シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

昭和女子大学附属昭和中学校

2022年05月掲載

昭和女子大学附属昭和中学校【算数】

2022年 昭和女子大学附属昭和中学校入試問題より

昭子さんと和子さん2人の会話文を読み、次の問いに答えなさい。

昭子さん「今日の算数は倍数と約数の授業ね。」
和子さん「教科書を読んでみよう。」
昭子さん「『倍数』と『公倍数』という言葉が書いてあるわね。」
和子さん「『公倍数』の中には『最小公倍数』というものもあるのね。けれども、『最大公倍数』はどこにも書いてないわね。」
昭子さん「なぜだろう。」
和子さん「次のページには『約数』と『公約数』という言葉が書いてあるわ。」
昭子さん「そうね。『公約数』の中には『最大公約数』というものがあるみたい。でも、『最小公約数』はどこにも書いてないわね。」

(問1)下線部アについて、『最大公倍数』はなぜ教科書に書いてなかったと考えられますか。あなたの考えを書きなさい

(問2)下線部イについて、『最小公約数』はなぜ教科書に書いてなかったと考えられますか。あなたの考えを書きなさい。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この昭和女子大学附属昭和中学校の算数の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答例

(1)公倍数はいくらでも大きな数を考えることができてしまうから。

(2)どの整数も必ず1を約数にもつため、最小公約数はどんな整数どうしでも1になってしまい、その複数の数に共通する特徴を表す意味がないから。

解説

(1)例えば、2の倍数は2、4、6、8、10、…とどこまでも大きくなるように、倍数はいくらでも大きくすることができます。よって、公倍数もいくらでも大きくすることができ、公倍数の最大を決めることができません。ですから「最大公倍数」という言葉は使われません。

(2)例えば、8の約数は1、2、4、8で、12の約数が1、2、3、4、6、12といったように、どんな整数でも必ず1を約数にもっています。よって、どのような2つ以上の整数においても必ず公約数の中に1が含まれるため、最小公約数は1と決まります。
どのような数においても最小公約数は1と決まるため、最小公約数からはその2つ以上の数独自の共通点や特徴をつかむことができません。よって、最小公約数を探る意味がないと考えられます。
(参考)例えば、8と12の公約数には2、4が含まれることから、8と12はそれぞれ2や4の倍数であるという共通点が見えます。

日能研がこの問題を選んだ理由

この問題では『最小公約数』『最大公倍数』という、子どもたちが普段目にしないであろう用語について考えていきます。「え!? 最小公約数!? 最大公倍数!? そんな言葉はないよ!?」そんな声が実際に入試を受けた子どもたちから聞こえてきそうです。

子どもたちは『最大公約数』『最小公倍数』を、当たり前の知識として知っています。しかし、あえて教科書に書かれていない『最小公約数』『最大公倍数』という言葉と向き合うことで、子ども自身が“当たり前”から飛び出して、「最小公約数って何だろう?」「最大公倍数って何だろう?」と考え、新しい気づきに出あっていくことができます。
また、この問題では「なぜ教科書に書いてなかったと考えられますか。」と問うています。「それは何か?」を考えるだけでなく、さらにもう一歩踏み込んで、これらの言葉が書かれない理由を探ってみることで、『最大公約数』『最小公倍数』の役割に気づいたり、“どこまでも続く”という無限の概念や“1”の特殊性を感じたりする機会が生まれます。この問題を通して、数の世界の探求を誘っているといえそうです。

この問題に取り組むことで、これから学ぶ様々なことについて、ただ知識として身につけていくのではなく、どんな意味があるのか、なぜそれが言葉として存在するのか、と自分で問いを立てながら学び進んでほしい、という学校の先生方の想いが伝わってきます。

このような理由から、日能研ではこの問題を『シカクいアタマをマルくする。』シリーズに選ぶことにしました。