でも普段意識してやっています。

山脇学園中学校 イングリッシュアイランド

山脇学園中学校 イングリッシュアイランド

インタビュー1/3

山脇学園中学校
山脇学園中学校1903年に山脇玄、山脇房子夫妻により牛込白銀町に設立された。3年後には赤坂檜町に新校舎を建設し、移転とともに高等女子實脩学校となった。1908年には高等女学校令にあわせて山脇高等女学校と改称し、1935年には東洋一の女学校の校舎と称された白亜の新校舎を、現在の地である赤坂の丹後町に建設、移転した。
初代校長山脇房子は、建学の精神を「高い教養とマナーを身につけた女性の育成」とした。創設当時、明治という時代の中にあって、「良妻賢母」が女子教育の目標とされることが多い中、夫妻の理想は、欧米諸国のレディに見劣りしない教養ある女性を育成することにあった。2023年で創立120周年を迎え、豊かな教養と高い人間性を育む伝統の継承と、未来社会で活躍する力の育成をめざしている。
国際社会で活躍する志と資質を育成する「イングリッシュアイランド」、科学を通じて社会に貢献する志を育てる「サイエンスアイランド」、蔵書を収納する書架に加え、グループワークやプレゼンエリアを備えた探究活動の拠点となる「ラーニングフォレスト」のほか、最大300の自習席を配置した「セルフスタディアイランド」など、施設も充実している。これらの施設も活用し、人文・社会・自然の各分野の視点を融合した「総合知」をコンセプトに、探究活動や教科横断型授業で、社会で活用できる実学的な学びを実施している。
中学1年では「琴」、中学2年で「礼法」、中学3年で「華道」を習う。ダンスは体育とは別で6年間必修である。体育祭で踊る、中学3年の「メイポールダンス」と高校3年の「ペルシャの市場にて」は、山脇学園の伝統となっている。