シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

淑徳与野中学校

2022年03月掲載

淑徳与野中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.複数の資料から情報を読み取り、考えを言葉にする論述問題

インタビュー1/3

歴史、地理で1問ずつ論述問題を出題

この問題の出題意図からお話いただけますか。

伊藤先生 本校の入試は理科50点、社会50点です。50点で25問などという単純な構成ではなくて、語句や正誤を答える問題のほかに、理解している内容を文章で表現できるかを問う論述問題を、歴史、地理で1問ずつ、計2問を必ず出題しています。

髙橋先生 長い間、論述問題を出題していますが、大学入学共通テストで思考力がより問われるようになったことを受けて、本校の入試問題も思考力や読解力を必要とする問題に移行しています。

伊藤先生 作問の担当者は、論述問題のテーマについて早くから深く悩みつつ、考え抜いて問題を作っています。以前は論述問題の配点を低く設定していましたが、論述問題をスルーして、ただ点数を取ればいいという指導をしている塾が過去にあり、1問5点としました。それに伴い、内容も複数の資料から情報を読み取り、考えて答える問題に変わってきています。

髙橋先生 情報は1つのデータからつかみきれるものではないと思います。複数のデータからつかむものです。ですから複数のデータを使って作問することを心がけています。入試の場でも「つなぐ力」を見たいと思っています。今回の問題では統計、表、図を用いました。例えば表ではこういうことが言える。加えて、図でも同じことが言えるからこれでいいんだ、という思考をしてほしいのです。

社会科/伊藤 もゆる先生

社会科/伊藤 もゆる先生

データを見てしっかり考えて解ける問題になった

伊藤先生 今回の論述問題は、お茶の問題と貨幣の改鋳の問題でした。高齢化や国際社会の影響などにより、日本の産業は大きく変わりつつあります。お茶の問題は、「茶をめぐる情勢」(農林水産省)という資料を手にしたことが作問のきっかけでした。

その資料にはいろいろな情報が掲載されています。下記は一例です。
・ペットボトル飲料が非常に伸びている
・以前は茶葉をお茶屋さんで買ったが、今はコンビニやスーパーで買うことが多い
・カテキンが体にいい
・お茶自体の消費は伸びている。
・農家では一番茶の減産による収入減が続いている
・世代別の消費量 など

すべてが興味深く、いろいろな原案を作りました。なかなかまとまらず、実は最後まで検討が続いた問題でした。教科内でずいぶん検討し、最終的に「価格と消費でいきましょう」ということになりました。

急須の絵があるのでわかりやすいですよね。

伊藤先生 一番茶だけが急須でお茶を入れる茶葉であることを、言葉で説明するだけでいいのか、という疑問が生まれた時に、「急須の絵を出せば?」というアイデアが出て、「それだ!」ということになりました。

髙橋先生 伝統産業でありながらも、状況が大きく変わりつつあるお茶について、データを見てしっかり考えて解ける問題になったと思います。

淑徳与野中学校 校舎

淑徳与野中学校 校舎

急須でお茶を入れない家庭が増えている

伊藤先生 今の子どもたちは「急須」という言葉を知らないんですね。おそらく急須でお茶を入れないご家庭も多いのだと思います。ただ、お客様が来た時にはお茶を入れる機会もあるでしょう。おじいちゃん、おばあちゃんの暮らしに触れれば目にする機会もあると思いますから、日常を観察している受験生はわかったと思います。

小5の生徒たちにこの問題の話をしたら、「お茶は飲むけど、ティーパックで入れている」という子がいました。

伊藤先生 そういう時代ですよね。「急須」を知らない受験生が思っていた以上に多かったです。「ポット」と書いていた受験生がいました。「お茶を入れる」という言葉自体もわからなかったようで、「お湯で作る」と書いていた受験生がいました。ライフスタイルが変わると言葉も失われるということが、書かせることによってわかりました。ですから入学後に、ライフスタイルや言葉を伝えていかなければいけないなと思いました。

身近なニュースや生活にかかわる題材を意識

伊藤先生 解答で目立ったのは、価格とお茶の入れ方のつながりを読み取れている人と、読み取れていない人が、はっきり分かれていたことです。

髙橋先生 たしかにこの問題は、一番茶のことだけ、あるいは三、四番茶のことだけ、つまり片方しか書けていない受験生が多かったです。ですから△ばかりが並びました。

伊藤先生 完全解答の人はそんなに多くなかったですね。5点満点なので、2点、3点の人が多かったです。

身近な生活とデータの組み合わせ、というところは、普段から意識されているのですか。

伊藤先生 はい。女子校なので、女性がかかわる問題なども取り上げるようにしています。しかも、身近なニュースや生活に直接かかわるような題材を、入試問題を構成する上でいくつか入れたい、ということは、教科内で共有していることの一つです。

髙橋先生 やはり社会科は、世の中というか、自分の身近なところを見る教科なので、そういう題材を選ぶようにしています。

淑徳与野中学・高等学校 利行堂

淑徳与野中学・高等学校 利行堂

多様な力を問える入試問題にしたい

社会科の入試問題全体についてお話いただけますか。

伊藤先生 歴史的分野、地理的分野、公民的分野に分かれていますが、必ず融合問題を作成しています。その中で、漢字も含めて語句がきちんと書けているか、内容をきちんと理解しているか、を確認します。また、暗記だけでは解けない文章整合問題もバランスよく出題しています。写真、図、グラフなどから読み取り、考える問題も出したいということで、入試のために自分で歩いて写真を撮ってくる教員もいます。

髙橋先生 入試問題は、教科からの最初のメッセージという意味合いがありますので、入試問題も多様な力を問える問題構成にしたいと思っています。
公民分野には論述問題がありませんので、代わりに、資料をしっかり読んで答える問題を必ず出題するようにしています。地形図なども毎回出しています。グラフだけでなく図版からもいろいろなことが読み取れる、ということを、入試を通して感じてもらいたいからです。時事問題も多めです。

伊藤先生 世界地理的な問題もあります。今回はクーデターでニュースになったミャンマーを取り上げました。

髙橋先生 身の回りだけではなくて、世界で起きていることにも目を向けてほしいという意図があります。昨年は難民問題を出しました。ノートルダム寺院の火事を題材にした年もあります。

淑徳与野中学校 制服

淑徳与野中学校 制服

インタビュー1/3

淑徳与野中学校
淑徳与野中学校1892(明治25)年に輪島聞声により淑徳女学校が開設。1946(昭和21)年に淑徳女学校第8代校長・長谷川良信により与野町に淑徳女子農芸専門学校と淑徳高等女学校与野分校が設立。48年に現校名となり、2005(平成17)年に中学校を開校。2015年高校校舎を中学隣接地に移転。
中学校舎は、「自然との共生」をテーマにしており、風力発電やエコガーデンを組み込むなど環境にも配慮。吹き抜けがある玄関、南向きの窓から太陽光がたくさん入る普通教室、和室や特別教室、体育館、運動場など最新鋭の設備が整う。
「仏教主義に基づく心の教育」「21世紀を生きていくための国際教育」「生徒の個性を伸ばし、難関大学進学の希望をかなえる進学指導」など、埼玉県トップレベルの女子進学校・淑徳与野高校で培われた指導方針を継承する。校訓は「清純・礼節・敬虔」。「淑徳の時間」の中での宗教の授業、宗教行事などを通じ「常に感謝の気持ちを忘れないで生きていく」という心の教育を実践する。
内進生は原則として外進生とは別クラスで国公立・難関大学現役合格を目指す。高2・高3では文系・理系に分かれ目標大学に応じた指導を展開。中1から夏季・冬季特別指導、進学講座など、塾に通わなくても大学受験に対応できる体制が整っている。また、学習サポートと呼ばれる指名制の面談は各教科で実施。論文作成など「書く」機会を多く設定し、思考力を育てている。英語のテキストは『ニュートレジャー』を使用。授業は週5日制、隔週土曜日は中国語入門などの土曜講座を開講する。
学期制でなく、1年間を5つに分けた「5ステージ通年制」で学校生活を進めるのが特色。「適応・挑戦・確立・変革・未来」と各ステージで目標を定め、学習も行事も集中して取り組む。行事はオリエンテーション合宿、文化祭、芸術鑑賞会、花まつり、み魂まつりなど各ステージに合わせて行われている。韓国、タイ、台湾、イギリス、アメリカ、オーストラリアに姉妹校・提携校をもち、中2全員参加の台湾海外研修、高2アメリカ・オレゴン修学旅行のほか、長期・短期の留学なども用意。中3の修学旅行は京都・奈良で、日本文化への理解も深める。クラブ活動は剣道、バトン、サッカー、吹奏楽などが活躍。