シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

桜美林中学校

2022年02月掲載

桜美林中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

2.社会に出た時の「生きる力」を身に付けさせる社会科教育

インタビュー2/3

次に授業のお話に移りますが、桜美林中学の社会科授業の特徴があればお話しいただけますか?

高下先生 教員側からの一方通行になるのではなく、知識や情報を与えたらそれに対して自分の考えを持ってみよう、それを表現してみよう、という場を、限られた授業数の中でどう組み込んでいくか、というところに重点を置いています。

結構先生方は自由に授業を展開されているのですか?

森先生 桜美林中学・高等学校で働く社会科の教員は、全員、社会科が大好きで、人間としても魅力的で興味深い人たちばかりです。一人一人がとても個性的です。
フランスのナポレオンが大好きで、教員室の机にナポレオンの絵を飾っている先生もいます。また、地理が好きで、地理の話を始めると止まらなくなってしまう先生もいます。ご家族と日本の全47都道府県を踏破しようと計画している先生もいます。生徒たちがどうしたら理解を進められるか、授業の準備に時間を惜しまず取り組んでいる先生もいます。先生方が皆さん、ご自分の専門に基づいて研究を重ね、見聞を広めています。それぞれの先生が、深い知識と見識を持って取り組まれています。社会科の先生方一人一人が宝だということできると思います。

高下先生 本当は同じ社会科の教員の個性やカラーがあるのでバラバラでもいいのかもしれませんが、桜美林の中学の社会科として、どういう力を身に付けてほしいかという同意を取っています。

教科会議というよりは、教員同士が空いている時間や休み時間、放課後などに「今学期は何やりましょうか?」とか、自然発生的に学期の始めや終わりには「こんなことしてみましょうか」「こんな映像を見せてみましょう」とか、ざっくばらんに立ち話で話したり、ということを各自で行っています。

中高6年間の指導のなかで、どのような教材を使うことが多いでしょうか?

森先生 以前は歴史や地理の授業の中でボード(写真)などを用いて実際の物、事に対するイメージを膨らませ、理解を進めるような取り組みがなされていました。近年はコンピューターなどが導入され、教室でも電子黒板(ホワイトボード)が整備されています。生徒たちは一人一台の端末(中学生はクロームブック、高校生はiPad)を持っているので、クラスのみんなで同じ写真や同じ資料を同時に見ることができるようになりました。写真やグラフなどをみんなで見るだけではなく、時にはインターネットの動画なども教材として取り入れ、みんなで理解を深めていくようにしています。

また、生徒が自分で調べたものを、プレゼンテーションソフトを利用してまとめ、クラスのみんなの前で発表することも行われるようになりました。今年(2021年度)の中学3年生は、公民の授業の中で、「ニュースキャスターに挑戦」として、日々のニュースの中から自分でテーマを選び、みんなの前で発表をしています。昨年度までは紙に絵などを描いてボードにして解説することが行われていましたが、今年は、自分でスライドを作り、発表に取り組む人が増えています。コンピューターの活用が進められ、可能性が広がってきていることを感じます。

社会科主任/森 務先生

社会科主任/森 務先生

周りとの人間関係をうまく構築できる生徒を育てる

桜美林は高校から入ってくる生徒もいると思いますが、そんな中、中学から入ってくる子たちに対して、どういう風に育ってほしいと思っていますか?

高下先生 ひいき目で見ることはありませんが、せっかく中学校から入ってきた生徒には、人間性の部分で負けないでほしいな、という想いはあります。キリスト教が根底にある学校なので、コミュニケーション能力や他人を思いやる気持ちを持って、周りとうまく人間関係を構築してほしいですね。社会の授業だけでなく、礼拝などからも学べる要素は散りばめられているので、高校に入っても、そこが優れているな、という生徒になってほしいと感じます。

中学校のうちにコミュニケーション力などを身につけるために、社会科の授業でやっていることはありますか?

高下先生 他人の価値観を重んじるという点においては、教員が一方通行の授業をするのではなく、お互いが話したりプレゼンをしたり、他人の意見を受け止めたうえで自分の思いを発信したりするということができる場をつくってあげることが必要に思います。ホームルームや礼拝などでいろいろな話をする際も、いろんな価値観や文化があり、それぞれがかけがえのないものであって、それを尊重できる心の持ち主でいよう、ということが土台となった話が多いように思います。

桜美林中学校 マルチメディア室

桜美林中学校 マルチメディア室

コロナ禍では臨時プログラムでフィールドワーク対応

中学時代にフィールドワークをすることもありますか?

高下先生 コロナ前までは、中1で入学してすぐ1泊のオリエンテーションがあり、夏には長野への林間学校へ行っていました。中2も長野でのサマースクールがありました。中3では研修旅行でオーストラリアへ行っていました。この研修旅行は中1から学んでいる英語を実践したり、異文化を大切にしている国を体感したりできる貴重な場でしたが、残念ながらコロナ禍で行けなくなってしまいました。今はコロナの情勢を見ながら、修学旅行を九州に切り替えたり、日帰りで鎌倉・江ノ島にて班別行動をしてみたり、一泊で富士の自然を満喫する研修を行ったりと、臨時プログラムを開催している状態です。

社会科の授業は体験することも大事ですが、コロナでだいぶ変わりましたね。だからこそのICTなのかもしれません。

高下先生 今、中学校は3学年ともchrome bookを使っていて、高校ではiPadを使っています。今は我々大人よりも子どもたちのほうが使いこなせたりするので、高校ではICT委員として教員の中に子どもたちの有志も混ざって、一緒にルール作りを検討する活動もしています。

人として体・心を豊かにするための「教養」を

ホームページでは、音楽や美術などを「教養科目」と記載されていますが、あえて「教養」という言葉を使う意図は何かあるのでしょうか?

高下先生 一般教養といった言葉を大学でも使われたりしますが、英数国理社だけでなく、すべての授業を含めて、人として体も心も豊かになっていくための「教養」ということで捉えています。教科横断的な話は教員の中でもかなり話題になっていて、「こういう社会的・時代的背景があるからこういう音楽が作られるんだ、こういう絵が描かれるんだ」ということはあると思います。たとえば、音楽の定期試験の中に世界史で習うような用語が散りばめられていたりするとか、保健や家庭科で習う内容が社会科の授業で扱うものと関連していたりとか、すべてが繋がっていますよね。

そういう学校だからこそ、世界史や地理だけでなく理科的な視点をはじめ、幅広い視点からお話しされる先生も多いのではないでしょうか。

高下先生 桜美林高校へ進学する子たちであれば高校受験がないので、中学生にはいろいろな話はしやすいですよね。「受験があるからこれをやらなきゃ」といった縛りがないですし、「必ず教科書を全部扱わなければならない」ということもありません。教師が話してくれた話題を大人になってからも覚えていることは多々あるので、授業の中でも雑談や+アルファの話をもっと盛り込んでいきたいとは思いますね。

桜美林中学校 校舎内

桜美林中学校 校舎内

人前で話す力を身に付けるオリジナルプログラム

「ニュースキャスターに挑戦」というプログラムがありますよね?これは桜美林中学のオリジナルですか?

森先生 そうですね、これは中3の公民の授業の中で全員がやるもので、自由な話題を1つ見つけて原稿を作り自分がニュースキャスターになったつもりで1~2分でわかりやすく聞き手に伝える、という内容となります。我々が知らない内容やニュースを取り上げてくれるときもあるので、毎回楽しみにしています。

高下先生 人前で話す大事なことが、このプログラムを通して身についていくような気がします。たとえば、顔を上げて話すとか、下ばかり見て話さない、といったこととかですね。

これは2学期の途中から3学期にかけて、20日くらいかけて行います。毎回授業のはじめに少しずつやっています。1~2人ニュースキャスターをやったら、残りの時間は授業をやって、といったやり方は一貫校だからこそできることかな、と思います。調べた知識をプレゼンで表現し、聞く側もそれを受け止めて、何を伝えたかったのかを感じ取って自分の意見を持つとか、そういったところを大切にしながらやっています。

先生方が「これ面白そうだからやってみよう!」というところから企画ができている感じですね。

高下先生 そうですね。しかも今はスマホやPCで調べやすい時代ですから、それらを活用しない手はないですよね。

インタビュー2/3

桜美林中学校
桜美林中学校キリスト教の伝道師であった清水安三・郁子夫妻が、中国の北京で最初に恵まれない子女のために創立した「崇貞学園」が前身。終戦後日本に戻り、1946(昭和21)年に桜の美しい町田の地に桜美林中学校を創立した。校名はかって清水安三が学んだアメリカ、オハイオ州のオベリン大学から取ったものである。現在は、大学院までの総合学園となり、留学生も多く、多くの施設のあるキャンパスに発展している。
建学の精神は「キリスト教主義に基づいた国際人の育成」であり、他者のこころに共感し、共に生き、文化や意見の異なる人々と心を通わすことができる人格形成を目指す。新しくなったチャペルでの週一回の礼拝と毎朝のクラスでの礼拝を大切にし、一人一人が自分と向き合う時間としている。
自主的に学ぶ姿勢が身につくように、授業を大切にし、中学では学習指導部、高校では進路指導部が6年間一人一人の学習力の向上を計っている。勉強合宿、高1からのコース制、英語、国語、数学の基礎力定着のための年5回のコンテストなどを通して、各人の夢が実現する力を養っている。その結果、最近は難関大学への合格実績が大きく伸びている。併設大内部進学率は例年約10%前後。
中学3年以上の自由選択科目にコリア語、中国語の講座もある。また外国人の教員が副担任やクラブの顧問をし、英語の授業の時だけでなく、日常的に異文化に触れるような環境になっている。中学3年での「オーストラリア研修旅行」は中学での英語教育の仕上げとして全員参加である。また高校2年では「平和学習」として沖縄に行く。姉妹校のあるオーストラリア、中国,韓国をはじめとする色々な国との交流も盛んに行われている。その他にも、林間学校、サマースクール、文化祭、合唱コンクールなど行事も盛んである。
クラブ活動は中学では吹奏楽部、文化部の一部は高校と中学が合同で活動をしていて、年令の違う生徒間の親交もできている。美術部は全国レベル、吹奏楽部も都大会などで活躍。
20歳の「卒業生による成人式」では卒業生が暖かい雰囲気の桜美林に戻り、共に礼拝を持ちオビリンナーとしての絆を深めている。
大きな吹き抜けのある校舎には、元気で明るい生徒の笑い顔が今日も満ちている。