出題校にインタビュー!
神奈川学園中学校
2022年05月掲載
神奈川学園中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
2.生徒の日常生活につながる、役立つ社会科学習を模索していきたい。
インタビュー2/3
中1では世界の歴史と地理を学習する
授業で工夫していることはありますか。
小川先生 オリジナルのテキストや自作プリントがあります。オリジナルのテキストを主に使うのは中学1年生です。本校の社会科では、世界の歴史と地理を学習するところからスタートします。教科書がないので、過去にどんな人がいたのか、世界にはどんな風土があるのか。そういうことを知ってもらうために、冊子が必要であろうということで大先輩が手作りしました。我々はその遺産を継承し、最近の「問いを大事にする」内容に変えていくなどテキストの内容を少しずつ継ぎ足し、毎年手直しをして使っています。最近変わってきている項目については、プリントを作成して配布しています。ここ2年、オンラインによる授業が多かったので、各担当者が作っている教材(スライド)にも現在の社会の動きが反映されていました。
木村先生 プリントも結構引き継いで使っています。1つにまとめるとテキストになるくらい、内容が充実しています。
神奈川学園中学校 テキスト
独自教材に、今、社会で起きているトピックを織り交ぜる
小川先生 私は昨年度、中3の公民分野を担当していました。この新聞スクラップはEUが脱炭素を目指す中で、脱炭素電源に原発を入れるのか、入れないのか、争点になっているということを取り上げた記事で、生徒が持ち寄ったものです。ちょうどこの時の公民分野は日本の政治課題の事例をいくつかあげて、最後に模擬投票をしました。
コンテンツは毎年変わります。例えば、プリントのなかでエネルギー問題におけるグレタさん(スウェーデンの環境活動家)の危機をトピックとして取り上げながら、日本のエネルギーについて考える、という取り組みをしたこともあります。加えて、生徒が毎週1記事ずつ持ち寄る新聞スクラップが教材になったりすることもあります。
中3の公民では批判的に物事を見る。他の立場から物事を見る。論争的なことに対して意見を表明する。そういうことを経験する時期だと思っています。ですから、日常生活と新聞などで報じられていることを結びつけて、授業で極力考える時間を作ってあげる、ということを大切にしています。
社会科/小川 輝光先生
2021年衆議院議員選挙と同時期に模擬投票を実施
小川先生 2021年度は選挙と授業を連動させやすかったです。中3の公民が始まる時期に衆議院議員選挙が重なったので、模擬投票を行いました。2回行うことができたので深まりました。
木村先生 衆議院議員選挙の投票日の前に、同じアルミの投票箱を置いて、全校生徒に投票を促しました。「自由参加」と言いつつ、壁にオリジナルポスターを貼ったり、私の授業では「投票しますよね」と、念を押したりしましたが…(笑)。自由参加で行ったので、40%いくかいかないかの得票率でした。それが高いと言えるのか、言えないのかで意見は分かれましたが、きちんと考えて投票する生徒もいて、やってよかったと感じています。開票作業もおもしろかったです。私が担当している高2の授業内で開票作業を行いました。「ドント式の練習だよ」と声をかけると、きちんとやります。結果は、本校のある選挙区とほぼ同じ結果でした。ただ、女性議員の得票の高さが目立ちました。女子校だからかもしれません。そういうことから、今回の衆議院議員選挙は社会の縮図になったのかなと感じています。
小川先生 中3は選挙が初めてなので、政党を知らない、与党・野党も知らない状態でしたが、とにかく「有権者になります」ということで、取り組んでもらいました。投票率は高校生と比べると高くはなかったですが、選挙のやり方はいろいろあります。「政策をこう考えればいいんだ」と、腑に落ちた体験になったと思います。本来、投票よりも、投票と投票の間にある日常のほうが重要なので、こうした体験や学びから社会の変化に関心をもち、理解を深めてくれればいいと思っています。
投票体験が日常につながる学びになることが大事
模擬投票は社会科で行ったのですか。
木村先生 社会科の企画ではありますが、職員会議などで出して、社会科以外の先生にも周知し、廊下などを使わせてもらって行いました。
小川先生 野望としては、生徒主体の活動にシフトしたいと思っているので、生徒会の担当者や社会科の中ではそういった話をしているのですが、校内の選挙管理委員が選出される時期とマッチしないため、まだ実現していません。
木村先生 社会科のなかで共有しているのは、「選挙を1回だけで終わらせない」ということです。お祭りのように実施して、「なんか体験したね」という形で生徒に残るよりは、何度かやって、「行ける時と行けない時があったけど、行ける時には行こうか」という意識につながってくれたほうが意味は大きいと思っています。1回の選挙で、社会が大きく変わるわけではないからです。もしかすると、そういうことも問題意識として入試問題に反映されているかもしれません。
小川先生 高1のフィールドワークでは、沖縄方面で基地や戦争に関する問題を、水俣方面では環境や公害の問題など、社会が解決できていない、いわば「生」の問題を現場で学びます。現場に立って体験的に学ぶということも社会科が重視していることの1つです。現在は、教員が考えて教材を提起していますが、今後は生徒が主体的に社会とかかわり、それが教材となっていくような機会を増やしていきたいと思っています。
神奈川学園中学校 図書館
マーシャル諸島の同世代とつながり、社会へ踏み出す
小川先生 中3の生徒たちは、中1の時に第五福竜丸展示館に出かけました。そこで核やビキニ事件などについて学びました。その時に、全員が同じ絵本を読みました。ロンゲラップ島というビキニ事件が起きた島のお話で被爆後、離島し、故郷に帰りたくても帰れない現地の人たちを撮影して絵本にしたものです。それをきっかけにマーシャル諸島にある現地の中学生と文通を始めて3年になります。細々と続いていましたが、今はオンラインでつながることができるようになって話ができました。向こうの生徒はアニメが好きで、日本語を勉強しています。きっかけは授業でしたが、有志でウクライナ危機のなかで戦争を止めたいと活動している高校生や、核禁止条約に関する活動をしている高校生とオンラインでつながり、活動報告をしました。中3の最後に彼女たちが「英語が話したかった」「社会的な問題にかかわりたかった」「海外の人とつながりたかった」…等、一人ひとりがこのプロジェクトに参加した理由を堂々と話すことができました。授業の枠を超えて、実際の社会に入って同世代とつながるということが、もっとできるといいなと思っています。
木村先生 こういった経験はすぐに結果がでるというものではなくて、高校でより深い学びをした時や進路や将来を考える時などに生きてくると思っています。
小川先生 このプロジェクトに参加した1人は演劇部なのですが、先日「劇でビキニ事件をやりたい」と言っていました。学校にすでにあるものを有効活用して、新しい文化を作る。それは社会にある「陳情」などの制度をどう活用するか、というところにもつながると思うのですが、生徒とともに学校を作るという意識をもって日々取り組んでいます。
インタビュー2/3