シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

淑徳与野中学校

2022年03月掲載

淑徳与野中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

2.体験する機会が豊富な中学時代。それが自分らしい未来を築く土台となる

インタビュー2/3

歴史の授業では現代の話題とつなげる

過去と現代のつながりを生徒にどう伝えていますか?

髙橋先生 行事としての機会はあまりないのですが、地理にしても歴史にしても公民にしても、時事ネタは授業の中でよく話します。歴史では「だからつながっているんだよ」と話すと、「そうか」と納得します。興味関心はあると思います。

伊藤先生 歴史で過去を学んでいても現代につながるものがたくさんありますので、教科の中でつなげるということもしています。

入試問題を作成する上で、あるいは社会科に興味を持たせるために、どんなところにアンテナを張っていますか。

伊藤先生 私は月曜日のホームルームで、週末のニュースを必ず話題にしています。教科(世界史)の中では、日本の伝統文化だと思っていたものがインド、イラン、ギリシャ・ローマとすごくつながっていて、そうした話が、生徒の興味関心を引き出します。

髙橋先生 私は今、日本史を担当しています。授業で取り上げる内容は、身近に感じることが大切で、現代で話題になっているものや、身近なものを取り上げることが多いです。中学社会も担当しているので、そちらで公民を教える際も同様です。そこは必ず意識しています。

社会科/高橋 えり先生

社会科/高橋 えり先生

1方向からの視点を広げたい

髙橋先生 明治時代の経済や産業を話す際には、深い歴史や地理的な話題も入れつつ話をします。こういう視点もあるよ、ということを伝えたいからです。そういうネタ探しも常々やっています。

多角的な視点の獲得にも力を入れているのですね。

髙橋先生 教科書や歴史書はその人の視点で描かれているので、違う立場にも目を向けさせる、ということを意識しています。例えば明治時代は、政府がこれをしたというように、政府側の目線で語られることが多いんですね。一揆にしても、起こした側に理由があるはずなのですが、そこはあまり触れられていないため、政府の政策が農民に与える影響を考えさせて、説明させる、ということをしています。日本と世界の歴史的なつながりも話すことが多いです。

デジタルでも複数の情報から答えを導き出す使い方が大事

髙橋先生 デジタルの時代ですので、動画も活用しています。NHKが提供している動画「NHK for School」をはじめ、自治体や博物館など公共の施設が提供している動画を使いながら授業を組み立てています。中学生は視覚教材への食いつきがいいので、効果も結構高いのではないかと思っています。

伊藤先生 2021年度入学生から全員が自分のタブレットを持っています。それを生かせるように、社会科の中でも授業を進化させていかなければいけないと考えています。ペーパーレスも目指そうということで、「資料はタブレットにアップしているから見てね」と言って授業を進めています。一方で、長時間タブレットを見ているとドライアイになるなど、中学生には影響が大きいので、やりすぎないことも大事なのではないかと話しています。

髙橋先生 タブレットの使い方には、いろいろな情報があります。答えがそこにあるので「デジタル化により思考力が落ちた」という話もあります。最初の話に戻りますが、学習機材がデジタルであっても、複数の情報から答えを導き出す、というような使い方をすることが大事なのではないかと思います。

淑徳与野高等学校 理科室

淑徳与野高等学校 理科室

多様な文化やライフスタイルを学ぶ台湾研修

先ほど、「失われた言葉やライフスタイルを、入学後に伝えていく」とおっしゃっていましたが、どのように行っているのでしょうか。

伊藤先生 体験する機会がたくさんありますから、その中で学んでいきます。例えば、中学の海外研修(中2)では台湾の姉妹校に行きます。ここ2年、コロナの影響で行くことができていませんが、本校の特色の一つです。同じアジア圏なので箸を使います。お茶もいろいろな種類があります。多様な文化やライフスタイルを知る糸口になりますし、茶道部もあるので文化交流もできます。

髙橋先生 本校の国際教育の特色として、高校のアメリカ修学旅行(シアトル・オレゴン/高2)がありますが、中学校では、台湾に海外研修に行きます。高校で海外研修をする学校は多いかもしれませんが、中学校で台湾に行く学校は多くないと思います。

伊藤先生 台湾に行く前には、事前学習を行います。学んでから行って、自分の目で見る、という流れです。社会科と総合学習が連動しています。

髙橋先生 中高一貫生は2年生の海外研修でアジアから日本を見ます。3年生の京都・奈良修学旅行で国の始まりを見ます。そして高校ではアメリカ修学旅行で海外から日本を見ます。そういうさまざまな視点から、日本や世界を見ることができる実践の場が、数多く設けられています。

伊藤先生 アメリカ修学旅行ではホームステイします。ホストファミリーには、アフリカ系の方、ヨーロッパ系の方…、いろいろいらして、それがすごい文化体験になります。西海岸なので治安がいいですし、日系人の方がすごく地域の信頼を得ていて、協力を名乗り出てくださる公立学校が結構あります。おそらく皆さんが寄付をなさったり、図書館を建てたりしていて、このホームステイ研修もそういう日本人の方々の歴史の上に成り立っています。

淑徳与野中学・高等学校 シアター

淑徳与野中学・高等学校 シアター

自分の意見を発するディベートは小論文への準備

髙橋先生 夏休みに中学生が参加できる講座が設けられ、そこでディスカッションやディベートを行います。今年度は地理と歴史を融合してハザードマップを作りました。観光パンフレットを作った年もあります。

中学生のうちからさまざまな経験ができるのはいいですね。

髙橋先生 中3の公民の授業は回数を多めに設けていますので、中学の公民で終わらず、国際問題の背景まで学びます。教科書に載っている題材ではあるのですが、みんなで国際会議を開催した年もありました。A国、B国のように分かれてもらい、問題解決のためにはどういう条約を結ぼうか、というように、模擬国連のような形で行いました。

難しくないですか。

髙橋先生 国語でもディベートをやっているので、生徒たちはすぐに順応します。

伊藤先生 学年行事として、クラス対抗でディベートを行うこともあります。論題は現代的なテーマです。小論文につなぐことを目的としています。

髙橋先生 小論文にしても議論にしても、そこで書いたり話したりする時に自分の言葉に落とし込む必要があります。その作業をさせる機会を、数多く設けることが大事であると思っています。

知識を活かす力を養うことが大切

社会科の授業で意識していることを教えてください。

伊藤先生 「社会科は暗記科目ではなくて、背景や内容を理解する科目だよ」というのが口癖ですね。

髙橋先生 社会科は知識量が多い科目なので、よく「暗記」「暗記」と言われるのですが、「それは勘違いだよね」と言いたいです。大学受験を考えると、共通テストなどは暗記ではとても太刀打ちできません。知識を蓄えるのは大前提とした上で、それをどう活かすか。思考する、表現する、というところを大事にしていきたいなと思っています。

そのためにも体験することが大切なのですね。

髙橋先生 大人が当たり前に思っていることを、生徒は意外と知りません。以前、中学公民でテロの話が出てきた時に、9.11(アメリカ同時多発テロ)の話もしました。映像を見せると「ここまでのものとは知らなかった」と話す生徒や、そこで平和への意識を高めた生徒がたくさんいました。医者希望から変わって「平和に関する国際活動がしたい」と言っていた生徒もいました。私たちが当たり前だと思っていることが、当たり前ではないことを自覚しなければいけないですし、改めて伝えたり体験させたりしなければいけない、と感じました。

淑徳与野中学校 校舎内

淑徳与野中学校 校舎内

建学の時代を想像させる校長先生の講話

伊藤先生 アジアや欧米など世界8カ国に姉妹校があります。こちらから行くだけでなく、姉妹校からもたくさんの留学生が来てくれますので、そういう体験から興味を持つ生徒もいます。
修学旅行などの行き先も、今年はコロナ禍のために国内になっていますが、行事の前には必ず社会科の教員が出向いて、社会科的な背景や歴史、文化などをレクチャーします。沖縄では琉球史や、沖縄戦の話などを学んでから行きます。

髙橋先生 中1と高1の最初の宿泊行事としてオリエンテーション合宿(山梨)と山の教室(長野)があります。その際に必ず校長から「建学の精神」の話があります。校祖の輪島聞声先生がどのように本校の礎を築いて、どのように現在につながってきたかをペリー来航あたりから語り始めるのですが、その中には戊辰戦争や北前船、能登半島の輪島の話など、歴史的な視点や地理的な視点も含まれていて、いろいろなことがつながって今があることを実感できます。これぞ社会科的な視点といえる話で、生徒も興味深く聞いています。

インタビュー2/3

淑徳与野中学校
淑徳与野中学校1892(明治25)年に輪島聞声により淑徳女学校が開設。1946(昭和21)年に淑徳女学校第8代校長・長谷川良信により与野町に淑徳女子農芸専門学校と淑徳高等女学校与野分校が設立。48年に現校名となり、2005(平成17)年に中学校を開校。2015年高校校舎を中学隣接地に移転。
中学校舎は、「自然との共生」をテーマにしており、風力発電やエコガーデンを組み込むなど環境にも配慮。吹き抜けがある玄関、南向きの窓から太陽光がたくさん入る普通教室、和室や特別教室、体育館、運動場など最新鋭の設備が整う。
「仏教主義に基づく心の教育」「21世紀を生きていくための国際教育」「生徒の個性を伸ばし、難関大学進学の希望をかなえる進学指導」など、埼玉県トップレベルの女子進学校・淑徳与野高校で培われた指導方針を継承する。校訓は「清純・礼節・敬虔」。「淑徳の時間」の中での宗教の授業、宗教行事などを通じ「常に感謝の気持ちを忘れないで生きていく」という心の教育を実践する。
内進生は原則として外進生とは別クラスで国公立・難関大学現役合格を目指す。高2・高3では文系・理系に分かれ目標大学に応じた指導を展開。中1から夏季・冬季特別指導、進学講座など、塾に通わなくても大学受験に対応できる体制が整っている。また、学習サポートと呼ばれる指名制の面談は各教科で実施。論文作成など「書く」機会を多く設定し、思考力を育てている。英語のテキストは『ニュートレジャー』を使用。授業は週5日制、隔週土曜日は中国語入門などの土曜講座を開講する。
学期制でなく、1年間を5つに分けた「5ステージ通年制」で学校生活を進めるのが特色。「適応・挑戦・確立・変革・未来」と各ステージで目標を定め、学習も行事も集中して取り組む。行事はオリエンテーション合宿、文化祭、芸術鑑賞会、花まつり、み魂まつりなど各ステージに合わせて行われている。韓国、タイ、台湾、イギリス、アメリカ、オーストラリアに姉妹校・提携校をもち、中2全員参加の台湾海外研修、高2アメリカ・オレゴン修学旅行のほか、長期・短期の留学なども用意。中3の修学旅行は京都・奈良で、日本文化への理解も深める。クラブ活動は剣道、バトン、サッカー、吹奏楽などが活躍。