シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

巣鴨中学校

2022年04月掲載

巣鴨中学校【国語】

2022年 巣鴨中学校入試問題より

次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。

ハリガネムシが宿主昆虫を水に向かわせることは、かなり昔からわかっていました。しかし、どんな方法で宿主の行動を操っているのかは謎(なぞ)でした。いまだにそのほとんどは謎ですが、2002年にフランスの研究チームがその方法の一部を明らかにすることに成功しました。
★その研究ではY字で分岐(ぶんき)する道を作り、出口に水を置いてある道と、出口に水がない道の枝分かれを作っておきます。その道をハリガネムシに寄生されたコオロギと、寄生されていないコオロギを歩かせます。
そうすると、寄生されているコオロギも、寄生されていないコオロギも、水のある方にもない方にも半々に行きます。つまり、寄生されているからといって水に向かう性質があるわけではないのです。
しかし、たまたま水がある出口に出てきたところで行動が変化します。寄生されていないコオロギは水がある出口に出たとしても泳げないため、飛び込んだりはせず、ここで止まります。しかし、ハリガネムシに寄生されているコオロギは、水を見るや否(いな)やほぼ100パーセント水に飛び込んでしまいます。
この結果を見た研究者たちは、出口に置かれた水のキラキラした反射にコオロギが反応しているのではないかと予測します。そこで、次に、水は置かずに、単純に光に反応するかという実験もおこなっています。その結果、寄生されたコオロギはその光に反応する行動が見られました。★

(成田聡子『えげつない!寄生生物』新潮社)

(問)次の表は、★から★までの文章で説明される実験にもとづいて、ハリガネムシに寄生されたコオロギ10匹と寄生されていないコオロギ10匹を用意した場合に予測できるであろう結果をまとめたものです。これについて、次の①〜③の問いに答えなさい。

寄生されたコオロギ(10匹) 寄生されていないコオロギ(10匹)
出口に水がある道に進む
[A]匹
出口に水がない道に進む
[B]匹
出口に水がある道に進む
[C]匹
出口に水がない道に進む
[D]匹
水に飛び込む
[E]匹
  水に飛び込む
[F]匹
 

①予測できるであろう結果にふさわしくなるように、A〜Fに0・5・10のいずれかの数字を答えなさい。

②A〜Dの結果から、どういうことが分かりますか。その答えとなる一文を本文中から探し、初めの五字をぬき出して答えなさい。

③E〜Fの結果から、寄生されたコオロギについて、どういう仮説が立てられますか。「という仮説」につながる言葉を、本文中から三十五字以内で探し、ぬき出して答えなさい。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この巣鴨中学校の国語の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答例

①A:5 B:5 C:5 D:5 E:5 F:0
②つまり、奇
③出口に置かれた水のキラキラした反射にコオロギが反応しているのではないか(という仮説)

解説

①「★から★までの文章で説明される実験にもとづいて」とあるので、指定された範囲で提示される情報を読んでいきます。すると、「出口に水を置いてある道と、出口に水がない道の枝分かれを作(る)」と、「寄生されているコオロギも、寄生されていないコオロギも、水のある方にもない方にも半々に行(く)」と書かれています。ここから、A~Dには5が入ることがわかります。さらに、「水がある出口に出てきたところ」では、寄生されていないコオロギは止まるのに対し、寄生されているコオロギは「ほぼ100パーセント水に飛び込んでしま(う)」ことがわかります。
ここから、Eには5が、Fには0が入ることがわかります。

②A~Dは、「寄生されているコオロギも、寄生されていないコオロギも、水のある方にもない方にも半々に行(く)」という事実をもとに解答しました。ここからわかるのは、寄生されているかいないかで、水に向かうかどうかが決まるわけではない、ということです。

③「水がある出口に出てきたところ」で行動が変化するということは、そこで見えるものに対してコオロギが反応していると考えることができます。

日能研がこの問題を選んだ理由

文章に書かれている生き物の生態をていねいに読み取り、設問の条件にそって表に整理していく問題です。文章中に書かれている研究内容について、どのような条件下でどのような結果が得られるのかを正確に理解していくことが必要です。これからこの問題を目にする子どもたちにとって、「文字情報を正確に理解する」とはどういうことなのかを考える機会になるのではないかと考えます。

また、世の中では、SDGs(持続可能な開発目標)を掲げ、17の目標の達成に向けて世界的な努力が続けられています。なかでも、SDGsの目標6「安全な水とトイレを世界中に」では、水が地球上を循環するものであることから、河川や海に代表される、水における生態系の保護や回復が重要視されています。目標の達成を考えるうえで、私たち一人ひとりが、問題意識を持って行動することが求められています。

本問は、上記の問題意識を、子どもたちに喚起するだけでなく、「国語は文字を読んで文字で答えるものだ」という旧来の出題形式を越えて、文章から読み取った情報を表に整理しながら、文章内容に対する理解を深めていく過程を、子どもたちが体験できるようになっています。入学試験問題でありながらも、子どもたちの興味関心を刺激しながら、入学後の学びにいざなう内容でもあると考えます。

このような理由から、日能研ではこの問題を『シカクいアタマをマルくする。』シリーズに選ぶことにしました。